第24話『迫る強欲と命令する傲慢』


 ――と気合を入れなおしてみたはいいものの。



『――全員ひれ伏せ。頭が高い』


『寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい』


 サーカシー本体が後方でのんびりしているとはいえ、相手は大罪シリーズの傲慢と強欲。

 正直、どっちか一つが既に並みのラスボスよりも高みに居ると言っても過言ではない存在だ。


 それをペルシー達を守りながら相手するとなると……時間を稼ぐだけでも正直しんどい。

 だが……やるしかないっ!!





「ひれ伏してなんてやらねえよっ!! 行くぞルゼルスッ!!」


「――ええ。道具如きが。この私、魔女であるルゼルス・オルフィカーナの全てを奪うなど笑止千万!!」



 そうして、俺達二人の唄が場を支配する。



『拒絶する。拒絶する。我は拒絶する。如何なる者も拒絶せし暗黒の深淵』


『誰も寄せ付けない。私たちだけの宝物。触れるな触れるな触れるな。触れるのならば覚悟しなさい。骨の髄まで燃やしてあげる』


『闇の炎にて遮断する。時よ、影よ、宝石よ……我の紡ぎし全てよ。今こその者達から我らを守りたまえ。侵略者達の暴挙など許されない。我らはただここに在りたいだけなのだ』


『彼の生きた証である全て。彼を構成する全てと私の闇をもて敵を阻め。時よ断絶しろ。影よ阻め。宝石よその強固さを維持せよ。それら全てを闇よ覆え。強固なる壁となれ』




 オリジナルの魔術。

 ただただ防御にのみ全振りした俺とルゼルス合同の魔術。

 そんなゲームにも登場しなかった魔術が今、俺達を守護する。



「「攻性防御結界――ラスボス達の禁域きんいき……展開!!」」





 そうして展開される俺とルゼルスの漆黒なる闇の炎。

 黒く揺らめく炎は触れる物を焼き尽くす。炎による防御結界。



『寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい』



 しかし、その防御結界に臆することなく強欲の拷問道具こと堕ちた千手観音は俺達に向かってくる。

 俺達が張った炎の結界に手を伸ばし、炎すらも奪ってみせようという構えだ。



 だが――甘い。


 ギィンッという金属音と共に堕ちた千手観音の手が俺たちの結界に弾かれる。



『寄越しなさい。寄越しなさ――む?』


「ふむん? おややぁ? これは……」



 いくら何物をも焼く炎だろうと炎はあくまで炎。

 本来であればこうして弾く事などあり得ないが、この結界を構成しているのはなにも炎だけではない。



『寄越しなさい。寄越しなさい』



 それでも繰り返し数多の手を伸ばす堕ちた千手観音。

 しかし、それらも等しく俺とルゼルスが張った結界ははじき返す。



 ギィンッ――カァンッ――



 響き渡る金属音。

 それらはアリスの能力である宝石によるものだ。

 相手が結界に触れた瞬間、その場所にて宝石は防御陣を形成し炎と連携してその一切を阻む。

 


『煌びやかな宝石……大儀である。しかし、足りぬ。まだまだ寄越しなさい。寄越しなさい』


 防御に使われている宝石を貢物として自身の内に収めていく堕ちた千手観音。

 しかし、その程度の貢物では止まらない。

 宝石による防御陣。全てを焼く炎。


 それでも、この傷ついてもすぐに回復する強欲なる堕ちた千手観音は止まらないだろう。

 すぐにでも宝石による防御を越え、炎で焼かれながらも俺とルゼルスの肉体ならず魂すらも搾取しようと迫るに違いない。


 だからこそ――追加の弾は既に装填してある。


『寄越しなさい。寄越しなさい』


 予想通り宝石による防御陣を乗り越え結界の中心である俺達へと迫る堕ちた千手観音。

 だが――



『寄越しなさい。寄越し――――――――――――』


 


突如動きを止める堕ちた千手観音。

そして、それを即座に炎によって出来た影が実体化して結界の外へと押し戻す。

その間、コンマ数秒。



『――――なさい。寄越しなさい』



 そうして動きを再開させる堕ちた千手観音。

 幾本もの腕が焼け落ち、宝石によって欠けたりもしているが決して動きを止めない。

 強欲にも数多の品を取り込んだコレは、それを動力源として永遠に動き、再生し続ける。


 例え破壊され破片になったとしても、強欲にも全てを欲する堕ちた千手観音は手当たり次第に色んなものを取り込むのだろう。

 だからこそ、強欲の拷問道具と呼ばれているのだ。



「――とはいえ、そんな強欲様も万能じゃない。ココウによる時間停止とリリィさんの影。それらも合わせればこうして時間稼ぎくらいは出来る。もちろん、これが永遠に続くとなるとエネルギー切れでこっちが先に参るかもだが……ペルシーの為の時間稼ぎって意味ならこれがベストだ」


「アレと正面切って相対するのは危険だものね。それに、よしんばアレを倒したとしても後ろにはサーカシーが居る。アレをどうにかする手札なんて私たちにはない。なら、こうして時間稼ぎをするのがベストなはずよ。そうしている間にペルシーがセバーヌの力を物にしてくれれば――」



 そう言って俺とルゼルスは背後に居るペルシーの様子をうかがう。

 まだまだ時間はかかるようで、こんな炎の結界の中にあるというのに変わらず目を瞑ってうんうん唸っている。

 傲慢の『ひれ伏せ』という言霊の効果はペルシーにも及んでいるようだが、幸か不幸かそれで集中力は乱されていないようで、ひれ伏しながらもきっちり自分の世界に没入したままだ。

 しかしこいつ……相談も何もなしにここまで無防備になっといてそれをこんな長い時間続けるって……俺達が守ってなかったら十回は死んでるぞ。いや、相手が不殺のサーカシーだから絶対に死なないんだけどさ。


 これは……アレか? 主人公様だから仲間の事を信じてるんですとかいうそういうオチか?

 これで最後に結局上手くいきませんでしたとか言おう物なら……一生恨むぞおい。





 そんな批難じみた視線をペルシーへと向けていると。



「ラ……ラー……君……後ろ……」



 掟作成の力を失い、傲慢の言霊に逆らう術のないルールル。

 彼女は這いつくばりながらも、声を震わせながら俺の後ろをゆっくりと指さす。

 


「「後ろ?」」



 振り返ってペルシーの様子を窺っていた俺とルゼルス。

 しかし、そんなルールルの言葉に視線を前に戻してみれば――




「――――――――バァッ!!」



 世にも恐ろしい血まみれピエロの姿がドアップでそこにあった。

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