第2話
自分の座っていたイスから急に立ち上がり、例の美少女転校生を指さして『あー!!お前は今朝のー!』と古来より数多くのラブコメ主人公たちが言ってきたであろう、使いふるされにふるさたセリフを無自覚で堂々と言っちゃっている、この男。
この男こそ、このハーレムラブコメの【主人公】
実はこの夏目太陽とはハーレムラブコメの主人公の星のもとに生まれた男なのだ…。
ふるかえること高校1年生の春。
同じクラスメートとして初めてコイツと知り合い、意気投合した後に、タイヨウの色々な話を聞くうちにオレはすぐにその事実に気づき、そのことに恐れおののいたものだ…。
なにせ、タイヨウにはハーレムラブコメの主人公のあるある的な特徴がことごとく当てはまっているのである。
いくつか例をあげよう。
その1、タイヨウの親は両親とも海外赴任をしていて、いまはかわいい妹と一軒家に2人暮らしをしている。
その2、そんな家の近くに住み、幼稚園から高校までずっと同じの幼なじみのかわいい女の子がいる。
その3、この高校にタイヨウにやたら懐いてるかわいい後輩の女の子がいる。
まだある、その4、タイヨウをやたらとかわいがっている、かわいい女の子の先輩もいる。
なんと、その5、そしてその全ての女の子はおそらくタイヨウにラブ的な好意を持っているだろう…。
などなど、タイヨウのこのような主人公あるあるの当てはまり具合には、オレも思わず『あれ、オレって本当は女の子で、男装して高校に通ってるんだっけ…?』と、主人公の親友のはずの男の子が、実は女の子でしたパターンすらありえるのでは?
と、自分の性別までをも一瞬うたがってしまったほどなのだ。
他にもタイヨウは、主人公あるあるの代名詞でもある相手が大事なセリフをいったときに限って、なぜか急に聴力が低下したのかなんなのか『え、なんか言った?』と、聞き取れませんでしたという態度を示す、ラブコメご都合主義なセリフを言いがち。
などなど例をあげれば本当にキリがないのだが…。
なんと言おうが、そのどれもが―。
ということを決定づけてしまうようなあるある設定のオンパレードを地でいく男なのだ。
そして、そこにきての現在、美少女転校生である…。
さっき転校生というワードを聞いたときに、またあらたに1人かわいこちゃんが、このハーレムラブコメのメインヒロイン争いに参戦してきたのだとオレが考え、ガクガクと震えるのも自然なことだ。
…いやタイヨウ君いったい何人の女の子から取り合いされれば気が済むのアナタは?
そしてこの1人語りをしている、オレ、
……いやいや、そんな、アホな。
だって、ハーレムラブコメの主人公の親友ポジションってのは……。
普段は主人公とくだらないバカ話をしたり。
時には主人公と彼をとりまくヒロインたちとの恋愛模様を一歩も二歩もひいたところから見て、なにを言うわけでもなく、ただ物知りげに
『ふぅ仕方ねーなお前たちは。でもそんなお前らのことも全部オレはわかってるけどな』といったような態度をとりくさり、ナルシスト感満載のどや顔でウンウンとうなずいたり。
そしてエピソードによっては、ほとんど登場もしなかったりするやつのことである…!!
……そぉぉぉんな親友ポジションなど、まっぴらゴメンじゃい!!
オレはちっちゃな頃から主人公に憧れて生きてきたんだ!
17で親友ポジションと呼ばれている場合ではないのだ…!
イヤだイヤだ、主人公じゃなきゃヤダー!!!
と、だだっ子のようでとっても可愛らしいキュートな1面をもつという点においても、やはりオレが主人公であるべきなのだ♡
認めん…!
認めんぞオレは!!
タイヨウが主人公で、オレがその主人公の親友ポジションなど絶対に認めん!
タイヨウがどれだけ主人公にありがちな設定をもっていようが主人公の座を諦めるか!
とにかくオレは主人公というものになりたいのだ!!
しかしそんなオレの願いもむなしく、今クラスの注目の的は完全に美少女転校生とタイヨウの2人だ。
タイヨウの口ぶりいわく、なにやら2人には今朝なんらかのラブコメ主人公的出来事があったのだろう。
やはりここらへんもラブコメの主人公である。転校前にしっかりとヒロインと
そこへきてオレはと言うと、この転校生ちゃんとはもちろん完全に今が初対面なんだよー。ウフフ♡
おそるべし主人公パワー…。
いやいや認めるかぁー!!
……しかし、なんでオレって転校生のヒロインと転校前に町で偶然会ってたり、実は昔の知り合いだったり結婚の約束とかしてたりしないんだろぉ…。
明日から登校するとき
『~ちひろんの食パンくわえて町ブラ散歩~』
と低視聴率まちがいなしの番組タイトルを考えたところで、いやまず企画書通らないってんだってば、オレがメインじゃ、というセルフツッコミが入ったりして。
という自虐的な空想世界に脳内で1人でぶっとんでいると。
現実世界では美少女転校生、雨宮鈴花が口を開くところだった。
「ああ、今朝の…」
と、いたって冷静な声で一言だけタイヨウに返して、ハイこの話はこれで終了とばかりに、クラス全体に顔を向き直して自己紹介をはじめた。
「はじめまして、今日からこのクラスでお世話になります
…それは、すごく短く、はっきり言えばあまりにもシンプルすぎる自己紹介だった。
文言こそ
「自己紹介も済みましたし、もう席についてよろしいでしょうか?」
といって担任にむかって確認し、雨宮鈴花は自分の席を探すようにキョロキョロしている。
あ、なにこの子クール系ヒロインのパターン?
しかし担任も彼女の自己紹介の短さに、このままだと雨宮がクラスで浮いてしまうのではないかと心配でもしたのだろうか。
「雨宮、みんなに雨宮のキャラクターを知ってもらうためにも、もうすこし自己紹介してみたらどうだ?ほら趣味とか特技とか好きなモノとか」
「いえ、自分の話をするのはあまり得意ではないので大丈夫です。私の席はどこですか?」
と担任の出した助け船(?)を完全に沈没させて、自己紹介を打ち切った。
彼女は浮くことも沈めることも気にとめていないのだろう。
あ、この子あきらかにクール系ヒロインっすね。
担任の教師は、そんなクール系ヒロインの雨宮鈴花に圧倒されたのか。
「まあ、そうか。無理にあれこれ喋ることもないしな。アッハッハッ」
と苦笑い(?)をしている。
それに対して、雨宮は愛想笑いも一切せずに眉ひとつ動かさずに凛とした姿勢で担任を見つめているばかりだ。
「っと、雨宮の席だな?そうだな雨宮の席は~っと。おお、あそこが空いてるな」
そんな雨宮の視線に気づいたのか、雨宮の席の話に話題を移す。
担任が指さしたのは、窓側の一番奥に位置するオレの席となり―。
ではなく、一個前の席の、タイヨウのとなり席だ…。
やはり、これもタイヨウの持つ主人公パワーの仕業なのだろう。
なぜか雨宮が転校してくるまで、タイヨウのとなりの席は空席となっていたのだ。
本来クラスに余分な席など用意するはずが無いが、それが存在させてしてしまうのがラブコメの主人公の恐ろしき力なのだ。
この空席は今現在に至るまでは、我らが担任の『生徒主導で話し合いをするときに私が座る用のイスだ。ワハハ』という一応の存在理由はあったにはあったのだが…。
それにしたって不自然である。
そういう席は一番後ろのどこかに
そう!
例えば窓際の一番奥に位置するオレの席のとなりなんか超妥当なんじゃないでしょーか!?
ねぇねぇ!?
それならオレのとなりに転校生ヒロインが座ることになったんすけど!!?
しかしながら現実は無情なもので、かくゆうオレの隣の席は実際は空席などではなく、しっかりと生徒が座っている。
しかも男子…。
となりの彼は、今までたま~に担任が座るだけの自分の前の席の、この空席の存在を一体どう思って過ごしていたのだろう…。
しかし今は美少女転校生の雨宮が座るということでちょっと嬉しそうな顔をしている。
現金なヤローだ。
いくら存在理由に説明をつけようとも違和感ぬぐいきれぬこの空席もタイヨウのとなりにあるとすれば、オレからしたら存在理由は非常に簡単だ。
美少女転校生の座席は主人公のとなりと古来いにしえから決まっている。(古来と
つまりこの空席は、担任の先生のためでもなく、、オレのためでもなく、、ましてやオレのとなりの現金ヤローのためでもなく、、ハーレムラブコメの主人公のためだけに存在している席なのだ!
しかしながら、担任が座るためという大義名分のような理由に『担任に気に入られている』ってのも主人公のあるあるか…。
という理由づけで納得していたオレには、このハーレムラブコメに転校生まで登場するとは想像できていなかった。
まいったな、おい…。
……ん?
しかし待てよ?
この転校生のクール系ヒロイン。
主人公と既に1度会ってるとはいえ、まだほとんど初対面。
まだ主人公にホレるような段階ではない…!?
あれ……!!?
もしかしたらもしかしたら、これからのオレの動きかたしだいでは、彼女をハーレムラブコメのヒロインの1人にしないようにもできるのではないだろうか!?
あわよくば彼女とオレの、ハーレムじゃない、オレが主人公(ここ重要!超重要!)の純愛ラブコメがスタートするのでは…?
……キタ!
オレの時代!!
オレが主人公になれるわずかな希望が見えてきたのである!!!
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