第14話『黒幕』


「ククククククククク。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」



 俺が全てを明かせとボルスタインに命令した瞬間。

 ボルスタインは自身が後生大事に抱えていた『アカシックレコードの写本』さえその手から落としながら、腹を抱えて今までにないくらい笑っていた。



「ああ、主よ。あなたは本当に恐ろしい方だ。いやはや、この土壇場でソレに気付いてしまうとはな……。良いでしょう良いでしょう。では、私が今まで秘していた事、そしてこの状況を主達の望むままに収束させる方法を提示致しましょう。どうせ主からの命令に私は逆らえない。これはそういうモノだ」



 そう言って笑いを押し殺しきれないでいるボルスタインは自身が取り落とした『アカシックレコードの写本』を拾いながら語り始めた。



「主には我々ラスボスを強制的に従える能力がある。先ほどルゼルスが主に従ったのも私がこうして主の意のままに秘しておきたかった事を喋らされている原因もソレだ。これに対し、並みのラスボスは抵抗など出来ない。サーカシーのような規格外の存在であれば別かもしれないがね……クククククククク」


「やっぱり……か」

 

 ラスボスを強制的に従える力。

 それこそがボルスタインが明かしていなかった俺の秘めた力。

 自由に動きたいボルスタインにとって、自分が誰かに操られるなんて面白くない事態でしかない。だからこそ秘密にしていたのだろう。


 特に、嘘は吐かなくても隠し事が多いボルスタインだからな。

こうして隠し事を無理やり暴かれるのなんて奴にしてみれば何も知らないエキストラが台本を盗み見て全てを知ってしまうようなもの。

自身の事を作家と言うボルスタインからしてみればネタバレなど唾棄すべき邪悪だろう。



「そして肝心の主達にとって都合のいいハッピーエンドへと至る道だが……それは確かに存在する。私にとってとてもつまらない終わり方だがね」



 そう言ってボルスタインは俺やペルシー、ルゼルスにとって都合のいいハッピーエンドへの道を提示する。



「主の今持つ力はハッキリ言って常識の埒外らちがいだ。だが、それは本来この世界の神共があなたに与えたもの。ゆえに、神であればその力を剥奪はくだつとまではいかずとも抑える事が出来る。当初、主は我々ラスボスの力を一割程度しか引き継げなかっただろう?」


「あ、ああ。今では三割。消えた奴らに関して言えば十割の力を引き継げちゃってるけどな……」




「だが、そんな主達の力は我々ラスボスとの縁が必要になる。ゆえに、既に消え去った斬人やクルベックの力などは自然と主から消失するはずなのだ。しかし、それらは主に残ったまま。それどころか消えたラスボス達の力の全てが主に引き継がれた。

それは何故か……簡単な話だよ。そのように細工した黒幕の存在が居るというだけの事。その黒幕をどうにか説得し、主から余分な力を削ぎ落とす。そうすれば幾分かこの世界は安定を見せるだろう」



「………………俺に消えた斬人とクルベックの力をポンポン上乗せした黒幕の存在?」



 なーんか嫌な予感がする。

 そんな俺の気も知らず、ボルスタインは俺の命令に従わざるを得ないからか語り続ける。



「更に、その黒幕を説得さえできれば元の世界へと帰りたいと願うラスボスや主人公を返す事も可能だろう。その黒幕にそれほどの力はないが……問題あるまい。空間転移を得意とする糸羅の力を借りればその程度は容易だろう。そうすれば世界は完全に安定を取り戻す。主達にとってこれ以上ないハッピーエンドではないかね?」



 ……うん。

 確かに、それは俺たちにとってこれ以上ないハッピーエンドだ。

 帰りたいと願うラスボスと主人公達は無事に元の世界へと帰ることが出来て、この世界も救われる。まさに都合が良すぎる終わり方。


 ただ、ここで明らかにされていない事が一つ。

 そう――その黒幕とやらの正体だ。


 俺に力が残るように細工することが出来、助力が必要とはいえラスボスや主人公達を元の世界へと帰せる程の力を持つ存在。

 更に、そうやって暗躍する事を好む存在。




 そんな奴に……俺は心当たりしかない。




「……ちなみにその黒幕って誰?」



 俺のそんな問いに、ボルスタインは恭しく頭を下げ。




「主の力を増大させ、この世界を滅びに誘う黒幕の正体。しかし、あっさり滅んではつまらないと影に隠れながら時間制限付きの滅びとなるよう調整した黒幕の正体……それは彩るであろう悲劇を待望する者。そう――この私でございます」



 自身こそがそんな黒幕であると……消えゆく彼は俺達に明かすのだった。


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