4.夜明け前
[D小隊キャンプ 夜明け前]
リック:「ん、なんだマーキュリー、もう起きてたのか。ぶっ倒れたんだし、ちゃんと寝なきゃだめだぞ」
銃の手入れをしていたマーキュリーのもとにリックが訪れる。
今回の戦いで色々と思うことがあったのだろう。
倒れて寝込んでたせいで、まだ眠れないというのもあったのかもしれない。
とりあえず彼女が寝付けなかったのは確かだった。
マーキュリー:「ん…リックか」
怪訝そうな表情を浮かべ、マーキュリーが呟く。
リック:「おいおい、俺じゃなかったら誰がキャンプの見張りするんだよ」
マーキュリー:「そうね…思えばそれくらいしかできないものね」
悪態を付き、銃を傍らに置く。
リック:「まぁ…その通りなんだけどよ…」
「でも、みんなゆっくり休めてるみたいだし、悪くないだろ?」
「…どっかのぶっ倒れたのにちゃんと休まないやつを除けばな?」
マーキュリー:「…それとこれとは別でしょ」
少しの沈黙。
リックがその沈黙を破り、口を開く。
リック:「…あんだけの人数やっちまったんだ、寝れなくなるのが当然だよな」
マーキュリー:「へぇ、同感できるんだ」
リック:「…いや、同感なんて、本当は失礼なんだろうな…少なくとも俺は前線に出てないわけだし」
マーキュリー:「…」
「…前言撤回」
「はぁ、全くこれだから」
視線をそらし、銃へと目をやる。
マーキュリー:(…私は、人と正面から向きあうのが苦手なのに)
「ねぇリック」
リック:「ん、どうした?」
マーキュリー:「自分が戦えないこと、辛いの?」
リック:「…戦えないのは諦めてるけど…さ」
「みんなが傷ついてるのに、何もできないのは…辛いかな」
マーキュリー:「ふーん」
「例えば、というかおそらくだけど…これから先、誰か死ぬわ」
リック:「…そうかもしれないな」
マーキュリー:「何もできないのが辛いと言ったリックが一番、それを受け入れられないと思ったのよ」
「"その場にいて何もできなかった"って思うでしょう。"なんで戦えなかったんだ"って後悔が残るのよ」
リック:「…まぁ、多分そうなるだろうな」
マーキュリー:「みんなどう思っているかわからないけれど、正直なところ私は…リックは前線に出なくてもいいんじゃない? って」
「でもね、リック。後悔したくないなら最低限殺す術を覚えるべきよ。私はどっちでもいい。どっちを取るか、リック。自分で決めなさい」
リック:「…前線に出ても足手まといになるし、サポートに徹するよ」
マーキュリー:「ふーん」
リック:「でも、俺が誰かを倒さない分、倒してくれる人がいる。そいつらは、俺の分まで辛い思いしてるってことだろ?」
マーキュリー:「…覚悟はできてるのね」
リック:「だったらさ」
マーキュリー:「だったら?」
リック:「だったら…俺だけ辛い思いから逃げ出すなんてこと、しちゃいけないと思うんだ」
マーキュリー:「…今のままでいいのね」
「私が起きたとき、なんかリックが葛藤してたように見えたんだけど」
リック:「んー、確かに戦えないのは本当に申し訳ないと思ってるけどさ、マーキュリーと話してるうちに、自分がどう在りたいのか分かったんだ」
マーキュリー:「…口説いても堕ちないわよ」
リック:「口説いてねぇよ!」
「ただ、気使ってもらって悪いなって思っただけだ」
マーキュリー:「別に気を使ってもないわよ」
「私は私がしたいことをするだけ」
「言っておくけれど、私は名誉がほしい。私は立場がほしい。私は凛々しく有りたい。そのためなら何でもする。昔から言ってるでしょ」
リック:「分かってるよ、昔からそうだもんな」
「…なんだかんだみんなのために働いてくれてるってのに、素直じゃないところとかな」
マーキュリー:「…本当は私のこと好きなんでしょ?」
リック:「ん? そりゃあマーキュリーのことも大好きだぜ? だから、できれば誰も失いたくない」
「そのためには俺もできることはするよ」
「だから、忘れないでくれよ、お前もその一人だってこと」
マーキュリー:「そう、わかった。ならそうしなさい」
リック:「…あぁ、そうさせてもらうよ」
マーキュリー:(やっぱダメね。仲間を捨てきれていない。それを良しとできればいいのだけど)
(それがこの世界にとって甘えなのよ。ジャンヌもそうだけど)
(何かあったら捨てなさい、と言いたいところだけど。今のリックは言ったところで聞かないでしょう)
「…リック一つだけ言うわ」
「私は持病を持ってるの。今回はそれが悪さしたんだと思う」
リック:「おいおい、初めて聞いたけど、大丈夫なのかよ」
マーキュリー:「そうね。医者に聞いても治せないからね。大丈夫だと言われたらそうでないのかもしれない」
「でもそれを他の仲間に言ってみなさい。不安要素でしかならないでしょ」
リック:「いや…まぁそうだけどよ…でも、今回みたいにいきなり倒れるのも危ないんじゃないか?」
マーキュリー:「迷惑をかけるのでしょうね…けれどそれでも私は欲しい物が多いから」
リック:「…そっか」
マーキュリー:「私は利用することにしたよ。D小隊をね」
「だから余計に気になったのよ。リックが使い物になるか心配で」
リック:「…で、どうだったんだよ」
マーキュリー:「…ふふっ、気になる?」
小悪魔のような笑みを浮かべ、マーキュリーは尋ねる。
リック:「…いや、やっぱいいや」
「俺は俺のできることでD小隊のサポートをする」
「その結果でちゃんと認められてやるよ…!」
マーキュリー:「へぇ」
「…いい顔になったわ。私じゃなかったら惚れてるかもね」
リック:「おいお前それどう意味だよ」
マーキュリー:「…周りをよくみなさいよ」
リック:「…確かにテントから誰か抜け出してんな…」
マーキュリー:「…リックの一番ダメなところね…いや男どもはみんなそうかもしれない」
リック:「?」
マーキュリー:「別にいいわ。どうなっても私は面白そうだし」
リック:「…なんか、俺、からかわれてるのか…?」
マーキュリー:「ふふっ…」
夜は更けていく
日が昇ればまた君たちは戦いに赴くことになるだろう。
それでも、今は誰かがいなくならないようにと。
そう願うことしかできなかった。
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