3.ヴェルン要塞奪還作戦後編


[ヴェルン要塞 門前]


シノ:「…っ!」


ジャンヌ:「よし! 突撃ですね」


シノ:「………待て! 今突入はよくない」


シノ:「あと、30秒だ…それだけでいい。だから待て」


ジャンヌ:「…? わかった。それに従う」


 確かにシノは"視"てしまった。

窮地に陥った獣の如き猛攻で、一度D小隊は死んだのだ。

しかし、未来が見えたからと言って運命が確定したわけではない。

相手に考える時間を与え、冷静さを取り戻させることで、未来に抗おうとしたのだ。


 だが、未来視で見ることの出来なかった先へ進むことができたとして、そこにいる脅威と対峙することに変わりはなく、要塞内部の敵兵の圧倒的な数が君たちを苦しめる。

陣形を組んで待ち構える敵兵を一人ずつ倒すも、要塞の奥から増援が現れては陣形の穴を埋めていくのだ。

"壁"が迫る。


 ノブナガは騎獣と共に立ちはだかるも、敵兵が倒れるよりも早く次の敵兵がこちらに現れ、その動きを鈍らせる、ジャンヌが神聖魔法を行使し、ノブナガの傷を癒すことで時間を稼ぐ。


 その間に、エックスとマーキュリーはノブナガたちが押さえていない通路の敵兵を排除し続ける。

事前にシノに伝えられた作戦を遂行するためだ。


 要塞の通路は口の字のようになっており、その裏側から指揮官を撃ち抜くためにシノは別の道を走りだした。

所詮、相手は素人の集まり。

それぞれの通路へ連絡が行き届いていないのだ。


 ガラ空きになった通路をただひたすらに駆け抜け、たどり着く。

指揮官を目視し、慎重に狙い澄ませる。

ここで外してしまえばこれまでの作戦は失敗し、未来を変えようとした努力も水泡に帰すだろう。

訓練同様、的に向かい、トリガーを引いた。


 指揮官がその場に崩れ落ちる。

指揮系統が崩壊したことにより、陣形は瓦解、敵兵たちは慌てふためくが、先ほど見た未来とはその様子はまるで違った。

次は自分たちがああなるのかと、怯え、恐怖し、逃げ出そうとするものがいた。

そうなってしまえばあとは簡単だ。

狩るものと狩られるものとなったこの要塞は、もはや戦場ではなく、一方的に虐殺を行うだけの場になっていた。


 そうして城内に静寂が訪れ、君たちは気が付く。

自分たちの身体から、いつの間にか嗅ぎなれてしまった血の匂いがすることに。

そして制圧は完了したのだ、すべての敵兵を死体の山に変えることによって。


マーキュリー:「…!」


 その瞬間、マーキュリーの脳内に洪水のように記憶がなだれ込む。

はっきりとは見えない、しかしそれは、倒れている敵兵にも家族や恋人、友人がいたという彼らにとっての温かい記憶だった。


 様々な記憶が混濁し、反響し、やがて、意識を失うだろう。


シノ:「…!! おい!」


 マーキュリーが倒れたのを見て、仲間たちがすぐに駆け寄る。


ジャンヌ:「マーキュリー! マーキュリー! 返事がない…! 呼吸と脈はあるけど…」


ノブナガ:『さっさと帰るぞ』


 倒れたマーキュリーを担ぎ、ヴェルン要塞を出る。

物言わぬ死体は、目を見開いたままこちらを睨んでいる気がした。






[D小隊キャンプ]


 マーキュリーが目を覚ますと既に周囲は暗くなっていた。

キャンプの外では焚き火の温かい炎がゆらめき、音を立てている。


エックス:「おお、マーキュリー! 目が覚めたか」


マーキュリー:「ここは…」


リック:「心配したんだぜ? 突然ぶっ倒れやがって」


シェリー:「マーキュリィィイイイイ!」


 シェリーはマーキュリーの懐に飛び込み、頬を擦り付ける。


マーキュリー:「ちょっ…シェリー…」


シェリー:「よかったぁぁあ」


ジャンヌ:「よかった…目が覚めてくれないのかって心配したよ」


 包み込むようにジャンヌが二人を抱きしめる。

生きていることを確かめるように、強く、強く。


マーキュリー:「ジャンヌまで…」


シノ:「……」


 その様子を見て、壁にもたれ掛かりながら何も言わずにシノはそっぽを向いていた。


マーキュリー:「もう…大げさでしょ」


シェリー:「これ…あげる!」


 シェリーはポーチの中からドライフルーツを取り出し、マーキュリーの口へ放り込む。

ドライフルーツを噛み、飲み干すとマーキュリーは言葉を続ける。


マーキュリー:「…心配し過ぎよ」


ジャンヌ:「ううん、大げさじゃないよ。だって、怪我は完治させた。毒もない。それなのに目が覚めなかったんだよ? 原因不明なんだよ」


マーキュリー:「…そう」


シェリー:「あとね、はちみつ食べると元気になるんだよ!」


 そういうとシェリーは鞄の中から<七色はちみつ>の入った瓶を取り出し、蓋を開ける。


マーキュリー:「えっ、はちみつ…どこで」


シェリー:「シェリーのおやつなの」

「お小遣いでかったんだー!」


マーキュリー:「それ大事なやつでしょ…」


ジャンヌ:「ふふふ、みんなマーキュリーを心配してたんだよ」


シェリー:「いいの食べるの!」


 スプーンにはちみつを掬い、無理やりマーキュリーの口へ突っ込む。

甘さが広がり、まろやかな舌触りは喉を通っていく。


マーキュリー:「はむっ…ちょ…」


ジャンヌ:「シェリー、マーキュリー疲れてるから。少し休ませてあげてね」


マーキュリー:「大丈夫よ。もう平気だから」

「…ちょっと貧血おこしただけでしょ」


ジャンヌ:「…体調が悪かったら、ちゃんと言ってね」


シェリー:「分かった! これ焚く!」


 マーキュリーがよく眠れるようにと、シェリーは<眠慈の香>に火をつける。

独特の安らかな香りが、辺りに広がる。


マーキュリー:「えっ、ちょっとまってその匂い」

「みんな寝ちゃうんじゃ…」


ノブナガ:(あれは眠りの香ではないだろう)


ジャンヌ:「あれ…これ眠くなるやつじゃないの?」


シェリー:「ぐっすり眠れるやつだよ!」


マーキュリー:「わ、わかってたわ…!」


 発言をごまかそうと必死にうなずく。


ノブナガ:『眠らせる香があるなら敵の陣でしてもらいたいものだ』


リック:「…にしても、やっぱ皆、本当につえ―よなぁ…」


シノ:「…リック、あんなの強さでも何でもない」


リック:「いや、それでも俺から見たら強いんだよ」

「俺は…相手のこと考えちまうと…どうもうまく殴れなくなっちまう…」

「だから、それを割り切れるみんなは、やっぱり強いんだなって思うよ」


ノブナガ:『殺さなければ生き残れない。なら殺すしかないだろう?』


エックス:「人を殺すのが上手いの奴が偉いのか? 俺はそうは思えねえなあ」


リック:「…偉いとは思わないさ、俺だって、できれば早くこの戦いが終わってほしいと思ってる」

「でも…戦えない自分の不甲斐なさを見てると…さ…」


シノ:「…リーダー、我ら帝国軍人の誇りを貶す気か?」

「……割り切れよ、とうにオレらの手は血で濡れてる。こんなの、祖国の為と思っての行為と胸を張って言えなきゃ………ただの人殺しになっちまうぜ」


エックス:「俺は馬鹿だから帝国の誇りとか詳しくないけどよ、戦えないから役に立てないなんてことはないだろ。いつも斥候やってくれるし、今日も旨い飯作ってくれたし」

「さっきだってお前とシェリーが倒れた俺を運んでくれたんだろ? ありが…むにゃ…」


 緊張の糸が切れたのか、倒れるようにエックスは眠りにつく。


マーキュリー:「ひとり寝たんですけど…」


リック:「まぁ、さすがに疲れてたんだろ…。寝かせてやろうぜ…」


シェリー:「zzZ…」


リック:「…それでも、俺は戦ってくれるみんなのこと、誇りに思ってるし、認めてるぜ!」


マーキュリー:「リック…」


 マーキュリーの脳裏には、先程見てしまったビジョンがまた浮かぶ。

リックが誇りと言ってくれる自分は、本当に正しいものだったのだろうか。


ノブナガ:『今回は疲れた。我は休む。馬にも休みをやらんとな』


リック:「あぁ、大活躍だったもんな! ゆっくり休んでくれ!」


 俯くマーキュリーに向かい、シノは重い口を開く。


シノ:「…これだけは言っておくぜマーキュリー、この先付いてこれないなら…お前は家に帰った方がいい」


 暗闇の中からペスカトーレ少佐の声が聞こえてくる。

その声は徐々に近づき、君達の前に姿を現す。


ペスカトーレ:「ん、良くやった。D小隊」


ジャンヌ:「少佐!」


シェリー:「おかし!」


ペスカトーレ:「この功績は皇帝陛下の耳にも届くだろう」

「戦争を戦い抜く新たな英雄として、な」


ジャンヌ:「…少佐は、英雄が好きなのですか?」


ペスカトーレ:「うーん…お菓子のほうが好きかな、食べられないし」


マーキュリー:「シェリーじゃん…」


シェリー:「なかま! イエーイ! …っあ」


ペスカトーレ:「…」

「お菓子、いる?」


シェリー:「うん!!」


シノ:「…弁えろシェリー」


ジャンヌ:「ボクは、みんなに生きてほしい。生きてほしいから軍に参加した」

「英雄は嫌いです…勝手に戦って、勝手に死に場所を決めて、勝手に消えていく」

「ボクは…みんなが英雄になってほしくない…だれも消えてほしくない」


マーキュリー:「ジャンヌ、そんなこと言ってたら上官を困らせるだけでしょう?」


ペスカトーレ:「…そうだね…でも、僕たちは祖国を守らないといけない。…そうしなければ、いけないんだ」


 気のせいか、その声は微かに震えていたように感じた。


マーキュリー:「すみません、こんな部隊で」


 頭を下げるマーキュリーは、その震えを感じ取ったようで不思議そうな顔をしていた。


ペスカトーレ:「ん、若いのは元気なくらいがちょうどいい」


シェリー:「友達が死ぬなんてやだもん、そんなの幻にするもん…」


シノ:「ジャンヌ…オレは家の為、祖国の為、帝国の先駆けとして、剣を向ける全ての脅威を撃ち貫く…ただ、それだけだ…」


リック:「…俺も、もっと強くならないとな…」


ジャンヌ:「…少佐は思った通り、優しいですね。普通…ここは"そうだね"なんて…相手を想う言葉は出てきませんよ」


マーキュリー:「…」


ジャンヌ:「だから、ボクは…そんな優しい少佐だからこそ。上官でよかったと思っています」

「少佐に元気な姿を見せるためにも、絶対死にません。死んでも生きて帰ってきます」


ペスカトーレ:「ん、そうかい、照れるなあ」


マーキュリー:(リックは葛藤している。シノは自らの正義を貫こうとしてる)

(少佐は戦について思うところがある。何かまではわからないけどきっとそれは辛いことだと思う)


シノ:「…はっきり言ってリック、お前は戦闘には向いてない…。お前はすばしっこくて目や鼻が利く。すごく助かってるよ…だから、強さの意味を履き違えるなよ…」


リック:「…あぁ、戦闘も…と言いたいところだが、戦闘以外なら任せてくれ…!」


シノ:「……ああ、頼りにしてる」


ペスカトーレ:「ん、頼むよD小隊」


シノ:「はっ! 帝国万歳!」


 そうして、D小隊の功績は瞬く間に帝国全土に広まる。

"D小隊に続け"と若い兵士たちが言った。

"若いものに負けていられない"と熟練の兵士たちが言った。

そんな兵士へ指示を出す上官たちも喜びを隠せていなかった。


 君たちの活躍により帝国軍はかつての士気を取り戻し、大きく戦況を巻き返し始めるだろう。

ペスカトーレ少佐の言う通り、D小隊は"若き英雄"として大陸全土にその名を轟かせ、"奇跡の花"を戦場に咲かせたと後に語られることとなる。


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[成長]


PC1

エックス/冒険者Lv3

HP:22/MP:14

シューター3Lv

スカウト3Lv

エンハンサー1Lv 


戦闘特技

《ターゲティング》

《狙撃》

錬技

【キャッツアイ】


武器:ヘビーボウ

防具:なし




PC2

ノブナガ/冒険者Lv3

HP:27/MP:16

ファイター3Lv

エンハンサー1Lv

ライダー2Lv


戦闘特技

《武器習熟A/スピア》

《両手利き》

錬技

【キャッツアイ】

騎芸

【高所攻撃】

【チャージ】


武器:ノーマルランス

防具:プレートアーマー

騎獣:ホース




PC3

ジャンヌ/冒険者Lv3

HP:27/MP:21

プリースト3Lv

ファイター2Lv


戦闘特技

《魔法拡大/数》

《魔法拡大/すべて》


武器:ヘビーメイス

防具:チェインメイル、タワーシールド




PC4

マーキュリー/冒険者Lv3

HP:25/MP:24

シューター3Lv 

マギテック2Lv 

セージ2Lv

エンハンサー1Lv

戦闘特技

《ターゲティング》

《武器習熟A/ガン》

錬技

【キャッツアイ】


武器:トラドール、デリンジャー×2

防具:ソフトレザー




PC5

シノ/冒険者Lv3

HP:23/MP:24

シューター3Lv

マギテック2Lv

スカウト1Lv

エンハンサー1Lv


戦闘特技

《ターゲティング》

《狙撃》

錬技

【キャッツアイ】


武器:トラドール

防具:クロースアーマー

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