5.シノの独白1


[D小隊 キャンプの外れ]


 シノはテントから1人抜け出し星空の下、薄明かりのもとで、いつものルーティンである武器の手入れを始める。

そうでもしていないと心が落ち着かない。


 何故なら、今日…初めて人を殺した。


―――志願兵として帝国に仕えることになった日から、覚悟をしていたことだ。

しかし、想像と現実は決して同じではない…。


 それでも…銃を選んで良かった。

何せ、剣や槍と違って殺した感触が手に残らないのだから…。


 いつもの訓練通り、的に照準を合わせて引き金を引く…ただそれだけだ。

何も変わらない…。


 唯一変わったのは、スコープの先に居るのが、撃ったら藁や綿を撒き散らし砕け散るだけの人形ではなく…赤い血しぶきをあげる人間になっただけだ…ただ、それだけだ。


 そう…何も変わらないのだ。


 殺らなかったら、殺られていた…。

殺られた瞬間をこの"眼"で"視"たのだ…。

間違いなくあそこで全員、死んでいた…。


 仕方がなかったのだ…。


 今日撃ち殺したあの兵士達にも、家族や大切な人がいたのだろう。

分かっている、頭では理解している。


 しかし、理解したところで殺すことには変わりない…。

それなら敵は全て、帝国に仇成す虫けらくらいに思っていないと…やっていられないじゃないか…。


 ただ覚悟をしたところで自分が強くなるわけではない…。

心の弱さがあった…そのせいで始めの頃は急所を外してしまった…。

自分の弱さのせいで一息に殺してやれなかった…。

加護や、この"眼"に頼らざるを得ない自分の弱さが憎い…。


 自分の死すら理解出来ないほど、一瞬で…少しでも楽に逝かせてやりたい…。


 こんな醜い戦争なんてものから、こんな嘆きの溢れる世界から…オレは、オレの前に立ちはだかるすべての敵を…救ってみせる。

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