第13話『命令』
「ルゼルスちゃんは消えないの!? ズルイズルイズルーイッ!! それならルールルだって消えてなんてやらないんですからっ! 既にルールルは愛に生きる女。ラー君が居る所がルールルの居る所ですっ!!」
「え!? みんな消えて世界の外側で遊ぶんじゃないの? ラース君もみんなも消えるならそっちのが楽しそうだと思ったのに……。それならアリスも消~えないっ! 糸羅ちゃんにも『消えるんじゃないわよ私の金づるっ!』て言われちゃったしね~~」
続いてなかった。
何人かのラスボス達はルゼルスが消えないと分かった途端、存在の消失化がキャンセルされた。
それは、ラスボス達が消える事を拒否したという事に他ならない。
「クックックックックックックックック。なんともまぁみな自分勝手なものだ。しかし、当然だな。肝心の主やルゼルスが消失しないと聞いては他のラスボス達が消える事を拒むのも無理はない」
そうして幾人かのラスボス達の存在の消失化がキャンセルされる中、ボルスタインは自身の消失化を止める事なく笑い続ける。
「だが、良いのかな? 消えるラスボスがリリィ、ココウ、ウルウェイ、そして私の四人だけではこの世界を維持することは不可能だろう。無論、滅んでも構わないと言うのなら私としても構わないがね。それがこの物語の終幕というだけだ。終わりを迎えた時、君らがどんな想いを抱えているか……世界の外側から鑑賞させてもらうのも悪くはない」
人々が大きな選択を前に悩み苦しむ姿を見る。
その果てに迎えるであろう感動的なストーリーのみを追い求めるボルスタイン。
世界がこのまま終わるにしても、それを前にした俺たちはあの時の選択は正しかったのかと悩む事になるだろう。
その最期はどのような結果になろうとも、ボルスタインの言う終幕に相応しい物になるに違いない。
だからこそボルスタインは判断をこちらに委ねる。基本的にどんな展開になってもいいようにボルスタインは道を整えているからだ。
そんな彼が望まない起死回生の一手……それが俺の手に握られているらしいが、それが何なのか分からない以上どうしようもない。伝説の剣も装備の仕方が分からなければ意味がないのと一緒だ。
そうしてボルスタインが一人笑う中――
「――ません」
「うん?」
「絶対に……そんな結末なんて迎えさせませんっ!! 悪逆非道のボルスタインッ! 消えるのは邪悪を極めたラスボスだけでいいっ!!」
ペルシーが吠えた。
世界の終わりなんて迎えさせない。
そしてラスボスも真に邪悪を極めた者以外は消えるべきではないと叫ぶ。
「クックックックックックックックック。これはこれは主人公召喚士殿。なんともまぁ理想的な結末を夢見ておられる。流石は主人公達の元締めと言うべきか……。しかし、どのようにしてだね? そんな何もかもを思い通りに動かすような力が貴方にはあると言うのかね?」
「そんなのは知りませんっ。ただ私は……あなたの用意した選択肢が気に喰わないだけ。だから、私は選ばない事を選ぶ。主人公達と……そしてラースさん達と力を合わせればなんだって出来るんですっ!!」
「なるほど。やはり既に主とは協力関係にあるという訳か……。しかし……クク。まるで子供の絵空事だな。選ばない事を選ぶなど、思考の放棄に他ならない。その点、主の姿は実に感動的であったよ? 理不尽に彩られた選択肢の中から一つを選び取り、意志に反する行いを傷つきながらも実行する様は実に感動的であった。
人生とは選択の連続だ。どうでもいい選択から人生を左右する選択まで様々な選択を人は織りなして人生と言う名のゲームをプレイする。何も選ばないという事、それはどちらの選択肢も捨て何も得られないという事でもある。子供の時分ならそれも良いだろう。しかし、既に成長し主人公達と肩を並べる主人公召喚士殿が何も選ばないと言うのは――」
そうしてボルスタインは選択の重要性について話を続けるが――
「うる……さい……です」
ペルシーの方がフルフルと震える。
そして――爆発した。
「うだうだうだうだうだうだうだうだと………………………………うるっさいんですわよっ!! これだから人を騙すしか能のない詐欺師は……。どうせ余計な口しか出せないのでしょう? ならばどうか黙っていてくださいな。そうして見ていなさい。わたくしたちが奇跡を起こすところをっ!!」
またもや怒りがトリガーとなって女王様モードになるペルシー。
ボルスタイン相手に啖呵をきって奇跡を起こすと豪語する。
「クク、残念ながら今回ばかりは主人公の元締めたる女王でもどうにもなるまい。唯一どうにかしてしまいそうな者は本人の意向もあり退場済みであるしね。そも、奇跡など存在しない。全ては必然。誰が何を為したか……その積み重ねによって出来た感動的な様を人々が奇跡と呼んでいるに過ぎない」
奇跡を起こすべく奮闘しようとしているペルシー。
その全てが無駄と余裕な態度を崩さないボルスタイン。
そんな二人を見て……何かがひっかかった。
正確に言えば、ボルスタインの吐いたセリフ――
「奇跡なんてない……。全ては必然で、誰が何を為したかの積み重ねで奇跡と呼ばれる出来事は起こり得る」
「おい兄弟、何を暗い事を――」
「待ちなさいヴァレル。ラースは何も諦めた訳じゃないわ。むしろ――」
ヴァレルとルゼルスの声が聞こえる中、俺は深く鮮明に今までの事を振り返る。
多くのラスボスの能力を手に入れたからか、俺は今まで自分が体験してきた出来事を鮮明に振り返ることが出来た。
俺が今まで積み上げてきたもの。
この状況をどうにかする事ができるかもしれない奇跡の一手。
俺が持っているらしい切り札。
様々なキーワードのみが俺の手の中にはある。
後はこれらを……繋げるだけ。
そして――
「なぁルゼルス。さっき、俺が命令というか……俺から離れるんじゃねぇって言ったらあっさり存在の消失化が止まったよな? あれ、なんでかルゼルスには分かるか?」
「……分からないわね。ただ、ラースのそれを聞いた途端にあなたから離れたくなくなって……元々そういうふうに思っていたのはあったのだけど、それが抑えられなくなったのかつい――。ボルスタインが何かした訳でもなさそうだし、単純に私がラースの意気に負けて心変わりしてしまっただけなのだと思うけれど……」
「――俺から離れたくないと……あの啖呵を聞いた瞬間にそう強く思うようになったんだな?」
「え、ええ」
ほんの少し顔を赤くしながらも応えてくれるルゼルス。
しかし、ある仮定が頭の中に既に出てしまっている俺は気恥ずかしさなんて感じることが出来なかった。
確かに、その仮定が正しければこの状況を打破できるかもしれない。
少なくとも、俺以上に現状を深く理解している奴が俺の支配下に居るという事なのだから。
だから――
「――命令だ」
俺は未だに何かを隠しているらしいボルスタインを見据え、告げた。
「お前が隠している事を明かせ。ここに居る全員を失うことなく、世界も滅亡しない。そんな方法があるのならその方法を教えろ――ボルスタイン」
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