第4話

そんなこんなで昼休みである。



登校中に偶然出会い、そこで一悶着あった主人公とヒロイン。

だがそのヒロインが実は自分の学校の転校生でクラスまで同じ、そして最初はお互いにいがみ合う2人―。



そんなテンプレな2人の争いはというと…。


昼休みまでもっぱら継続中で、どうしてそんな流れになったかよくわからんが、どちらが購買で売られている、先着5名までの特製プレミアムパンを買えるかという話になったらしく。

4時間目のチャイムとともに凄い勢いで2人とも教室から居なくなってしまった。


…てか雨宮、クール系ヒロインじゃないのか?

クール系ヒロインてそんな体力勝負の競争するっけ?


いや、まぁ普段はクールだが、勝負となるとけっこうアツくなりやすい負けず嫌いタイプってのもあるあるか…。


と、早くもブレだしているようにも見える雨宮鈴花のキャラを上手いことあるあるの範疇はんちゅうだとフォローする、優しいオレ。

そんな気くばりもバッチリなオレ、千尋司ちひろつかさはやはり主人公であるべき人間だ。


そろそろオレの名前忘れられてるころだろうと思って自己紹介しときました。ペコり。


あらためて自己紹介もすんだし話を戻そう。



現在、時は昼休みである。


ネタバラシ作戦もあっさりと失敗し意気消沈いきしょうちんのオレは、パン買い競争のために教室を出ていった2人に圧倒され、昼休みだというのに弁当を食べるわけでもなく、購買にパンを買いにいくでもなく、ただ自分の席に座りつくしていた。(立ちつくすって言うけど座りつくすって聞かねぇな)



そんな座りつくすオレに話しかける1人の女の子がいた。


「いやーさっきの授業ちんぷんかんぷんだったねぇー?」


と、いきなり自分がアホであることを発表しながら登場したこの女の子こそが。


ハーレムラブコメのメインヒロイン争い参戦者の1人。



エントリーNo.2【幼なじみヒロイン】

野々村泉ののむらいずみである。



前にも、幼なじみについて軽く触れたが、タイヨウの家の近くに住んでいて、幼稚園から小学校、中学校、そしてこの高校とずっとタイヨウと一緒というガチガチのガチの幼なじみというのがこの野々村泉ののむらいずみである。



そうハーレムラブコメにおいて幼なじみとは定番中の定番なのである。


ちなみに、もちろんオレには幼なじみの女の子などいない…。


野々村泉ののむらいずみ2年A組、O型。

オレとタイヨウと同じクラスのクラスメートだ。


学園内で目立つほうでは無いがその顔面偏差値は高い。

その逆に頭の偏差値は授業中の居眠りなどせず、しっかりとノートもとっているのになぜか低い(つまり、おバカキャラ属性である)


しかしながら、人当たりの良く、裏表の無い素直で優しい彼女の性格からか、周りからはそのおバカなところも『おっとりしてて可愛い~』とか『天然キャラ癒させれる~』などと全てプラス査定になってしまう。

おそるべき女だ。



「あれ?てゆかタイヨウは?」


とオレの、野々村泉、紹介ナレーションが終わるのを待っていたかのようなタイミングで野々村が話かける。


「あー、例のツンデレ美少女転校生ヒロインとパン買い競争に行ったぞ」


「つん…でれ?? び、びしょう…じょ? ひ…ろいん??」


その手の言葉の知識がないのだろう野々村は、頭の中がハテナだらけの、パニック状態におちいっていた。


いや美少女はわかるだろ。


なんで美少女まで平仮名やねん。

…やはり偏差値は低いらしい。


「んー、まぁつまり雨宮さんとパン買いに行ったってことね?」


野々村は難しい単語の解読はあきらめ、転校生というところだけでオレの話を理解したらしい。


「てか、パン買いにいっちゃたのー?今日お弁当つくってきてるのにぃ」


といって唇をとがらしてブーブーいっている。


幼なじみで、お互いの家同士も家族ぐるみの付き合いのある野々村はタイヨウの両親が海外赴任していることも当然ながら知っておりタイヨウの食生活を気にしているようで。


『どうせタイヨウにまかせとくと栄養バランスがくずれちゃうから』と野々村は学校のある日はいつも自分の弁当と、そしてタイヨウの弁当を作ってきている。


ちなみにタイヨウが弁当がいならない日は前日に野々村に連絡をしているらしい。


そして今日も弁当をつくってきたのだが、今日はだれも予想していない転校生の登場にタイヨウもすっかり野々村の弁当の存在を忘れてしまったようだ。


今現在そのタイヨウは、ツンデレ美少女転校生ヒロイン。野々村にとっては正ヒロイン争いのライバルである雨宮鈴花と購買まで絶賛レースの最中だった。



「まったく勝手なんだから」


と野々村はプンスカしている。

しかし毒気の無い人柄で、怒ってもぜんぜん恐くないというのが野々村のいいところなのだろう。


「フンだ!雨宮さんと仲良くパン買いにいくような人のお弁当はもう没収です!」


いや仲良くはねーだろ?

仲良いって雨宮には言うなよ?怒られるぞ。

毒気があって、怒ったらぜんぜん恐いのが雨宮の恐いところなんだから…。


「ちひろん、今日お弁当買ってないならこれ食べる?」


と言って手に持っている弁当を1つオレに差し出した。


「いや、タイヨウも教室もどってきてから弁当食うんじゃね? てか、そのちひろんってのそろそろ止めてくれ…」


しかしそれをオレはうけとらずに、何度頼んでも直らない、ちひろん呼びに苦言をていしながら、さらっとタイヨウのフォローまでいれてやる。

オレってば、まじ優しさのかたまり。ぜったい主人公になるべき男。  


というよりも……主人公タイヨウのためにつくった弁当をありがたく食えるほどオレは気持ちのいい性格をもった男ではない!


それに主人公が弁当があるつもりで帰ってきてオレが弁当食べちゃってました~てきな展開はあまりにも主人公の親友ポジのやりそうなことでイヤだ。



ところで、ちひろんとは、オレの千尋司ちひろつかさの名字の千尋ちひろに、んをつけ足して、ちひろん。

野々村がつくったアダ名なのだが、このオレ本人としては不服なアダ名だ。


…だって、なんかかわいい感じのアダ名なんだもん。

あんまり主人公につくアダ名っぽくない!



「いいよ、タイヨウのことなんか気にしなくて。でも、ちひろんがいらないなら私が2つとも食べちゃおうかな?」


全くちひろん呼びを止めることすら検討していない様子の野々村は、タイヨウの席に座り、弁当のフタをパカッと開けだしている。


しかし野々村、思ったよりもタイヨウにおかんむりなようだ。


雨宮と仲良く購買にいった(本当はただのくだらん争いだが)ことに嫉妬しているのだろうか?


直接、野々村本人から聞いたことはないが、おそらくこの幼なじみヒロインの野々村は、転校生ヒロインの雨宮鈴花あめみやすずかとは違い、すでにタイヨウに完全にラブハートをキャッチされているのだろう。

すでに好感度はMAXの告白すれば即カップル確定の激アツ案件。


それだけに野々村がこのハーレムラブコメのメインヒロイン争いに勝利するには、逆になにか2人の関係に大きな変化が必要なのかもしれない。


…っと、話があらぬほうに飛んでしまった。

オレがなりたいのは恋愛アドバイザーではなく主人公だった。


あぶないあぶない。自分の多才さが恐い。


つまりのところ、主人公を目指し、THE主人公であるタイヨウのことを羨むオレとて、雨宮ならいざ知らずタイヨウへの好感度MAXの野々村泉のオレに対する好感度をいまさらどうこうしようという気は起きないのである。



……ん?


というかむしろ野々村がタイヨウと恋人になればこのハーレムラブコメは終了を迎え、おとずれるのはオレの時代…!?


そうだ、その手があった!!


ハーレムラブコメはメインヒロインが確定すれば終了。

それは古来いにしえの心理(オレまじ頭脳が頭いい)



ならば野々村とタイヨウの関係になにか大きな変化をオレがあたえてやれば…!


よし!

いきなり大きな目標を持っても仕方ない、小さなことからコツコツいこう。


とりあえずそれにはタイヨウの弁当を食ってしまうという、いかにも親友ポジのやりそうなこともしちゃうか!?


背に腹はかえられない。

ここはプライドを捨て弁当だ!


いいから弁当だ!!



「野々村!やっぱりオレ弁当もらっ…」


と言いながら、意気揚々、気分上々と野々村のほうに勢いよく目を向ける。


「ごちそうさまでしたー」


この短時間で、キレイに空っぽになった2つの弁当と手を合わせてごちそうさまを言う、満足そうな野々村泉の姿があった。



あぁ…。


そういえば、この子って大食いキャラ属性も持ってたっけ…。



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