9.難民キャンプにて
不気味な森の中をもう何時間歩き続けただろうか。
日が落ちるにつれ、君たちの心の中に焦燥感が生まれ、そしてそれは少しずつではあるが、大きくなっていった。
リック:「草木が踏み荒らされた後はあるし…あれだけの民間人を連れてたんだ、長距離は移動できない。もうすぐ着くはずだと思うけど…」
リックの言う通り少し歩くと、人の声が微かに聞こえ始めた。
警備の兵士が気がついたのだろうか、金属の鎧が擦れる音がこちらに向かってくる。
[山中 難民キャンプ]
兵士:「何者だ!」
兵士たちから発せられる声を通して緊張感が伝わってくる。
エックス:「…俺達は"青の花"だ。殿の任を終えてここまで来たんだが…」
「避難民はどれだけ集まった?」
君たちの胸の勲章を見ると、兵士たちは構えていた槍や銃を下ろし、出迎えてくれる。
兵士:「すまない"青の花"よ、このような状況だ、許して欲しい」
マーキュリー:「ご苦労さま」
エックス:「仕方がないよな。お仕事ご苦労さん」
兵士:「避難民はこっちにいるので全員だ…」
兵士は頭を下げ、君たちを難民キャンプへ案内してくれる。
皆、疲れきった表情をし、ぐったりとうなだれていた。
シノ:「…被害状況は?」
兵士:「想定よりも酷いな…ここまでに来る間に何十人も…」
ジャンヌ:「そんな…」
シノ:「…」
ノブナガ:『だろうな』
マーキュリー:「まぁ、そうよね」
シェリー:「とりあえず、"青の花"のみんなは無事だから、シェリーは救護班手伝ってくるねー」
ジャンヌ:「うん。シェリー、任せた」
エックス:「おう、いってらっしゃい」
シェリー:「みんなのおかげでシェリーの元気は有り余ってるのです! 行ってくるねー」
リック:「俺も手伝ってくるよ!」
ジャンヌ:「うん、リックもいってらしゃい」
マーキュリー:「リック、シェリーをよろしくね」
シノ:「…共和国のクソ野郎共の動向は把握しているのか?」
兵士:「巨竜を連れて街道に沿いにまっすぐ帝都に向かってるよ…ここは帝都へ向かう街道からは少しそれているから安全だとは思うが…」
シノ:「ちっ、あいつらこのまま帝都に乗り込む気かよ…」
兵士:「幸いあの人数だ、速度は出ていないみたいだが…あれが帝都に着いてしまったら…」
ジャンヌ:「っ!? 帝都には、巨竜が向かっているっていう連絡は出来ていますか?」
兵士:「ああ、すでに"ハト"を飛ばしてある、軍本部も今対応に追われているみたいだがな…」
姉の存在を心配してか、今すぐにでも駆けだしたいと言わんばかりの不安げな表情をジャンヌは浮かべる。
ジャンヌ:「…軍本部に任せるしかないでしょうね。おそらくボクたちに出来ることはないでしょうから」
ノブナガ:『帝都にはもっと腕の立つ部隊がいるだろう』
ジャンヌ:「そう…だね」
兵士:「全く…ままならないな…」
シノ:「…リーダー、オレらはどうする? 当初の予定通り合流地点には来たわけだが…」
エックス:「お前たちも疲れただろ? 指令が来るまでは休んどけ」
シノ:「…了解」
らびっと:「あーあ、なんか洒落た娯楽とかねぇかなぁ」
兵士:「我々も周辺警備に戻る。"青の花"は休んで次の指令に備えてくれ」
エックス:「ご苦労様」
ジャンヌ:「さて…ステラちゃんは…どこかな?」
その言葉を聞き、クアムも周囲を見渡してステラの姿を探す。
ジャンヌ:「あの…エックス。ボク…ステラちゃんを探してきていいかな?」
エックス:「俺も気になるから一緒に行くぜ」
ジャンヌ:「クアムも、もちろん来るよね?」
クアム:「も、もちろんだ!」
シノは櫓へと登る。
緊張感がまだ抜けないのか、それとなく見張りを続けていた。
エックス、ジャンヌ、クアムは見覚えのある桃色の髪をした少女を見つけ、近づく。
近くに母親は見当たらず、当てもなくふらふらと辺りを彷徨っている。
クアム:「ステラッ!!!」
エックス:「お、いたか!」
ジャンヌ:「よかった…無事だったんだね」
ステラ:「あ…お兄ちゃん…お姉ちゃん…クアム」
クアム:「良かった…。ステラ! オイラ探したよ…」
マーキュリー:「ふーん、生きてたのね」
君たちに気がついたのか、ステラが歩み寄ってくる。
その足取りは、前に見た元気なものではない。
手に抱えているものを落とさないように、ゆっくりと歩いてくる。
ふと、抱えたものと目が合った気がした気がした。
ジャンヌ:「っ!?」
それが彼女の母親の頭だと気がつくまで、時間はかからなかった。
ステラ:「お母さん…ステラのせいで…死んじゃった…」
か細い声で呟く。母親の頭を抱きしめながら少女は顔を伏せた。
ジャンヌはステラに歩み寄り、そのまま何も言わずにステラを抱きしめる。
マーキュリー:(案の定…ね)
エックス:「ステラ…そうか…」
(お前だけでも生きててよかった)
クアム:「ス…ステラ、あ、あの、オイラ…オイラ…あうっ」
ステラ:「…お父さんも、お母さんも、いなくなっちゃった」
「ステラ、もう、ひとりぼっちなんだ」
ステラの目尻に溜まっていた涙が溢れ出す。
クアムの目にも涙がこみ上げる。
その言葉を聞き、その姿を見て、肉親を失った自身とステラが重なったのだ。
ステラは君たちを見上げ、言葉を投げかけた。
ステラ:「ねぇ…お兄ちゃんも…お姉ちゃんも…クアムもいつかいなくなっちゃうの…?」
クアム:「お、オイラ…オイラはいなくなんないよっ」
ジャンヌ:「ボクもいなくならないよ」
エックス:「まさか! 俺は死んでも死なない男として有名なんだ」
彼女は母親の頭を手から落とす。
しかし、地面に落ちる寸前のところでジャンヌがそれを受け止めた。
ステラはジャンヌへ温もりを求めるかのように、すがりついて泣く。
弱々しく、真っ赤に腫れた両手でジャンヌを離そうとしなかった。
見つめる瞳には大粒の涙を零しながら君たちに訴えかける。
ステラ:「…やだ、やだよ…! ステラ、もう誰ともお別れしたくない…!」
少女は膝から崩れ落ちる、祈るように君たちに懇願する。
少女の嘆きが、森の中でぽつりと響いては消えた。
マーキュリー:「はぁ…そうなっちゃうのね」
ジャンヌはステラの母親の頭を抱えつつ、目を閉じさせる。
ステラ:「…ねぇ…あの綺麗な瞳のお姉ちゃんは…?」
らびっと:「あいつか! あいつなんか高いとこ登ってたぞ!」
「なにしてんのかしらねーけどな!」
エックス:「今頃ゆっくり寝てるんじゃねーかな…」
ステラ:「え…あ…」
らびっと:「安心しろよ! 俺は、お前のズッ友なんだぜ…」
シノは櫓からステラとのやりとりをある程度見た後、黄昏れるように外に気を向ける。
シノ:(…この戦争が奪うものはこんなのもじゃすまない…もっと多く、もっと大勢の大切なモノが無くなる…それが戦争だ)
マーキュリー:「ちゃんと生きているわ。なんか勘違いしそうだから言っておくけど」
ジャンヌ:「シノのことだから、みんながまた危険なことにならないように、高台で索敵してると思う」
「だから、後でシノのところに行こう?」
ステラ:「…うん」
ジャンヌ:「さて…ダメだよ。ステラちゃん。お母さんを落としちゃ」
マーキュリー:「ジャンヌ…?」
ジャンヌ:「お母さんはステラちゃんのせいで死んだんじゃないんでしょ?」
「お母さんの言葉を思い出してあげて」
ステラ:「…でも」
ジャンヌ:「ステラちゃんを助けたいから助けた、でしょ?」
シノ:「…」
(またジャンヌが余計なことを言ってなけりゃいいけどな…)
ジャンヌ:「ステラちゃんを守ってくれた。大切なお母さんなんでしょ。だったら、ちゃんと弔ってあげよう?」
ステラ:「…うん」
ジャンヌ:「うん。ステラちゃんは偉い子だね」
クアム:「ステラの、トモダチとして、オイラ…手伝うよ」
ステラ:「ありがとう…クアム…お姉ちゃん…」
クアム:「オイラには、ステラしかいないから」
ジャンヌ:「あのね。弔うっていうのはね。単に亡くなった人の冥福を祈るだけじゃないんだよ。後に残った人が亡くなった人との折り合いをつけるためにやるんだ」
「今後、生きていくために。亡くなった人の分も生きていくために」
「だがら、ありがとうステラちゃん。ステラちゃんが大事にお母さん連れて来てくれたから。みんなで弔うことができるんだよ」
エックス:(俺は…無力だ…)
ステラ:「…うん…うん!」
マーキュリー:「はぁ…」
ジャンヌ:「ステラちゃん。大変だったね。辛かったね。ボクたちは君をちゃんと見ているよ」
「泣きたいなら、泣けばいい。言いたいことがあれば言えばいい」
マーキュリー:「…で、ジャンヌ。その子に対してなにかしようとか言うんじゃないでしょうね?」
ジャンヌ:「ふふふ。マーキュリーは勘が鋭いですね」
マーキュリー:(突っ込む気なかったけれど…流石にね)
「とりあえず保護者どうすんの」
「ずっとジャンヌが見るわけいかないでしょ」
ジャンヌ:「ステラちゃんの親族っているの?」
ステラ:「…いない」
ジャンヌ:「そっか…だったらさ、前に言ったこと覚えている?」
ステラ:「…?」
ジャンヌ:「もし、自分たちで支えきれないことがあるなら、誰かを頼ってほしいんだ」
「ステラちゃんには選択肢がある。1つめはこのまま、この町の人々と過ごすこと」
「2つめはボクたちと一緒に来ること。一人ぼっちにはさせないよ。クアムもいるし」
マーキュリー:(は?)
「あの」
「バカでしょ」
ジャンヌ:「えっ? バカなのは認めるけど、ひどくない?」
エックス:「さすがに戦場には連れていけないぞ?」
マーキュリー:「知ってる? 陛下直々の隊になったのよ。しかも戦場にでるし」
ジャンヌ:「でも、あの巨竜がいる限り、どこでも危険だと思う」
マーキュリー:「…また誰かを失う様を味わせたいの?」
「言っとくけど"全部ボクが守るよ"っていうのは却下ね」
ジャンヌ:「全部ボクが…えっ…」
マーキュリー:「さっきもノッブに身体はって守ってもらってさ」
「だったら全部ジャンヌが守ってよ? ねぇ!」
エックス:「おい落ち着けって」
マーキュリーはエックスの言葉を聞いてその口を閉ざす。
ジャンヌ:「ちょ…ちょっと待ってよ。マーキュリー」
「とりあえず、これでも飲んで」
そういいながらジャンヌは水筒を取り出し、マーキュリーに渡そうとした、が。
マーキュリー:「はぁ…はぁ…! そんなものいらないわ…!」
マーキュリーはジャンヌの水筒を払いのける。
ジャンヌ:「簡単な話だよ」
「ステラちゃんがどうしたいかを聞いたいだけ」
「で、それに対して、どうするかはみんなで決める」
マーキュリー:「その子、子どもというのもあるけどそれ以前に精神的に選ぶことできるとおもってるわけ?」
「…普通に孤児院探すとかでもいいじゃない。それでも世話を焼いてる方よ」
ジャンヌ:「選ぶことというか、助けてって言ってほしいだけかな」
マーキュリー:「はぁ、ほんとにさ」
ジャンヌ:「ごめんごめん。誤解する言い方だったのは謝るよ」
「ボクはステラちゃんに人を頼ってほしい。それだけ」
マーキュリー:「ほしいほしいって言うけど」
「それってただの自分の欲望じゃないの?」
「ステラになにを押し付けてんのよ」
ジャンヌ:「…うん。そうだよ。偽善ってやつだ」
マーキュリー:「ねぇ、ステラは自分で言える状態じゃないのよ。だから…言えるようになるまで、時間は必要だわ」
ジャンヌ:「…」
マーキュリー:「前を向かせたいのかも知れないけれど。今の貴方は足のなくなった怪我人に"おい、生きてるんだろ。立てよ!"って命令してるみたいなものだわ」
「杖をつかって立つ練習なしにね」
「…これでやっとわかってくれたかしら」
ジャンヌ:「…そこまで傲慢なつもりはなかったんだけどね」
マーキュリー:「傲慢よ、ステラにとって」
「なんとかしてあげたい気持ちはわかる。それはもう好きにしなさい…正直どうだっていい」
「手法が間違ってるのよ。少なくとも私達と一緒に連れてはいけない」
ジャンヌ:「でも、このままじゃステラちゃんは一人になっちゃうんだよ?」
マーキュリー:「まず、人にどうしようか聞いてみればいいんじゃない? "青の花"以外にもここには人がいるでしょ」
「…自分が間違ってることを、自覚しなさい」
「多少寄り道してでもなんとかしてあげたいって思ってるのなら、それくらいの時間は用意できるでしょう?」
「偉そうに言った私の言葉も、本当は間違ってるかもしれないけどね」
ジャンヌ:「…そうかも。やっぱり、ステラちゃんがボクたちと一緒にいると危険なのかな…」
エックス:「俺達の戦いも最近はかなりギリギリだからな…守り切れるかは大分怪しいと思うぞ」
ジャンヌ:「確かに、そういうのはダメだ。子供は未来、そして希望だから。それを失うのはよくないよね」
「わかった。ありがとう。マーキュリー、エックス」
「ボクはまだまだ甘いね。理想は高くても、力が追いついてないや」
マーキュリー:「理想は高くてもいいけれど、独りよがりすぎなんじゃない? まぁでもヒトってそういう生き物なのでしょうけどね。私も気をつけないと」
ジャンヌ:「だから、頼みがあるんだ。ボクには力がないから。みんなの力を借りたい。みんなの考えを知りたい。そして、よりよい未来を掴みたい」
「独りよがりじゃない。みんなが望む未来を」
マーキュリー:「あ、ステラは当事者なんだからあの子もこの話に入れなきゃダメよ」
ジャンヌ:「あっ…ごめん。ステラちゃん。ほったらかしにして」
ステラ:「…うん…大丈夫…」
ジャンヌ:「とまぁ…ちょっと、ボク暴走して、かっこ悪いところみせちゃったね」
エックス:「今日は皆疲れてんだよ。ゆっくり休んでからもう一度話し合おうぜ」
ジャンヌ:「そうしたら、まずはおかあさんを弔ってあげようね」
マーキュリー:「まぁいいわ。喉が乾いたし、汗で化粧崩れてるからちょっとなおしてくるわ」
エックス:「おいおいマーキュリー」
マーキュリー:「なに?」
エックス:「ほら、ステラちゃんのお母さん…」
マーキュリー:「別にいなくても…いいでしょ…」
エックス:「そんな冷たいこと言わずに一緒にお祈りしようぜ? こういうのは多い方がいいだろ」
マーキュリー:「はぁ、全く。化粧を直してくる時間ぐらい頂戴」
エックス:「おう、待ってるぜ」
君たちはステラの母親の亡骸を埋め、両手を合わせ、祈る。
少しでも安らかに眠れるようにと、ステラの気持ちが落ち着くようにと。
クアム:「なぁ、"青の花"これ以上、ステラみたいな悲しむ人を増やさないようにしてほしいんだ…」
「この戦争を、終わらせてくれ。お前たちは、それができるんだろう? 頼むよ」
エックス:「…ああ、俺は馬鹿だからどこまでやれるかわかんねーけどよ、俺なりに頑張って戦争を止めてみるよ」
「俺じゃどうすりゃいいのか全然わかんねーから、まずは皆と相談からだな。頭のいいシノとかノブナガならいい案を思いつくかもしれねえ」
「反対されるかもしれないけどよ…頑張って説得してみるわ」
クアム:「オイラは…お前たち"青の花"が奇跡を起こすことを、信じてる」
「これからも、オイラみたいな弱者は、英雄たちの奇跡にすがるしかないから」
日が落ちていく。
キャンプの中には焚火が一つだけ灯されていた。
[難民キャンプ 早朝]
早朝、テントの入り口をガサガサと何かがつつく音で目を覚ます。
どうやら軍本部から飛んできた"ハト"らしく、新しい伝令書を咥えて君たちのもとへやって来たようだ。
ステラは泣き疲れたのか、眠っている。
うわ言で父親と母親を呼んでいた。
全員でテントの外に出る。
リックが"ハト"から伝令書を受けとると、"ハト"は遠くの空へ飛んでいった。
リック:「…えーと…次の任務は…っと…」
書面には、ネプトゥル前哨基地が包囲されかけているため、軍にとって重要人物であるイライアン・フリーマン大佐救出の依頼が書き記されていた。
リック:「フリーマン大佐って…あの"ウルカニア侵攻"の唯一の生き残りの…だよな…」
"ウルカニア侵攻"はこの島に住む人物なら誰しも知っている。
帝国の祖たる人物であるイガルルフタ1世が、ウルカニアの大地を支配下に置くために行ったものである。
帝国と共和国が"嘆きの丘"にて決着をつけようとしたとき、ウルカニア全土が氷に閉ざされるという異常事態が発生し、両国は停戦を余儀なくされた。
その嘆きの丘で唯一生きて帰ってきたのがまだ少年兵だったフリーマン大佐というわけだ。
彼は帝国軍一の切れ者と言われていて、身分による昇進ではなく、実力によって大佐の地位まで上り詰めた人物であり、君たち以上に人気が高く、英雄の一人として崇められている。
リック:「…今すぐにでも準備していかないと…とは思うんだけどさ…でも…」
ステラ:「お兄ちゃん、お姉ちゃん…どこ…?」
リックが心配そうに目配せしたと同時に、テントからステラの声が聴こえる。
丁度目を覚ましたようだ。
外に出て君たちの姿を確認すると安心した様子で駆け寄ってくる。
しかし、伝令書を見るなり、その表情は次第に曇っていった。
ステラ:「…新しいお仕事…?」
リック:「ごめんね、ステラちゃん…でも、俺達が行かないと、ステラちゃんみたいに悲しむ人がもっと増えちゃうかも知れないんだ…」
シノとノブナガは無言で身支度を始める。
エックス:「一緒にいてやれなくてごめんな、ステラ」
らびっと:「ステラ…俺のこと…覚えててくれよな…」
クアム:「あ…オイラは、どうしたら…どうしよう」
兵士:「クアム・トリスティーチア…ここにいたか」
クアム:「…!」
兵士:「こちらも同じくハトが届いたのだが…君にも指令が来ている」
クアム:「オイラに…?」
兵士:「"青の花"のバックアップに回れとの指令だ…行けるな…?」
シノの手が一瞬止まるが、何事もなかったように支度を再開する。
その横でクアムは一瞬、"青の花"の支援ができる喜びを覚えたが、泣きそうなステラの顔を見て、苦しい表情を浮かべる。
クアム:「…了解しました」
ステラ:「お兄ちゃん…お姉ちゃん…クアム…」
小さな身体を震わせて、言葉を絞り出す。
ステラ:「…うん…わかった…。悲しいのはみんな嫌だもんね…」
その少女からは"離れたくない"と言う感情を押しつぶしながらも、"悲しむ人が増えてほしくない"という思いで、君たちを見送ろうとしているのが痛いほどに伝わったきた。
ステラ:「…必ず帰ってきてね」
それ以上の言葉はなかった。
この少女にとっても君たちは希望なのだ。
クアム:「待っててステラ、オイラ必ず戻ってくるから」
ジャンヌ:「うん。約束は守るよ。絶対生きて帰ってくる」
らびっと:「変な野郎についていったら爆発するからなぁ」
エックス:「また会う日まで元気でいろよ?」
シノは支度を終えて立ち上がり、ステラの方に歩いていく。
シノ:「…おい」
ステラ:「…」
ガンベルトから一発の弾丸を抜きステラに差し出す。
シノ:「…これ持ってろ」
少女はうなずき、弾丸を受け取る。
シノ:「…いいか、それがあればオレは共和国のクソ野郎を1人殺せる…大事な一発だ。オレの力の象徴であり、証でもある…。お守り代わりに持っとけ…。今度会った時にしっかり返せよ。それまで無くすんじゃねえぞ」
ステラ:「…わかった」
マーキュリー:「感動したけれど、理由が男臭いわね…」
ジャンヌ:「シノらしいです」
シノは振り返り、荷物持って先にキャンプをあとにする。
君たちは気持ちを奮い立たせる。
身支度を整え、歩き出す。
この旅路を、嘆きのないものにするために。
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