第28話『反撃の狼煙-2』



「僕ちんが……負け? くひゃひゃひゃひゃひゃ。なーにを言うかと思ったらバッカじゃないですかぁぁぁ? 主人公召喚士だかなんだか知りませんが頭ぱっぱらぱーじゃないですかねぇ!?」


「クククククククク。終わりの決まった悲劇的な劇ゆえ、消えゆく最後に口も挟まず見守っていたが……強がりもそこまでいくと滑稽だな、主人公召喚士殿」




 敗北を言い渡されたサーカシーとボルスタイン。


 そんな彼らは、ペルシーの言う自分達の敗北などあり得ないと笑う。



「小娘ちゃんはセバーヌの力を手に入れたと言ってるみたいですが……それもほんの欠片程度なのでしょう? それに、あいつの力は多大な代償を支払ってようやく得たもの。代償も払ってない小娘ちゃんが満足に扱えるとはとてもとても思えましぇーーーん。くひゃひゃひゃひゃひゃ」


 サーカシーはセバーヌの力をペルシー程度に手に入れられる訳がないと哄笑をあげる。

 そして、それにはボルスタインも同意を示し。


「サーカシー殿の言う通りだとも。君がセバーヌの力を手にしていると聞いたときは少し取り乱してしまったが……考えてみればそんなもの恐るるに足りんのだ。

――なぜなら彼の条理を捻じ曲げ結果のみを得る力は完成されたもの。ゆえに、その力の三割を君が手にしたとしても現状の打開など出来るはずがない。せいぜい、現実的にあり得るであろう可能性を引き寄せることが出来る……その程度だろう」


「そして、この世界の物語の結末はどのように進もうとも悲劇だ。ゆえに、現実的にあり得るであろう可能性をいくら引き寄せた所で悲劇は避けられぬ。つまりは詰んでいるのだよ。盤面をひっくり返しでもせぬ限り、この詰んだ盤面は覆らない。そう――それこそセバーヌのように……ね」



 悲劇が決まったこの世界の命運を劣化したセバーヌの力で変えられる訳がないと断言する。



「笑いたいなら笑えばいいです。でも、結果は既に見えています。ボルスタイン……あなた風に言うならば既に結末は決まっているというやつです。サーカシーはラースさんに敗れ、ボルスタインもラースさんに敗れる」


「俺が!? ペルシーがやるんじゃなくて!?」


 てっきり覚醒したペルシーが後の事を全部やってくれるのだと思っていたが……そういう訳じゃないらしい。

 そもそも、俺如きがボルスタインはともかくサーカシーに勝てるなんて到底思えないんだが――


「ええ、私では無理です。これは……ラースさんにしかできない事。私を信じてください。大丈夫です。ここから先、ラースさんが酷く傷つけられることなんてありません」


 俺の目をまっすぐ見て断言するペルシー。

 彼女にしか見えていない何かがあるんだろう。

 だから俺は――



「ったく……分かったよ。他に手がある訳でもないしな。ここはお前を信じる事にする」


「ありがとうございます」


「俺が戦っている間、ルゼルス達を頼んだ」


「元よりそのつもりです。特にルールルさんとは少しお話をしないといけませんしね」


「話?」


「ええ……それは――」



 そう言って俺に耳打ちするペルシー。

 俺はそんな彼女の話を聞いて――



「――マジか。本当にそんな事が?」


 ちょっとばかし信じられない事を聞かされ、聞き返す俺。

 しかし、ペルシーは軽く微笑むだけで俺の質問に答えることなく俺の背後に控えているルゼルスとルールル、それとマサキが居る場所まで歩き、ルールルと話し始めた。



「うぷぷ……うぴゅぷぷぷぷぷぷぷぷ。あーひゃっひゃっひゃひゃ。僕ちんがこいつに負ける? ないない絶対にないですねぇ。なにせこいつ、僕ちんに手も足も出てなかったんですよ。そんなこいつちゃんが僕ちんに勝てる訳ナッシングゥッ!!」




 そんなペルシー達の事など眼中にないのか、サーカシーが俺を敵意に満ちた目で睨む。

 それは奴がただ一人の男……セバーヌにしか向けなかった目。

 俺にはそれが――相手を脅威に感じている目に見えた。



「さぁやりなさい傲慢、そして強欲。こいつのプライドをへし折り、その肉体を永遠に搾取してやるのですっ!!」



 そうして動きを再開させる二つの拷問道具。



「――仕方ねぇなぁもうっ! 信じるって言ったからにはとことん信じてやる。上手くいかなかったら呪ってやるからなぁっ!!」



 啖呵を切って俺は二つの拷問道具を迎え撃つ。



 最初に動いたのは傲慢。少年の形をした金の像だ。



『――命令する。ラースよ……這いつくばれ』



 傲慢による言霊。絶対服従の命令。

 それを受けて俺は――




「――たぶん効かんっ!!」



 傲慢による言霊支配。

 ココウですら屈したその支配を、俺は苦にも感じず跳ねのけてみせた。





「にゃにぃっ!?」

「これは――」

『なん……だと?』



 驚愕するサーカシーとボルスタイン。そして言霊を使った傲慢の拷問道具。

 しかし、それで脅威がなくなった訳じゃない。



『寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい』



 こちらの展開などまるで気にしていない強欲の傲慢道具が俺の肉体を貪り食おうと数多の巨大な手を伸ばす。

 その姿はまさに悪に満ちた千手観音。堕ちた千手観音とも呼ばれるソレは何もかも奪おうと迫ってくる。

 俺はそれらを迎えうち、その幾本かの手に触れてしまうが――



「やらねえよっ!!」



 俺は自身の身体を奪われることなく、逆に強欲の拷問道具の数多ある手の幾本かを斬り飛ばす。



「お前は後回しだっ!!」


 奪った物をエネルギー源として再生する強欲の拷問道具。

 こんなものを延々と相手してもキリがない。

 だから俺は――



『なっ貴様……まさかっ――。くっ、命令する。ラースよ動くなぁぁっ!!』

 

「もうそれは効かねえって言ってんだろっ!!」



 俺は口元しか動かすことが出来ない少年の形をした金の像……傲慢の拷問道具へと思いっきり拳を叩きつける。

 


 バキィンッ――



『この……不敬な……この僕にこんな……』



 俺の拳を受けあっさりと崩れる傲慢の拷問道具。

 これにも再生機能はあるが、強欲の拷問道具ほどのスピードで再生はしない。

 少なくともすぐにまた対峙するという事はないだろう。




「しかしこれは……ペルシーの言ってた通りとはいえ、凄いな……」



 本来であれば傲慢も強欲も、どちらも俺の手には余る相手のはず。

 そのはずなのに、苦も無く傲慢を破壊できてしまった。

 その最大の要因はどちらの拷問道具も俺にダメージを与えられなかったがゆえだ。




 なぜそんな事が起こり得るのか。

 それに関しては先ほどペルシーから聞かされている。

 正直、内容が内容だけに信じ切れていなかった感があったのだが……こうなってくると信じない訳にもいかない



「――となればだ」



 俺達がペルシーの立てた希望への道筋をきちんと進めているのならば。

 アレも上手くいくはず。



 ――そんな事を考えた瞬間だった。



「――隙だらけなんですよぉアンポンタンッ!!」



 響き渡るサーカシーの声。

 直後、俺の脳天に突き刺さるサーカシー渾身の一撃。

 ドゴォォォォォォォンッ――と轟音が響き渡り、とんでもない衝撃ゆえか辺りが閃光に包まれる。


「ぷひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。クリーンヒットォ。僕ちんの本気の一発です。お前ちゃんうざったいですからねぇ。ちょいと脳天ぶちまけてやりましたよザマァミロォッ!! ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


「ククク。予定外の事態が発生したときはどうなることかと肝を冷やしたが……今の一撃を受けてはいかに主と言えども無事では済むまい。サーカシーの一撃ゆえ死ぬことはないだろうがね。後はサーカシーが嫉妬の拷問道具にて主を拘束すればしまいだ。しかし……ククク。なんとも悲劇的ではないか。自ら召喚したラスボスにこうまで苦しめられるとはね。私が描いた以上の悲劇だよ。クククククククク。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」



 眩すぎる閃光がこの一帯を覆う中で響き渡るサーカシーとボルスタインの哄笑。



「さぁて……お前ちゃんは僕ちんの持ち物を壊した挙句、僕ちんをいいように使った大罪人です。なので罪状……無期懲役ィィィッ。この嫉妬にてくるんで永遠に虐めてくれましょう――」


 そう言って、サーカシーは嫉妬の拷問道具を手にした。

 しかし――



「違うな……無期懲役はお前らだよサーカシー……それにボルスタイン」



 嫉妬の拷問道具を手にしたサーカシーのその手を――何のダメージも受けていない俺はガシッと掴み、その使用を阻止するのだった。



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