第18話『砕かれるプライド』



「人数が多いのでまずは分断と行きましょうかねぇ。来なさい暴食ぅ!! 全てを吸い込む魔性の壺よぉっ!!」



 開戦直後。

 サーカシーは初っ端から暴食の拷問道具を繰り出してきた。

 全てを喰らい尽くし、何度も精神を殺す暴食の拷問道具。


 その場に居る全員を吸いこもうと吸引を始める。だが――



「時よ止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」



 瞬間――文字通り時間が止まる。

 その場に居る者はサーカシー含め誰も動けない。

 そして――



「飯をぉぉぉぉぉ。寄越せぇぇぇぇぇ。何もかも俺が喰らい尽くしてや――」


「黙れ壺風情が。貴様なんぞ己の敵ではない」



 ――ガッシャァァン



 その拳を振るい、なんなく暴食の拷問道具を破壊する男。

 そいつは少し前まで消えようとしていたラスボス。

 彼の名は――



「己の名はココウ。最強のラスボスたるサーカシーよ。己は貴様に一騎打ちを申し込むっ! 他の者は邪魔立て不要。これは男と男の勝負だ」

 


 最強を目指す男、ココウ。

 因縁の相手であるルクツァーを倒した彼が望む事はただ最強へと挑む事のみ。

 だからこそ、彼は最強のラスボスであるサーカシーへと挑む。


 しかし――



「ふーん」



 一騎打ちを申し込まれたサーカシーは鼻をほじりながら「あ、そう」という感じでつまらなそうにココウを一瞬見るのみ。

 明らかにココウを敵として認識していない。



「貴様……最強のラスボスならばそれらしくするのが筋だろう!? まぁ良い。貴様がどう答えようと己は貴様を倒す。貴様がどれだけ面妖な道具を出そうと――」



 そうココウが口にしている最中だった――



「お前ちゃん……何か勘違いしてますねぇ」



 サーカシーはそう呟いた瞬間――目にも見えない速さでココウの眼前へと移動する。

 そうしてココウが反応出来ないほどの速さで彼の心臓を貫いた。




「――ぶっ……ぐほぉ。なん……だと?」



 戦いですらない。一方的な殺人。

 ココウは暴食の拷問道具を壊したが、逆に言えばそれのみ。

 サーカシー本人には傷一つ与えることなく致命傷を受けた。



「バーカバーカ。お前ちゃん、もしかして僕ちんが拷問道具に頼らなきゃ何もできないお雑魚ちゃんだと勘違いしてませんかぁ? アレはね? 僕ちんの趣味なんですよ。人々の苦しむ姿が見たい。だから僕ちんは拷問道具をこよなく愛し、使うのです。お前ちゃんみたいな勘違い男を屈服させるのに道具なんてむしろ邪魔ジャマジャマ。お前ちゃんに自分がお雑魚であるとハッキリ認識させてあげますよ。そうして無力感に支配されるがいいのですぅぅぅぅ。うきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ」



「ぐ……貴様ぁ……」



 貫かれた心臓。

 ココウは自身の胸を押さえながら、それでも立ち上がる。



「例え数瞬後に死ぬ運命でも、己は最後の火を灯して貴様に一矢報いて見せよう。最後まで貴様に抗って見せるっ! ぬぅぉぉぉぉぉっ!!」



 そうしてココウは血反吐を吐きながら渾身の一撃をサーカシーへと放つ。

 そして――



 ピタッ――



「な……に?」



 呆気なく。

 とても簡単に。

 子供でもあしらうかのように。


 サーカシーは全力全霊で放たれたであろうココウの拳を自身の人差し指のみで止めてみせた。



「うぷぷ。うぴゅぷぷぷぷぷぷぷぷ。どうしました~~? まさかまさかまーさーかー? この程度で僕ちんに勝とうと向かってきたんでちゅかぁ? お笑い種も休み休みちゃんでゅえすねぇぇぇぇぇ。ほらほら、もっともっと抗ってくれてもいいんでちゅよ。僕ちんの与えた傷は決して致命傷にはなりませんから心臓貫かれても死ぬ事ナッシングッ!! すぐに再生するんですヤダ僕ちんってば優しいっ!! だから……えーーーっとなんて言いましたっけアナタ。ごめんちゃいっ! 僕ちんアリンコの名前を一々覚えてられないんでちゅよぉぉぉぉ。キャハハハハハハハハ」



「貴様……貴様貴様きさまぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 ココウは自身を馬鹿にされ、ますます憤る。

 そうして怒りをそのまま拳や足にのせサーカシーへと振るうが、まるで届かない。



「げふっ……ぬぅぅぅっ。おぉぉぉぉぉっ!!!」


「ふわぁぁぁぁぁぁぁ~~ぁ。まーだ力の差が分からないお馬鹿ちんなんですか? いい加減諦めてくれませんかねぇ?」


「ごふっ……こふっ……断る。己の命が絶えしその瞬間まで……己は最強たる道を諦めぬ。特に貴様のような外道には絶対に負けられぬのだぁぁっ!! 己を下したければ貴様自ら己の命を刈り取るがいいっ!!」



「え~~~~~~でも~~。僕ちん命のやり合いなんてご免なんですよねぇぇ。そんな物騒な事を天使みたいな不殺主義の僕ちんが良しとするはずないじゃないですかぁぁぁ。だぁかぁらぁ……諦めないお雑魚ちゃんにプレゼント♪ 使ってあげますよ。僕ちんの大罪拷問道具。お雑魚なお前ちゃんにピッタリな拷問道具です。後がつかえてるのでさっさと片づけさせてもらいますよっとぉ!!」



 そうしてサーカシーは再びココウの攻撃を指一本で止めながら拷問道具を取り出そうとする。

 この瞬間――サーカシーに隙が出来たとみるや俺は動こうとするが。



「全員うごくなぁっ!!」


「「「っ――」」」


 ココウの激しい一喝。

 それにより、動こうとしていたサーカシー以外の数人の動きがぴたりと止まる。


「相手が外道と言えど、己は奴に一騎打ちを申し出た。ゆえに、手出し無用。手を出せば己は一生そやつを許さんっ!!」



「ココウ……」


 不器用で最強になる事にしか興味のないラスボス。

 そんな彼だからこそ、一騎打ちと言う自分の言葉は決して曲げない。



「しゅごぉぉぉぉぉぉい。カッコイイでちゅねぇお雑魚ちゅぁぁぁぁん。そのカッコイイ所をもっと見せてくださいなぁ」



 しかし――今回ばかりは相手が悪かった。



「来なさい傲慢。あなたに相応しい贄が来ましたよぉぉぉぉぉ」


 そうしてサーカシーが取り出したのは金色に光り輝く少年の像。

 とても偉そうに足を組んで不敵な笑みを浮かべている黄金の像。

 これは――傲慢の拷問道具。


 その効果は――



『頭が高い。頭を垂れよ』



「ぬっ――」

「ぐがっ――」

「きゃっ――」



 なん十トンもの重石おもしでも落とされたかのように……頭が重い。


 これこそが傲慢の拷問道具の能力――言霊だ。

 この拷問道具が口にした言葉には強制力が発生する。

 そうして屈辱的な命令を幾度も下していって、相手の尊厳を極限まで貶める。それを拷問道具である傲慢自身が上であることを再確認するまで続ける。そういう拷問道具だ。


 力を失ってしまっているルールルなどは傲慢の拷問道具に抗えず、地に頭を伏せている。

 だが――



「ぬぅっ……これしきの物でぇぇぇぇぇっ!!」

「くっ……こんなもの――」

「うっらぁぁぁぁっ!!」



 ココウ含め、この場に居るラスボス&主人公全員を完全に縛れるほどのものではないらしい。

 力ある者も傲慢の言霊の影響を受けてはいるようだが、誰も頭を垂れない。



「ちっちちちっちーー。やーっぱり中途半端に強いのが多いと効果も薄まりますかー。しっかたないですねー。おい傲慢。効果をその勘違いカッコツケヤローだけに限定しなさい。後のお雑魚ちんは僕ちんが受け持ちます」


『――忌々しい。余に命令するとは何様か。いつしか貴様も屈服させてやる。楽しみにしておけ』


「ハイハイハーイ。たっのしみですね~~。言霊しか能のない口以外動く事すらままならない道具風情が言霊完全無効化の僕ちんをどう屈服させるのか見物ですよぉぉぉ。ぐだぐだ言ってると壊しちゃいますよぉぉ?」


『――本当に忌々しい。………………今一度命令する。ココウ、貴様は地べたに這いつくばれ』



「ぐっぬぉぉぉぉぉ」



 傲慢がそう命じると共に、俺達にかけられていた言霊が解除される。


 だが、そんな俺たちとは反対にココウにかけられる言霊の威力は増したようだ。

 ココウは今度こそ抗う事すら許されず、傲慢の拷問道具の命令通り地べたに這いつくばってしまう事になる。



「さぁて――ますはひとぉぉぉり」



 そんなココウを見ながら、サーカシーは勝ち誇ったようにそう宣言するのだった。

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