第39話

千尋司こと、このオレちゃんは、金剛力剛という、どう考えても出演は今回かぎりの1回のみとであろう単発キャラ感が満載であるバリバリに重要度低めの年下男子キャラの無茶ぶりでふっかけられた勝負にも心優しく快諾してしまうベストガイである。


オレは彩夜と金剛力を引き連れて、ある場所へと向かっていた。


「よし、ついたぞ」


「……ここは、」


「……なにここ?やけに和風な感じだけど」


金剛力や彩夜のリアクションなんてもんは余裕でフルシカトしてオレは、中へとツカツカと押し入って、この道場の扉の前まで向かう。


「頼もぉぉぉ!!」


そしてデカイ声とともに勢いよく扉を開け、さらに続ける。


「我こそはぁぁぁ!主人こぉ……いやいや、彼こそはぁぁぁ!金剛力剛…のお供の千尋司ぁぁ…!! この道場の道場破りに馳せ参じたぁぁぁ!!」


中にいた一同はオレの登場に驚き。

そしてオレへ、遅れて登場した主人公を見つめるよつな羨望の眼差しをむけているって感じだ。

へへへ!


もちろん道場の中にいるのは、主人公とヒロインたち。

つまりタイヨウと雨宮、西園寺先輩、ついでに野々村もいるようだ。


道場の中ではまさに稽古中らしく、胴着姿の西園寺先輩とタイヨウ。

タイヨウは西園寺先輩にがっつり稽古つけられたのだろう、疲れはてた姿でゼェゼェ息をきらしながら床にへたりこんでいる。


そして雨宮と野々村は私服姿で道場のすみっこのほうでちょこんと座っていた。

当初の予定どおり2人は見学らしい。


突然の主人公(オレ)の登場で、あっけにとられている面々。

そんな中でもやはり強者と言うべきか、西園寺先輩が口を開いた。


「道場やぶりだと?」


さすがの武人、西園寺先輩。

常人ならまずこの状況について色々と質問したたくなりそうなもんだが、そんなもんをすっとばして『道場やぶり』という言葉に反応した。


しかも西園寺先輩、道場やぶりに来られてなぜかちょっと嬉しそうだ。

口元がゆるみニヤニヤを隠しきれていない。

生粋のバーサーカーなのかこの人?

こえぇ…。


とはいえ、まあこちらとしては話が早くて助かる。


ついでにいうと途中で野々村が『あ、彩夜ちゃんだぁ~』と本筋と関係ないことを話し出していた、ある意味野々村も強者だな。

オレのうしろで彩夜は野々村に手をふっていたが、話が分散しないようにここは2人のコミュニケーションはほっといてオレは本題を続ける。



「ええ、そういうわけです」


「よかろう!その話のった!」


西園寺先輩が目を輝かせながらも鋭い目つきになり、戦闘モードにはいった。

今にもオレに向かってきそうな勢いだ。こえぇ…。


「いやいや西園寺先輩、落ち着いてください!今日闘うのは西園寺先輩じゃないし、こっちもオレじゃないですから…」


「なに!?どういうことだ!?」


「ちょっと訳アリでして。オレは代理人みたいなもんですよ。本命はこっち」


とオレは金剛力のほうを振り返り指差す。


「押忍」


金剛力はオレに指差され注目が集まったので、事態は全く飲み込めていないようだが、困惑しながらもお得意の返事で対応。


「して、私が相手じゃないというのはどういうことだ。この道場の人間は今は私しかいないぞ?今日は特別稽古なので門下の者も居ないし、道場主も今は出払っているぞ」


「それは大丈夫です。いるじゃないっすか門下の者がそこに1人」


そう今日は体験門下生が1人いる。

今日のオレの巻き込まれた面倒事の原因の一端となった男。

オレのライバル。

もし仮にオレが闘うとするならば相手はこの男しかありえない。


しかしハーレムラブコメの主人公の彼にとっては闘う相手はオレ以外にもたくさんいるんだ。


オレはまた金剛力のほうを向き。

今度はタイヨウを指差しながら金剛力に話しかける。


「まずはあそこにいる男を倒してこい。あの男も倒せないようじゃあ、オレと勝負なんて六十四万年はやい」


「「「えぇ!?」」」


オレの提案に皆から驚きの声があがった。


彩夜は想像してなかった展開に単純にびっくりして、タイヨウは寝耳に水で、西園寺先輩は自分が闘えなくてがっかりして。



タイヨウよ、お前の妹の起こした事態だ。お前が始末せぇ。

たまにはこういう汚れ仕事もやってみやがれ、クククッ……!!


これこそがオレのひらめいたウルトラど級の解決策!

この天才的ひらめきにより、ハーレムラブコメの本流から思いっきり流されて、サブイベントに巻き込まれてアップアップしていたオレが一気に本流に戻ってこれたのだ!


やはりモブとはモノが違うってわけさ!



「ちょ、ちょ、ちょっとツカサァ」


しかし、なぜか彩夜かグイグイとオレの服の袖をひっぱり金剛力から遠ざかり、こそこそと耳元で話しかけてきた。


「な、なんだよ?今オレは自画自賛で忙しいんだよ」


「なんだよじゃなくて、なんでこんな勝負になってんの」


「いいだろ。これでタイヨウが勝てば金剛力はあきらめる、負ければオレへの挑戦権ゲットで振り出しに戻るだけ、つまりリスクゼロだ。もしタイヨウが負けりゃその時はオレがフラッシュ暗算かなんかでぶったおしてやるよ、アイツ偏差値いくつだ?」


「こんなとこまで来ていまさらフラッシュ暗算で納得するわけないじゃん!?」


「うぅん、まあ…そうか?というかお前少しはタイヨウが勝つことも考えたらどうだ。そうすりゃあ後の事なんか考える必要もなくなんだからさ」


「いや無い、無いから!それ」


「無いって、お前なぁ…。そこまでハッキリ言うとさすがにアニキ泣くぞ?」


「だって金剛力くん、剣道部だよ!?」



彩夜からの衝撃事実にオレから驚きの声があがった。


「えぇ!?」

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