第38話

はぁ~。

こんなタメ息をつく姿も絵になる男、オレこと千尋司は今日も今日とて大変な作業にチャレンジしなければいけないようだ。


なんだかめんどくさそうな雰囲気を、この短い時間でも存分に発揮している、この男……金剛力くん。


とにかく彩夜とオレが恋人(偽装カップルだが)ということを彼に納得してもらわなくてはならない…。ならないったら、ならないのである。


このままの勢いだと無駄に話し込んでしまいそうなので、ここはクイック&パワーで無理矢理にでもこの場をまとめてしまうのが一番だ。


「……というわけで、オレが本当に彼氏で、居るかどうか疑惑があったようだけど実在しているというわけで、ではこれで」


必要最低限の言葉を金剛力くんに伝えて、そのまま彩夜の手をとり、そそくさと退散を試みる。


「ちょっと待ってください!」


……やっぱりダメかぁ。


……て言うか、いちいち声でけぇ。



「まだなにか…?」


オレは苦笑いしながら、金剛力のほうにくるり振り返る。


「さきほどから夏目さんとのやりとりを見ていましたが、この数分でも男として感心できないところが何個か見受けられました」


「は、はぁ……?そうでっか……」


「夏目さんの彼氏が、もし男として敬意をもてるような方ならば、自分も納得して夏目さんのことはすっぱり諦めて今日は帰れると思って来ましたが……どうもそういう人では無いようっすね」


……。


……なんだか話がめんどいほう、めんどいほうへと向かっている感じかビンビンにしている。


そのことを彩夜も察したのだろう、すかさず自分の彼氏(仮)へのフォローをいれる。


「いやいや、一見こんなんだけど司は普通に優しいくて頼りがいのあるいい人だよ」


一見こんな、という言葉がひっかかるが今はそのフォローに乗るしかない。

オレはその通りといわんばかりにドヤ顔を決め金剛力を無言で見つめる。

……一見こんなという言葉はひっかかるが。


「うーむ」


しかしながら、そんな彼女のフォローも甲斐なく、いまだに納得いかないといった表情で腕を組む金剛力。


「いやいやマジでマジで!…意外にここぞって時は助けてくれるし…。そうだ!それに後アレだ…!けっこう強いし!」


……なんか、なんとか褒め言葉をしぼり出してねーか彩夜さん?

オレってそんなに褒めるとこナッシングですかい?


とは言え、そんなことを気にするのは後でいい。

今はとにかくなんでもいいから金剛力にさっさと納得して帰ってほしい。この一点につきる。

彩夜の苦し紛れの援護射撃だろうがなんだろうが少しでもプラスになれば、良しとしよう。


……しかし金剛力はそんな彩夜の苦しいフォローなどほとんど受け流し、ある一言にのみ過剰に反応した。


「……『強い』?」


「……え?……うん。強い…もんね?」


強いという言葉に、静かに異様なまでの反応を見せた金剛力の圧に押されぎみの彩夜はオレに助けを求めるようにして同意を求めてきた。


仕方ねぇ……。

今さら否定して、おちゃらけキャラでいくのもめんどくせぇし、彩夜が必死でしぼりだした褒め言葉だ。

しぼりだしたとはいえせっかく人からもらった褒め言葉を拒否してやるのもなんだか嫌な感じだし……。


「……まぁそこそこには、かな?」


『強いし』に対するオレの肯定の言葉を受けて金剛力はしばし腕を組み1人でなにやら考えるだした。


「ほう……よし、ならわかりました!」


そして相変わらずのデカめな声量でひとつの答えを出したようだ。


「ならば、千尋先輩。オレと勝負してください!押忍!」


「……めんどくさ!!」


アカンアカン……あまりのめんどくささに、普段なら心の声で、とどめているようなことを思わずノンタイムで声に出して反応してしまった。


いや、それにしたってめんどくさい!

思わず声に出してしまうのもやむなしなめんどくささである。


「そういって逃げるんですか?自信がないならはっきり言ったらどうですか?」


今の今まで、この金剛力くんに対してオレは、今回の件の問題の元は金剛力くんの諦めの悪さにあるとは言えど、こちらサイドが嘘をついて彼を丸め込もうとしていることに少なからず罪悪感をもっていたので、どこかで彼に対して遠慮している部分があったのだが……。

ゴメンだけど、そろそろ金剛力がウザすぎる…。



「え…?なにどゆこと?…わたしをめぐって殴り合いとかマンガすぎでもはや逆にエモいけど、普通にリアルでそういうことするのは止めてほしいかなぁ~……ってか殴り合うのはヌマブラだけにしとけって言うかぁ…」


もはや彩夜も苦笑いをたもつので精一杯といった表情でオレたちの間にわってはいる。


「いやいや、すみません。別に喧嘩しようと言ってるわけでは無くてですね。なにか男と男の勝負をしてくださいと言ってるわけでですね。さすがにヌマブラで勝負とかは男と男の勝負に反するのでお断りですが」


オレもストリートファイトなど問答無用でお断りなのだが、どうもそういう話でも無いらしい。


つまりは、金剛力が男と男の勝負と認めた勝負であれば勝負の内容はこちらに委ねるということらしい。



いやいや……それにしても、はぁ!?

なんでそんなことせなアカンねや。


ちくしょう、まーたこんなダルダル展開かよ!

しかも今回に関しては、本編(ラブコメ)と全然関係ねーし……。


こんなわかりやすいハイリスクノンリターンは大嫌い!!



「ねぇ、司どうする?」


彩夜は困ったようにオレの服の裾をつかんでグイグイしてきている。

それを金剛力はうやらむような目で見つつもオレの返事を待っている。


掛け値無し、最悪の1日である。



そもそも本当なら、今ごろオレは……。


……ん?


フム……勝負か。


なるほど……なるほど……。



ここでオレの脳ミソがフル回転で動き出した。

ここにきて、やはりこのオレ様ってば凡人のソレとは発想の桁が違うようだ。

このクソったれな状況をひっくり返すような天才的かつ悪魔的かつ主人公的な考え、主人公的な考えがひらめいたのだ。


やっぱ、もう1回言っとこ、主人公的な考えがひらめいたのだ。


クククッ…。その手があったか。



「…良し、その勝負……」


天才らしく、たっぷりと間を持って、もったいぶる。


金剛力も彩夜も黙ったままオレの言葉の続きを待っているようだ。


つまりオレにくぎづけ。

オレのカリスマ性にくぎづけだ。


ならば君たちの期待どおり言葉の続きを話そうではないか。


「……受けよう!」

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こんなハーレムラブコメ絶対オレは認めない! @OctoBer1993

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