第27話『反撃の狼煙』
「ラー君……ダメェェェェェェェェェェェェェェッ!!」
その声に身を固くしていた俺は反射的に振り返る。
見れば、そこではルールルが俺の身を案じるゆえか、ルゼルスに腕を引かれながらも手をまっすぐこちらに伸ばし悲鳴を上げていた。
その瞳からはボロボロと涙を流し、イヤイヤと頭を振っている。
おそらく、もう見ていられないと言わんばかりに俺の下に駆けだそうとしたんだろう。
しかし、それをルゼルスに止められた。
なにせ、ルールルはラスボスとはいってもその身体能力は普通の少女とさして変わらないからな。
「………………うひゃひゃひゃひゃひゃ。これでも立ってられますかねぇ……って……んん?」
「ん?」
訝し気なサーカシーの声。
そこで、俺も気づく。
「なんだこれ……傷が……癒えてる?」
これまでのサーカシーの拷問によって出来た傷。
それらが綺麗さっぱりなくなっている。痛みももう感じない。
更に――
「これはサーカシーがさっき投げた奴……だよな? それなのに俺、なんともなかったのか?」
俺の足元には先ほどサーカシーが投げたドリルが転がっていた。
サーカシーが投じたドリルによって俺がノーダメージ? それは考えづらい。
しかし、これを投げたサーカシーが狙いを外したというのもやはり考えづらい。
なら……なぜ?
「不良品ですかねぇ。失敗失敗。それじゃあ今度は直接ぐさっといってみましょうかぁっ!」
「くっ――」
そうして新たなドリルを手にしたサーカシーがゆっくりと俺にドリルを近づけてくる。
ギュィィィンと耳障りな回転音を奏でるドリル。
避けようと思えば避けれるが、そうすればサーカシーは罰と称してルゼルス達にその狂気を向けるかもしれない。
ゆえに、痛いのが分かっていても……どれだけ怖くても……俺はその狂気を受け入れなければならない。
サーカシーはそれを俺の足先からじっくりたっぷり削っていこうと押し当て――
ギュイイィィィィン――
俺の右足先に押し当てられるドリル。
先ほどと変わらぬ耳障りな回転音を奏でるばかり。
そう――まるで空をきっているかのようにドリルはその音を変化させていなかった。
(なんだこれ……全然痛くないぞ?)
触れている感覚はある。
だが、こうして直接触れられていても肉どころか爪すらも抉られていない。
ほぼノーダメージというやつだ。
サーカシーが遊んでいるのかとも思ったが――
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なにこれなんですかこれあり得ないでしょうこれぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
思いっきり取り乱しまくっているサーカシーを見て、それは無いなと確信する。
「面倒な……何かしらの硬化の能力でも使ったみたいですねぇ。お前ちゃんはラスボス達の力を引き出せるみたいですし、そういう事ですか」
そう結論付けるサーカシーだが、それはあり得ない。
確かに、鋼のような肉体を持つココウのようなラスボスは存在する。
しかし、それはあくまで単純に物理耐久力が優れているだけに過ぎない。
サーカシーが言うような、いきなり硬度を上げるといった事が出来るラスボスは居ないはずなのだ。
そうなるといきなり俺の身体が硬化したようなこの現象について説明が出来なくなるのだが――
「ちっ、なーんかまたシラケちゃいましたね……仕方ありません。レベルMAXで一気にこの茶番を終わらせてしまいましょう」
そんな事を考察する余裕はないようだった。
「おい……徐々にレベルアップしていくんじゃなかったのか?」
「――飽きました。それもこれもシラける事をしたお前ちゃんが悪いんですからね?
全部全部ぜーんぶお前ちゃんのせいなんですよラースゥゥゥゥ?
さぁ――再びいでよ、傲慢……そして強欲。最大級の苦痛をあいつに与えてやりなさい」
そうして再び現れる傲慢と強欲の拷問道具。
それらは現れると同時に動き出した。
それに対し、身構える俺だったが――
「――やっと……届いた」
「え?」
不意に響く声。
そしてそれは……俺達が待ちわびた声でもあった。
響く声はペルシーのもの。
これまでセバーヌの力を手に入れようと自分の世界に没入していた彼女。
「全てを覆す突破口……条理も何も無視するセバーヌさんには遠く及ばない。そこに至ろうともがいていましたけど……やっぱり紛い物の私じゃ無理でした」
無理だったという割には悲観した様子のないペルシー。
彼女は覚悟に満ちた眼差しをサーカシーへと……そして成り行きを見守っているボルスタインへと向け。
「けど、そこに至る現実的な可能性さえ生まれたのなら話は別です。サーカシー……そしてボルスタイン。あなた達は私たちの事を甘く見過ぎた。こうして多くの時間を私たちに与えた事……その事があなた達の失策。あなた達の……負けです」
そう言って、勝利宣言をするのだった――
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