第17話
―――さて土曜日である。
土曜日。
多くの人にとっては休日に位置する曜日。
しかも次の日も日曜日で休み。という激アツなハッピーデイである。
街行く人たちの顔も平日とは違い、どこか楽しげなように見える。
彼ら彼女らはこれからどこへ行き。どんな楽しい1日を過ごすのだろう。
そんな風に街行く人々が楽しそうに見えるのは、本当に彼らが土曜日という日を楽しく過ごしているからなのか。
それともオレ自身が土曜日という日の幸福感、心の余裕があるから、そんなオレの目から見ると、他の皆も自分と同じように楽しそうに見えてしまうということなのか。
仮に後者だとすれば、つまり人間は『自分の目でしかモノを見ることはできない』ということなのでは無いだろうか…。
……。
そんな詩的な事を考える詩人なオレ。
主人公の親友ポジションのナイスガイ。
改札を出てすぐの、駅前ロータリーに、精一杯に主人公オーラを出しながら1人立っている。
あっ、ちなみに
その意味は、主人公のような様子。主人公のらしい様子――という意味である。
『とゆーことでカフェのこともありますし、駅前に映画館もありますから、集合は13時に駅前ということでー』
と、後輩ヒロインの
人を待たせない男。
オレ、マジかっけぇ。
人を待たせないを極めすぎて、そもそもオレのことを待ってるヤツなんて居ないまである。
いや、居ねーのかよ!!
アカンやん…。
需要ゼロやん…。
しかし悲しいかな、遅刻したらそのまま置いていかれる可能性も充分にありうるのが、親友ポジションってやつさ…。
親友ポジが遅刻して、そいつ待ち。
なんてシチュエーション聞いたことが無い。
そんなわけで、30分前は自分でも早すぎると思うが、遅刻よりはマシなのである。
そんな早すぎる集合のおかげで、どうやらオレが一番乗りだったようで。
辺りを確認したがタイヨウや野々村、雨宮、そして日南の姿は見当たらなかった。
そして先程のポエムなどのような事を考えて、時間を潰していると、10分くらい過ぎただろうか。
12時40分を過ぎた頃に駅の改札から、オレに次いで2人目の到着者であり、本日の集まりの発起人でもある策士。
あざと後輩ヒロインの
改札をぬけながらキョロキョロと辺りを見回している日南は、どうやらオレの姿を見つけたようでカツカツと近づいてくる。
「どもで~す。早いですね千尋先輩」
「おっす」
「そんなに楽しみだったんですか。もしかして遠足の前の日とか寝れないタイプ?」
いきなりプークスクスと、オレを軽くいじってくる日南。
「ちゃうっつーの。オレは人を待たせない男なの…!」
「なんですかソレ、ちょっとカッコいい感じのこと言っちゃってー」
などと、挨拶がわりの、いつもどおりのコミュニケーションをとる。
そんな会話はさておき。
ここでオレには重大な任務が己に課せられていることを理解している。
休日のお出かけイベントの、第一の醍醐味と言えば、そう!
ヒロインの私服である…!!
そして、そんなヒロインの私服を説明するのは得てして主人公の役目である。
ラノベの主人公ってやつらは、自らを陰キャと
しかし、そんな彼らは不思議な事に、ヒロインのファッションの説明する時だけは、重たいリストバンドや道着を脱いだがごとく、急にファッション戦闘力がグングン上がり、頭の先から足の裏までヒロインの身につけているアイテムの名前、その色の種類まで正確に説明することができてしまうのだ。
…どゆこと?
なんで服脱いでるのに、逆にファッション戦闘力が上がんの?
オシャレは引き算ってそういう意味なの?
ともあれ彼らは、ヒロインのファッションを説明するためならば、パステルピンクだの、ネオングリーンだの、メローイエローだのと、良くわからん英語まで駆使する始末。
もう意味わかんなすぎてノド乾いてくるレベル。
ともあれヒロインのファッションを詳細に説明できるというスキルはラブコメ主人公にとって持っておくべきスキルなのだ。
そのため、元来、努力家のオレは当然ファッションの知識もある程度は勉強済みなのである。
まあ、とにかく始めようじゃあないか。
つたないながらも『ツカサチヒロのファッションチェック』を。
まず第1のターゲットは、あざと後輩ヒロインの
薄いピンクのテーラードジャケットに白のTシャツ、下はデニムのショートパンツに、アンクル丈の黒いブーツという、ちょっと大人びていて、良い女感まるだしでいこうという意志が読み取れるファッション。
『格好良い』になりすぎずに、『可愛い』もキチンと両立させた、男子からの評価をとりこぼさない、さすがの計算高さと言ったところでしょうか。
とりあえず『ツサカチヒロのファッションチェック』こんなもんでいかがでしょう?
そんな風に、自分がファッションチェックされていることなど知るよしもなく日南はスマホをポチポチとやっている。
なんか忙しそうだし。とりあえず話しかけずに黙っとくか。
「おーーーい!!」
しばしの沈黙を破ったのは、オレでも日南でも無かった。
遠くから聞こえたその声のほうにオレと日南は顔を向けると、そこには笑顔で手を思いきりブンブン降っている野々村泉と、その横を、ふぁ~とアクビまじりで歩くタイヨウの姿があった。
タイヨウと野々村は、地元民でお互いの家も近いし一緒に歩いて、ここまで来たのだろう。
2人そろってオレたちのもとへ歩いてきた。
さてさて、またファッションチェックのお時間ですか。
野々村は春らしい花柄のワンピースに、黄色のカーディガンを羽織っていて、足元は白のスニーカー。
いかにも女の子という感じのガーリーな仕上がりで、普段からゆるっとしている(主に頭が)野々村らしい格好で、良く似合っていると思う。
ちなみに主人公タイヨウの服装は無地のTシャツにズボン。
野郎のファッションなど、知りたいヤツもいないだろうから雑に紹介しときましたっと。
この男、ファッションには全くといっていいほど興味が無いようだが、適当に着ているような服でも主人公よろしく、そこそこには、さまに成っているから、マジ主人公…。
「茜ちゃんと、ちひろんはもう着いてたんだね。てゆか、聞いてよ!タイヨウってば、家に迎えいったときまだ寝てたんだよ。午後の待ち合わせなのに寝坊するところだったんだよー」
「休みは休むためにあるのであってだな。オレは真面目に休んでたんだ。むしろ学生としては模範生だ」
「なるほど、一理あるな」
「ちひろん、なんか納得しちゃってるし…」
主人公としても模範生なタイヨウは、主人公キャラらしく今日もしっかりと寝坊しかけたらしい。
「まあ時間通りついたので良しとしましょう。てか私も今来たとこですしね。千尋先輩は楽しみで昨日一睡もできなかったみたいですけど」
「それは言わない約束…っておい。なんでやねん」
そんなこんなと、とりとめのない話を4人でベラベラと話していると、そろそろ約束の集合時間の13時になる頃だ。
後は着いてないのは雨宮鈴花だけか。
まあ、雨宮のことだから寝坊とかは、たぶん心配いらないだろう。
そういや雨宮ってどこ住んでんのかな。
電車で来るのか?歩いて来るのか?
考えてみれば、雨宮のことを全然知らないことに気づく。
転校して来た理由も知らなきゃ、住んでるとこも知らない。
とはいえ、まだ知り合って数日だしな。知らんほうがあたりまえか。
うんうん…と納得しているオレの横で、日南がスマホを熱心にいじっているのが見えた。
「あ、雨宮先輩。もう着くみたいですよ。今LIME来ました」
知らんほうがあたりまえじゃないかも…。
そりゃ休みの日に遊び行くなら、連絡先ぐらい交換してるよね。
もしかしてオレだけなのかな?
雨宮の連絡先知らないの…。
オレぬきのグループとか無い、よ…ね?
そんな核心めいたことを聞く勇気もなく。1人心の中でも落ち込んでいると、野々村が雨宮らしき人を発見したようだ。
「あれ?もしかして、あれ雨宮さんかな?」
どれどれと、野々村が指差す先を確認する。
ああ、確かにあれは美少女転校生ヒロインの雨宮鈴花だ。
学校とは違い、その綺麗な黒髪をポニーテールでまとめている雨宮。
どんな髪型でも似合ってしまう美少女さに感心してしまう。
しかし、そんな美少女の雨宮だが、今こちらにむかって歩いてくる姿には、両手放しで美少女と呼ぶには違和感があった。
当然だが、初めてみる雨宮の私服。それに理由があった。
上は、オリーブ色のミリタリージャケット。前をきちんと上まで閉じて着ている。
まあ、ここまでは良いとして。
そのミリタリージャケットに合わせる下のアイテムも、同じくオリーブ色のカーゴパンツ…。
上下同じ色のミリタリーアイテムでのセットアップという、思わず『軍人のかたですか?』とツッコミたくなるような、ゴン攻めしているコーディネート。
ツカサチヒロの甘めのファッションチェックでもオシャレとは、とても言いがたい上下ミリタリーの姿で雨宮は現れたのだ。
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