第19話『ステゴロ最強』



 そうして一人片付いた所で――サーカシーの瞳が今度こそこちらを射抜く。

 ――その直後。



展開Einsatz――Unser Schlachtfeld morderischer Talente(異能殺しの我らが戦場)』



 ヴァレルが異能殺しの能力を展開。

 彼と彼の近くに居る者はあらゆる異能が使用不能になる。



「馬鹿が。時間をかけすぎだっ!! これで終わりにしてやる。最強のラスボスだろうがなんだろうが素手喧嘩ステゴロで俺に勝てるやつなんて居ねぇんだよっ!!」



 そう自身を鼓舞してヴァレルがサーカシーへと最初に切り込む。

 これに対し、サーカシーは異能に分類される拷問道具が使えない。

 ゆえに、弱体化は免れない。



「悶絶しろやオラァッ!!」



 そうしてサーカシーを完全に捉えたと思われたヴァレルの拳。

 しかし――



「お前ちゃんも分かってませんねぇ」


「んなっ!?」



 空を切るヴァレルの右拳。

 その右拳の上につまさきを乗せ、呆れたようにヴァレルを見下すサーカシー。

 確実に捉えたと思われたヴァレルの拳を、サーカシーはその身体能力のみで躱したのだ。


 その上、奴はヴァレルを馬鹿にするかのようにその拳の上に乗っている。

 それはよっぽど実力が離れていないと出来ない芸当であり、奴はそれをこの場に居る全員に示している。


「気持ちは分かりますよぉ? 僕ちんが登場してたゲーム、僕ちん拷問道具ばっか使ってましたからねぇ。でもね……さっきから見せてる通り、僕ちんこう見えてステゴロでも滅茶苦茶強いんですよ。ただ、僕ちんはどうやっても相手を殺せないんで拷問道具に頼りがちですけど……ねっ!!」



「っ――」



 そう言い放つとともに光のような速さでヴァレルを蹴りつけるサーカシー。

 蹴られたヴァレルはこれまた猛スピードでどこかへ吹き飛んでいく。



「まだ終わってないでしょうけど……とりあえず二人目ぇぇぇ」



「ありゃりゃ、やられちゃったぁ」


「呑気な事言ってないでやるわよアリス。雑魚どもを一掃したあの手で行くわよ」


「はぁい糸羅ちゃん。いっくよ~~」



 退場させられたヴァレルを尻目に糸羅とアリスのタッグがサーカシーへと挑む。

 


「さぁさぁサーカシー君遊びましょう? アリスを痛くしてくれるんでしょう? いいよ、いくらでも痛くして。アリスも頑張ってあなたに痛いをあげるから。壊れるまで遊びましょう?」


 妖艶に微笑むアリスの身体から静かに散らばる宝石たち。

 そうして――


「アリス・イン・ワンダーランド」


 絶対防御不可能な空間が顕現する。


 数多の宝石たちがサーカシーだけでなく他の全員へと牙を剥く。

 それらを俺は防ぎ、未だに何やらロード中のペルシーを俺とルゼルスと信吾の三人で守る。


 そんな中、サーカシーはと言えば。



「うきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ。一番偉い僕ちんと遊びたいですってぇ!? 不敬罪不敬罪フーーケーーイーーザーーイーー。――と言いたいところですが付き合ってあげましょう。ヤダーー僕ちんってばやっさしいいいいいぃぃぃっ! お前ちゃんにピッタリの拷問道具を用意してあげましょう。感謝してくださいねぇ~~」



 全身にアリスの宝石の杭やら雨やらを受けているが――無傷。

 避けるまでもないと言わんばかりに、涼しい顔でアリスの攻撃を受けきっていた。



「うーん、チクチク痛いですけどそれまでですねぇ。本当に不可避の攻撃と言うのは――」



 そうやってサーカシーが語る最中。



「うるっさいのよ狂人。舌噛んで悶絶しなさい」



 糸羅が猛烈な蹴りをサーカシーの顎へとぶち当てるっ。



「んべぇっ!?」



 サーカシーですら見逃す糸羅の攻撃。

 しかし、それもそのはず。糸羅の攻撃を見切れる奴など基本的に存在しない。

 なぜなら――



「ほらほらさっさとダウンしなさいっ!! セイヤァッ!!」


「んぎっ。くっ。いい……加減にっ。けぇっ――」



 縦横無尽に瞬間移動する糸羅とサーカシー。


 これこそが糸羅の能力――瞬間移動。


 彼女が登場していたゲームはシューティングゲームだった為、こうした瞬間移動の使い方も出来るとは思わなかったが……かなり驚異的な能力だ。


 背後、真下、真上……あらゆる死角へと糸羅は瞬間移動し、サーカシーの隙を突いて殴る蹴るを繰り返す。

 さらに、サーカシーの平衡感覚を奪い隙を作らせる為か瞬間移動の能力をサーカシーにも使用している。

 おかげで鬱陶うっとうしそうに腕を振るうサーカシーの攻撃は全部スカだ。


 そうしていいようにされ、その間も宝石の雨に打たれ続けているサーカシー。


 そんな事をされ続けたサーカシーは遂に顔を真っ赤にして。


「これが瞬間移動ですかぁ。あぁうざってぇうざってぇうざったぁぁぁぁぁぁいっ!」



 こらえ性など微塵もないサーカシーは当然怒る。

 暴れる赤ん坊のように無茶苦茶に暴れまわり、しかしそのせいで糸羅は一時攻撃を一時中断せざるを得ない。



「僕ちんを何度も何度も蹴って殴ってしてくれやがって……最低でも五十年はおもちゃにしてやりますからねぇ? ――出でよ憤怒ぅぅぅぅぅ。僕ちんの怒りをこの場に居る全員に教えてやりなさぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」




 そうしてサーカシーの手元が一瞬光ったと思った次の瞬間。

 辺りが一気に暗くなった。

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