第3話

美少女転校生ことクール系ヒロインの雨宮鈴花あめみやすずか


そんな彼女は、タイヨウのとなりの空席である、自分の席へと颯爽さっそうと歩いていき、ちょこんと座った。


イスに座っている姿を見て初めて気づいたが、雨宮はその堂々たる態度とは相反して、意外にも小柄なほう、というか華奢きゃしゃなんだな。

などと1人思っていると、その雨宮のとなりでバチバチっと火花を散らしているのはタイヨウだ。


どうやらさっき雨宮に絡んでいった時に『ああ、今朝の…』の一言で済まされたのが納得いってないらしい。


そんなタイヨウの敵意のある視線に気づいたのだろう雨宮は、顔は黒板にまっすぐ向けたまま、タイヨウのほうに顔も向けずに聞いてきた。

…のが後ろの席のオレもかろうじで聞こえた。


「まだ何か?」


おい、このクール系ヒロイン。なかなかに気がつえーな。

さてはツンデレ属性も持ってるな…?


しかしながらタイヨウはそんな雨宮の気の強さなどおかまいなしに返答する。こいつもけっこう気が強いところがある。


「ああ、まだ言いたいことがあるね。お前のせいで遅刻しかけて、こっちは学校までダッシュしたんだぞ?」


「あらそう。でもあの時間にまだあんなところに居たってことはどうせ遅刻ギリギリだったんじゃないかしら?」


あやまるどころか、質問に質問で返すという、どこジョのキャラクターならブチギレかねないえげつない技を雨宮はいともたやすく使ってきた。


「うぐぐ、確かにそうだが」


しかし痛いとこをつかれたのはタイヨウのほうだった。

たしかにタイヨウは、主人公よろしく、ほとんどいつも遅刻ギリギリに登校してくる。



とはいえ、まあ雨宮との今朝の1件(いや今朝の1件とは言ってももちろんオレはなにがあったかは知らないし興味もないが)で汗だくになりながら学校まで全力ダッシュをしなきゃいけなくなったのも事実ではあるのだろう。



「てか、お前同じ学校だったのかよ。お前こそあんな時間じゃ遅刻ギリギリじゃなかったのかよ?」


「私は今朝は職員室に登校することになっていたからアナタとは登校時間が違うのよ」



目の前で現在進行系で繰り広げられている2人のバチバチとしたやり取りを聞いていたオレはハッとする。


今まさに主人公と転校生ヒロインの

【エピソード1~最初の出会いは最悪~】

が繰り広げられてるじゃねーか!?


このまま2人を放っておくと

【エピソード2~あれアイツいがいと良いやつなのかも?~】

が始まりかねない。


そしてゆくゆくはエピソード7くらいでは、ツンデレだったあの子ももうデレしか残ってねーなコレ、というツン行方不明状態になりかねない。


……あっぶね!


とにかくそれは阻止せねばオレの主人公計画など夢のまた夢になってしまう。


そのためには、とにかくこの2人の会話に入らなければ…!



よし、っと気合いをいれてから、まだ続いている2人の言い合いの間に入ることにした。


「まあまあ、2人ともなにがあったが知らないがそうケンカするなって」


しまった!!

いかにも親友ポジションのいいそうな、ありがちなセリフで入っていってしまった…!


こんなことでは主人公の親友ポジに自分から収まるようなことになりかねないぞ!


と反省していると。タイヨウと雨宮2人ともこちらを見てきた。


「ツカサ、ちょっとだまっといてくれ。男にはひけない時があるんだ」


「あら、遅刻程度のことがひけないことなの?ずいぶんと低いレベルの男のプライドなのね」


「なにおぅ!?」


オレの参戦もむなしく、一言で片づけられ、また2人だけの会話がはじまってしまった。


てか、雨宮にいたってはオレに話してすらいない…。


まずいぞ。このままじゃオレは親友ポジのまんまだ…。


そこでオレはやみくもに話かけるのではなく、頭を使ってみることにした。


ひとつ案をひらめく。

エピソード5ぐらいで明かされそうな真実といのを、今このエピソード1の時点で言ってしまうのはどうだろう?


例えば『転校生が実は幼少期に主人公と知り合っていた』というのはなかなかあるあるだろ?

タイヨウのハーレムラブコメ主人公パワーをもってすればこれくらいのことは全然可能性がある。


考えてみれば、タイヨウのハーレムラブコメの主人公のほしのもとに生まれた男という肩書き(オレが勝手につけただけだが)は、そのハーレムラブコメにおいての【あるある】をほぼそのまんま体現していることに由来する。


逆に言えば、ヤツとヒロインの設定にイレギュラーで目新しい設定など1つもないんじゃい!


つまりハーレムラブコメの主人公パワーを持つ男、夏目太陽なつめたいようは、その人生を【あるある】に縛られた男。

オリジナリティのかけらもないつまらぬ男なのだ。(どうだ!まいったか!)


そんなつまらぬ魅力の無い男は当然女の子にもモテない!


いや、めっちゃめっちゃモテとるがな…。


安心感ある男の子って普通にモテ案件やん…。



しかし、そんな風に主人公あるあるにガチガチにしばられているタイヨウの人生を考えてみると我が友、夏目太陽もある意味かわいそうな男なのかもしれない。




……んなわけねーか。


どう考えても羨ましいわ

そこ変われ。マジで。



と、やはりオレは主人公になりたいという自分の目標を再確認したところで、話を戻そう。


この転校生の雨宮とタイヨウ、『実は昔オレたち会ってたのね』パターンもあるのではという話だったよな。


そして、もしそうならば、それは後々もっと仲良くなったり、なんか海イベントとかあったり、花火イベントとかあったりした後のベストなタイミングで明かされる事実であり、間違っても今、エピソード1のタイミングで明かされていいような話じゃない。


しかしそんなネタバラシ行為をしてしまおうというのがこのオレだ。


これは良いぞ。

主人公の親友ポジならまずあり得ない愚行だ。

やはりオレは主人公の親友ポジになど収まる器ではなかったという証明にもなる。


まぁ主人公がやる行為とも到底思えない気がするが……。

それは、気がするだけ!気のせい、気のせい!

と自分を納得させて、早速ネタバラシに入ろう。


オレの脳内会議中もやり合いを続けていた2人に、わざとらしく明るく話かける。


「いやー、しかしお前たちいつまで仲良く言い合いしてんだ?」


「どこが!?」


あえて『仲良く』という言葉を使うと、すぐにタイヨウが反応した。

雨宮は何も言わずに、はっ?何言ってんの?とでもいいたげな表情でこちらを見ている。


よし、とりあえず話に入るのは成功した。

そしてオレはつづける。


「もしかして、2人って小さい頃の知り合いだったりして?」


そのオレの言葉に2人ともピタッと一瞬止まってポカンとして、それからお互いの顔を見合った。


お、これはビンゴか!?

作戦成功か?


やはりオレはできる男だったのか。(しみじみ)

と自分の脳内では、お祝いパーティーが開かれクラッカーを鳴らし、ケーキを食べようとしたその時。


「はぁー!? こんな女、初対面に決まってんだろ!?てか初対面もしたくなかったわ!!」


「それはこっちのセリフね。どこどうみたらそういう思考になるのかしら?全く意味がわからないのだけど。アナタのお友達ってアナタと似てアホの子なの?」


出会ってねーかーーー!!


コイツら出会ってませんでしたーーー!!!



オレの作戦は見事に失敗に終わった。

脳内お祝いパーティーは完全撤収かんぜんてっしゅうを命じられ、ケーキのありつけることはなかった。


やはりそう甘くねーか。


そして、オレの一言をキッカケに、さらにヒートアップした2人の言い合いは、もう他の追随ついずいを許すものではなくなり。


おれはそれをそっと見守るしかなくなった…。

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