第18話

クール系ツンデレ美少女転校生ヒロインという肩書きからは、想像できない予想の斜め上を行くファッション。

上下ミリタリーで登場した雨宮鈴花。



「ごめんなさい。遅れたかしら?」


自分が一番最後に到着したということで、既に集まっているオレたち4人に気遣いの言葉から入る雨宮。


普段の毒舌は強烈だが、妙な所で律儀だったりする。


とはいえ時間内には到着しているわけで、ごめんなさいとは言ったものの、その態度は堂々として凛としたクールな、いつもどおりの通常運転という感じだ。



…なるほど?

そのミリタリー過ぎるファッションについて自ら何かを語るようなことは、どうやらしそうに無い。


ウケねらいや話題作りなどでそんなカッコをしているというわけでは無いようだ。



――つまりガチなのだ…!


このミリタリー過ぎる私服を、雨宮鈴花はガチで着ているのだ。


もしかして、雨宮がオシャレ上級者過ぎて、オレがオシャレ下級者なだけなのだろうか?


しかし、雨宮と同じ女子でありオシャレにも敏感であろう日南も野々村も、雨宮の上下ミリタリーの姿になんとも言えない表情をしているようだ。


この雨宮の私服。触れたほうがいいのか?触れないほうがいいのか?


本来、服なんて好きなものを着ればいいと思っているオレだが。

雨宮へのイメージから全く想像していなかったミリタリー過ぎるファッションに、触れるべきか触れぬべきか判断に迷っていた。


「なに雨宮。お前、ミリオタだったん?」


そんな中、雨宮の印象的な服装に、全く躊躇ちゅうちょ無く、普通のテンションで質問するのが主人公タイヨウだ。


タイヨウはファッションに興味が無いだけに、オレと日南、野々村の3人に流れているであろう微妙な雰囲気をまるで感じていないようで、けろっとした表情で純粋に聞いているようだ。


「違うわよ。私みたいな美少女が普通の服を着て外を歩いたらナンパが多くて、わずらわしいのよ…。こういうカッコをしてれば、普通の服でいるよりも話しかけられずらいでしょ」


……なるほど、なるほど。


やはりというかさすがと言うか、この美少女。


ちょっと顔のいい程度の女の子なら、自意識過剰のイタ~い子確定な話の内容だが。


立てば芍薬しゃくやく座れば牡丹ぼたんを体現するような女の子。

雨宮鈴花が言うのならば説得力もある。


ましてや先日のゲームセンターの一件もこの目で見ているわけで。


雨宮鈴花が、ひとたび町を歩けば、その美少女っぷりが目立たないわけもなく。

ナンパなんぞ日常茶飯事なのだろう。


ナンパされるたびに断ったり、シカトでやり過ごしたとしても、いちいち対応しなければならないことの面倒くささというのは想像するに、普段、人に囲まれたり、ちやほやされたりする事とは縁の無い、THEサブキャラのオレでもダルそうだなーと思うほどだ。


っつ!だれがTHEサブキャラやねん!!



人が集まってしまうから、芸能人がバレないように変装して街を歩くみたいなものか。

生まれたときから人生勝ち組のように思える美少女にも、美少女には美少女なりの苦労があるんだな。


つまりそのための上下ミリタリーということか。

確かにこれなら、いくらその美少女フェイスは隠れていないとしても、おいそれとはナンパしずらい。


まあ別の意味で結局メチャクチャ目立ってはいるのだが…。


「なんだ、そういうことですか。雨宮先輩ってば、もしかして私服残念系女子かと思いましたよ~」


さっきまで微妙な雰囲気を察して、完全にだんまりを決め込んでいた日南だが。

理由を聞いて安心したのか、話に入ってきた。


「まあ残念なのは、この私を軽々しくナンパできる彼らの脳内ね…」


「さすが雨宮先輩。今日も毒舌が冴えわたってますね!」


『おぉー』っと日南はパチパチ拍手している。

それって褒めてんのか?


しかし、雨宮は素直に褒め言葉として受け取ったのだろか。

すまし顔をしながら、腰に手をあてて、ひかえめにポーズをとりドヤっている。


「わたしも、雨宮さんて、しゅりーだん?とか戦車とか好きなのかと思ったよ~」


そんな日南に続くように、アホの子、野々村も話に参加する。

手りゅう弾な。


「全然違うわ。大事な用事の時には、こういうカッコをすることがあるというだけよ。今日は下手なナンパに時間を無駄にするわけにはいかないからね」


まあとりあえず、雨宮は私服で軍服着て興奮するような重度のミリオタというわけでは無いらしい。


さすがに、負けず嫌いの毒舌クール系ツンデレ美少女転校生というキャラに加えて、重度のミリオタとかいう設定も乗っかると、キャラが迷走しだすし、あげくのはてパンツァーに乗っかるとなると、もはや学園ハーレムラブコメからも大きく世界観が変わってきてしまう。


雨宮がミリオタというわけでも、実は特殊部隊に所属しているコマンドーとかいうわけでも無いようで、ラブコメ主人公希望のオレも一安心する。



それはそうと、今さらっと『大事な用事』って言ったな。


それは意外なワードだった。



雨宮、今日のお出かけイベントをそれほどまでに楽しみにしていたのか。

もしかして遠足の前の日とか寝れないタイプ?


しかし、『皆で出かける』のを『大事な用事』と言ってもらえると、その皆の一員としてオレも悪い気はしないものだ。


もちろん、その皆というものにオレも入っていればだが。


……本当にオレぬきでグループとか作って無いよね?


とにかく、皆にオレも入っているという前提で、ツンデレヒロインの雨宮もだんだんデレてきたんやな、と感慨深い気持ちになっていると、さらに雨宮が付け加えて言った。


「プリンに関して失敗は許されないわ」


あ、やっぱり『プリンそっち』のことっすよね!

大事な用事って!


勘違いして、ぬか喜びしてしまった思慮の浅いオレは、感慨深い気持ちをすぐさま返上する。

クーリングオフまだ間に合いますよね?



…っていうか、『失敗は許されない』とか結局なんか軍人が言いそうなセリフっぽくなっちゃってるし。




「まあ、とりあえず皆、集まったことだし映画館行こーぜ」


ラブコメの世界観を維持するために、オレは話題を今日の本筋に戻す。


「映画…」


雨宮は、どうやら大事なプリンの前に、ホラー映画を観に行くということを思い出したようだ。

ポツリとひとり呟いた。


やっぱりホラー苦手なんだな雨宮。

甘いプリンとは対照的に、その表情は苦々しい。


「そうですね!さっそく行きましょう!評判通り怖いんですかねぇ?」


「楽しみだね~。タイヨウ途中で寝ちゃわないようにね」


「へいへい」


そんな雨宮の呟きに気づいたのはオレだけのようで、他のメンツはこれから行くホラー映画について盛り上がりながら、目的地へと歩きだす。

ここから歩いて5分とかからない、商業ビル。

その中にある映画館へ。


歩き始めた、皆から一歩遅れて歩きだす雨宮。


そんな雨宮を確認して、そこからさらに一歩遅れ、皆の一番後ろをオレは歩く。



と、まぁ私服についてだけでも色々あったが、現在時刻は、まだ集合時間の13時だ。


オレたちの休日は始まったばかりだ…!




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