4-7「温室作り」

 ミルク成分多めのカフェオレをちびちびやってるうちに、浴室の方からドライヤーの音が聞こえてきた。


 ぼくは白いチェストの上に並べられた鉢植えのサボテンたちを眺めながら、残っていたカフェオレをぐいと飲みほした。


「お待たせしました」


 沢本はTシャツにハーフパンツというこれはこれで刺激的な格好に着替えていた。


「待つというほどでも。コーヒーご馳走様」


 ぼくがさりげなくカップを傾けて底を見せると、沢本は柔らかく笑って「よろしい」と言い、お代わりまで用意してくれた。それでやっと気がついた。今日のコーヒーはインスタントではなく、ミル付きのコーヒーメーカーで淹れた本格的なものだということに。


「これからどうするつもり?」


「これを飲んだら帰るよ。長居するわけにもいかないし」


「そう」


 それだけ言うと、沢本はスマートフォンを取り出して、ぼくに見えるようにテーブルの上に置いた。画面には天気予報アプリの雨雲レーダーが表示されている。


「さっき調べたところによると、もう三十分ほど待つと、一時的に雨脚が弱まるらしいのよ。それまでここで待つことにしたとしてもあたしは全然構わないんだけど?」


 うーん、今時珍しいクラシックなツンデレだ。とはもちろん言葉にはせず「恩に着る」とだけ言う。


「一々感謝しないの!」


 ごちそうさまです。ぼくは頬が緩むのを隠すために、コーヒーカップを口に運ぶことにした。


「あ、そうだ」


 ぼくが二杯目のコーヒーを飲み終わる頃に、沢本が立ち上がって言った。


「ちょっと一緒に来れる?」


「どこに?」


「時間潰し」


 答えになってないが、それ以上説明する気はないらしく、沢本は早くしなさいよと言わんばかりの顔でぼくを見つめてくる。やれやれ。ま、取って食われるわけでもなし、ここは素直に従っておこう。


「家主様の仰せのままに」


 ぼくが腰を上げると、沢本は居間に面した部屋の引き戸に手をかけて、勢いよく開け放った。


 十畳ほどの部屋は、本来ならば主寝室としてデザインされたものなのだろう。南側に大きな掃き出し窓があり、その反対側の壁は全面クローゼットになっていた。


 ところが床の上には、古新聞が敷き詰められていて、さらにその上に、プランターやらポット鉢やらが雨後のタケノコのごとく置いてある。もちろんそこに植えられている植物はタケノコなどではなく、すべてサボテンだ。


「土喰いの品種改悪は、この部屋でやってるの」

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