6-2「畑見張り」
学校を出たわたしはそのまま負馬橋へと直行した。
夏の間に貪欲に成長を続けた土喰いの背丈はいずれも一メートル近くに達しており、茎の太さもわたしのガチ太腿並みに育ってきている。棘座から伸びた無数の針は近づくものを拒絶するかのように、黒光りしていた。
もっとも、発芽した土喰いの全てが著しい成長を遂げたわけではなかった。本数自体は、夏休み前の三分の一程度まで減っている。わたしたちが間引いたわけではなく、生存競争の結果、そうなってしまったのだ。
――同族同士でも容赦なしよね。本当にエグい植生だわ。
八月の暑いさなか、如実にサボテンの本数が減り始めた頃に、沢本がそんなことを言っていたが、はっきり言ってわたしもそう思う。付言すると、同族に容赦のない土喰いは異種族にももちろん容赦がないようで、群生地帯には衰弱しきって枯死したヨシやらアシやらのなれの果てみたいなのがたくさん転がっている。
改めてバイオテロの片棒を担いでいることを自覚して、ぶるりと体を震わせる。この街に対する罪の意識をわたしは持ち合わせていない。我がことながら呆れてしまうが、湧き起こるこの感情の理由は、共犯者の少女に対する罪の意識と、共犯者の少女と共にいる高揚感だった。
「本人には内緒だけどな」
ひとり小さく呟いてから、わたしは「うん?」と声を上げた。意外なところに意外な人物がいるのを発見したからだった。
土喰いの群生地帯から少し離れたところにある堤防の
「またあたしより先に来てる!」
と、横合いから強烈な声が聞こえてきた。振り返ると、立っているのはもちろんわたしの共犯者だった。
「今来たばかりだし、そっちだって別に遅刻はしてないだろ」
「そういう問題じゃないし」
そう言って、共犯者――沢本遥はピンク色の綺麗な唇を尖らせる。対照的に、額も頬も鎖骨の辺りも驚くほど白い。こっちは夏休みの間、ほとんど毎日サボテン観察に付き合ってる内に、すっかり日に焼けてしまったというのに、腹立たしいことだ。
「はいはい。それじゃあ早速、観察日誌を書きに行こうか」
「必要ない。今朝のうちに一人で来て書いといたから」
「ああ、そういうこと。今日は委員会? それとも日直? どっちにしろお疲れ様」
「にっ……ああもう! そんなの、どっちでも良いでしょ! さっさと生学センターに向かうわよ!」
学校の用事で放課後の待ち合わせに遅れそうな時、沢本はいつも朝のうちに記録を済ませておくのだ。でも、そのことに触れると、こんな風にぶりぶり怒りだしてしまう。きっと、わたしの勉強時間が減ったら悪いとかそんなバカなことを本気で考えているんだと思う。
「何ぼっとしてんの! さっさと行くわよ」
沢本が早くも自転車の向きを変えて――右側通行になるので乗らずに――自転車を押し歩きはじめたので、わたしは慌てて自分の自転車のスタンドを蹴り上げた。
――そう言えば、秋田川さんは?
ほとんど駆け足で沢本の背中を追いかけながら、セイタカアワダチソウの草むらに目を向けるが、秋田川さんの姿はない。ん? どこに行ったんだ?
「早く! 早く! 信号赤になっちゃう!」
「わかった、わかったから!」
沢本がやたらと急かすので、わたしは仕方なく、秋田川さんを探すのを諦めて、横断歩道へと向かうことにしたのだった。
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