第21話『強欲』
「……なぁマサキ。なんか時間稼ぎ出来る感じのいい作戦ってないか?」
「――現状では皆目見当がつかない。アレは規格外すぎる。弱点らしい弱点と言えば……常に正気じゃないという所だな。だが、それは精神的な攻撃が効果を発揮しないという長所でもある。むしろ俺の方が聞きたい。アレの弱点は何かないのか? それはラスボス召喚士のお前の方が知ってるだろう?」
「――ゲームでもセバーヌがウルトラインチキパワーで倒した感じだったから弱点らしい弱点が描かれてないんだよ……。アレで元は普通の人間なんだから笑えない……いや、それはセバーヌもなんだけどさ」
――と、解析班のマサキ君もお手上げ状態だ。
そもそも、サーカシーに弱点なんて物が設定されていれば俺が知ってるだろうしなぁ。俺が知らないという事は特にそういうのがないという事だろう。
「なにはともあれ……実質残り四人。半分になっちまったか……」
まだ半分居るから大丈夫と言いたいところだが、全員で『かかれぇっ!』という感じで行くわけにはいかない。というか、それをやるくらいなら最初からやってる。
それが出来ない理由は単純に――
「大きい……これをうまく……中に……うん……でも……肝心の手段が――」
未だに何やらぶつぶつと呟くペルシー。
その内容からセバーヌの残した力をどうにか使いこなそうとしているのだという事は分かるのだが……まだかかりますのん?
正直、今は一秒時間稼ぎするのすらしんどいサーカシーが相手だから早くして欲しいんだが……。
こうしている間にも――
「さぁて、誰も来ないようですしこちらから行きましょうかねぇ。さぁて、ダ・レ・ニ・シ・ヨ・ウ・カ・ナぁぁぁぁぁぁ?」
俺たちの中で誰を標的にしようかと悩んで見せるサーカシー。
最初からそうだったが、サーカシーは既に自分の勝ちは揺るぎないと思っているようで、今も嗜虐的な笑みを浮かべながら「天の神様の~~」などと遊び感覚で次の対戦相手ならぬ次の拷問相手を選ぼうとしている。
そこで――
「――そろそろ行かないといけないかな……。ラースさん、ルゼルスさん、七輝さん。ペルシーさんをよろしくお願いします。今は彼女だけが僕たちの唯一の希望です」
「――ったく。しゃあねぇなぁ。働きたくはねぇけど……もうそんな事言ってる場合じゃねぇわな。おい、俺も行くぜ信吾。お前一人じゃアレはどうしようもないだろ。ここは一つ、俺らであのキチガイ倒して主人公の底力を見せてやろうぜっ!! やるんだ俺ぇっ! 頑張れ柊七輝ぃぃぃっ! 要は気合いだ気合!! これが終わったら今度こそ長期休暇だクソヤロォッ!! 元の世界戻って英雄として一生働かず俺の自由な意思の下に遊びつくしてやるぜぁっ!! イエァァァァァァッ!!」
「七輝さん……。ええ、やってやりましょう! 僕たちが力を合わせればきっと奇跡は起こせる……起こせるんだっ!!」
万が一にもペルシーを標的にさせる訳にはいかないと出陣する信吾と七輝。
しかし真面目な信吾はともかく、基本ぐうたら癖のある七輝が自分から働こうとするとは……。やたら自身を鼓舞しながら行ったのが少し気になるところではあるけど。
「行くぜセルンッ!」
七輝はすぐさま巨大ロボットであるセルンを呼び出し、それに搭乗。
そのまま拳を振り上げ。
「ちょっ七輝さん!? せっかく二人で攻めてるんですからもっとこう連携とか……」
相談もなにもなしで先走る七輝を諫めようとする苦労人。その名は信吾。
しかし――
「ぺっしゃんこにしてやらぁっ!!」
サーカシーなどよりも数倍でかいその巨大な拳でもって文字通りぺしゃんこにしようとセルンの拳が唸る。
当たり前のように信吾の忠言はスルーだ。耳にすら入ってないのかもしれない。
「あ、これダメなやつだ。全然聞こえていない……いや、そもそも聞く気がないのか。――仕方ない。僕の方で合わせるしか……ないっ!!」
連携のれの字も知らない七輝をどうこうする事を諦め、自分自身が上手く動く事で二対一の構図を上手く使おうと信吾はサーカシーの死角へと滑り込む。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そうして、まずはセルンによる巨大な拳がサーカシーへと今まさに叩きこまれる。
瞬間――
「――奪え強欲。こいつらから夢も希望も魂すらも全部全部ぜーーんぶ奪ってしまいなさい」
サーカシーが新たな大罪シリーズの拷問道具を呼ぶ。
そして、その言葉通りにそれはサーカシーの正面に突如現れた。
禍々しい赤と黒の色に染まった美しき女性の像。
その両手は天へと掲げられているが、それとは別に数えきれないくらいの手が背中から伸びている。
その像は巨大で、それこそ巨大ロボットであるセルンと並ぶほど。
その拷問道具の名は――
「強欲の拷問道具……堕ちた千手観音」
そう。
それこそがこの拷問道具の正式名称。
背中から生えている手の総数は一々数えていられないが、その数998本。
普通の手と合わせて千本という多すぎる手を持つ存在……元ネタは仏教における千手観音という名前の菩薩様だ。
千手観音。その多すぎる手は数多の人々に大いなる慈悲を与えるという意味を表すもの。
しかし、これは違う。
これの名称は『堕ちた千手観音』。
ゆえに、大いなる慈悲など微塵もなく――
『
荘厳なるというべきか機械的というべきか。そんな女性の声が辺りに響き渡る。
それと同時に堕ちた千手観音の背中にある数多の手が動き出す。
それが向かう先はサーカシーの正面に現れた堕ちた千手観音へと叩きこまれようとしているセルンの拳。
その巨大すぎる拳を……堕ちた千手観音は同じくらい巨大な数本の手で受け止めた。
――否。受け止めたのではない。正確にはセルンの拳を数本の手で掴んだのだ。
「うげっ!?」
その拷問道具の悪辣さを知るセルンこと七輝はヤバイと腕を引くが。
『寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい』
堕ちた千手観音の背中の手が伸びる。伸びる。またまた伸びる。
その数、最初は十に満たなかったというのに今では数百は伸びているんじゃないだろうかと思えるほど。
その手は掴んでいるセルンの拳へと伸び、まるで生者に群がる亡者のごとくセルンの拳を、腕を掴み取る。
そして――
『寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい。寄越しなさい』
「こんのクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その場からなんとかして逃れようとする七輝。
しかし、それをあざ笑うかのように。
堕ちた千手観音は……セルンの右腕を力任せに千切った。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
セルンと七輝は繋がっている。
セルンが傷つけば七輝も傷つくのだ。
ゆえに、セルンの右腕を千切られた七輝は実際には右腕こそくっついているものの、まるで右腕を千切られたかのような痛みを味わっているはず。
それでも七輝はこれ幸いにと堕ちた千手観音から距離を取る。
そんな七輝に目もくれず堕ちた千手観音はと言えば――
『
セルンの右腕を自らの下腹部へと押し当て、吸収する堕ちた千手観音。
それで一瞬だけ動きが止まったが、すぐにまた動き出す。
貢物を寄越せと菩薩にあるまじき強欲さを前面に押し出しながら、堕ちた千手観音は次なる貢物を強制的に徴収すべくその数多の手を足代わりにして七輝へとゆっくり迫る。
「――今だっ!!」
その一瞬。
堕ちた千手観音の矛先が完全に七輝へと向き、堕ちた千手観音こと強欲の拷問道具所有者であるサーカシーの意識が七輝へと集中したその一瞬。
その一瞬を……サーカシーの死角から機会を
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