第8話『絶対なんとかします』


 ――センカ視点



「お願いしますっ!! どうか……どうかルゼルスさん達を助けてくださいっ!!」


 だからセンカは――再びペルシーさん達に頭を下げるんです。




 こんな事、言えた義理じゃないのは分かってます。

 だって理由はどうあれ、センカとペルシーさん達はつい先ほどまで敵対していたんですから。

 少なくともセンカはペルシーさん達を本気で殺そうとしていました。


 にも関わらず、センカはそんな相手に無茶な頼みごとをしている。

 ――最低です。


 けれど、センカはやめません。

 だって、こんなことしかセンカには出来ないから。

 そして、同時にこれはきっとセンカにしか出来ない事だから。


 ラース様やルゼルスさん、ボルスタインさんまでもが恐れる主人公さん達。


 そのお力に素直にすがるなんて事、ラース様達は良しとしない。

だからこそ、最期まで敵対関係を貫くべく全てを秘密にして事を運ぼうとしていました。。


 だからこそ……これはセンカにしか出来ない。

 みっともなく、恥も外聞もなく、ただただ助けを求める。

 そんな簡単な事ですけど、これがセンカにしか出来ない事なんです。


 ラース様達との約束を破ってしまう事になりますけど……構いません。

 センカにとってラース様やルゼルスさん……そしてラスボスさん達こそが全てなんですからっ!

 極小の可能性であっても、賭けれるのならセンカはそれに賭けるんですっ!


「センカにとってルゼルスさんは……ラスボスさん達はかけがえのない存在なんです。だから――」


 そんなセンカの懇願。それを――


「ふっ――」


「あっ。待って――」



 センカの懇願を最後まで聞くことなく、リリィ師匠のお兄さんは影に潜ってしまいました。

 聞く耳持たない……という事でしょうか。


「うぅっ――」


 ――当然……ですよね。

 今まで敵対していたセンカが何を訴えた所で意味があるはずがありません。

 どんな事情があったにせよ、敵対していた事実には変わりないんですから。


 ましてや、センカは一度この世界の人々を殺し尽くそうとした悪です。

 正義の主人公がそんなセンカを許してくれる訳――



「私たちに任せてください」



 そんなセンカにかけられた頼もしすぎる言葉。

 ふと前を見ればそこには――



「ああ、任せろやセンカ嬢ちゃん。ってか、そんな事情知っちまったら動かねえ訳にはいかねえっての。それが主人公ってもんだ」


「ですね。それに何より、僕らの仲間であるコウさんが一人でもやるって息巻いてますし。一人で飛び出しちゃいましたよ」


「ちょいと気に喰わねえのは確かだなぁ。クルベックの野郎が望んでたのはこういう事じゃねぇだろうし。何よりアレだ。あいつらの度肝を抜くのは面白そうだな。協力してやるよ。犠牲前提の平和なんざクソくらえだって拳で教えてやらぁ」


「――面白い、俺も付き合おう。お前達主人公がどんな奇跡を起こすのか……興味深い。俺も主人公だが全て俺の計算に基づいた上で解決してきたからな。お前らがこの状況をどう打破するか……間近で見せて貰おう」


「やれやれ。僕は荒事があまり好きじゃないんだけどねぇ。まぁ、今更だけどさ。仕方ない。こうなったら最期まで付き合うよ。巻き込まれ体質の主人公って言うのは中々に辛いもんだ」


「え~~~~~~。マジでやるのん? もう僕ちん疲れたから休みたいんだが……なーんて言える状況じゃねぇか。ハァ……。しゃあねぇ。要はあいつらをこの世界に留まらせつつ、世界も救えばいいんだろ? なら留まらせる役は俺に任せてくれたまへっ!! 煽って煽って煽りまくって気を引いてやるぜ。ウケケケケケ」


「アリスの馬鹿に消えられちゃ困るからアタシも参戦するわ。アタシの力とあの子の力が揃えば正に無敵!! あの子さえいればもう借金取りに追われる事すらなくそれこそ永遠にアタシはギャンブルに生きていけるのよっ!! それくらいのご褒美くらいないと世界の守り手なんていう古臭いお役目、もうやってらんないのよっ! 金策に走りながら借金取りから逃走し、そのついでとばかりに世界まで守ってたアタシ……今にして思えば狂ってたとしか思えないわね……」



 それぞれ理由は違えど、力を貸してくれる主人公さん達。

 ふと、リリィ師匠のお兄さんの潜った影の先を視線で追ってみれば……主人公の信吾さんの言う通り。彼はセンカの言葉なんか関係なくリリィ師匠に猛接近していました。



「ラースさんは主人公の事を強敵を倒すしか能がない脳筋みたいに言っていたみたいですが、それは大きな間違いです」



 そう言ってペルシーさんは主人公さん達を連れて一歩前に出ました。

 そうして、センカの方を振り返りながら眩しすぎる笑顔で言い放ったんです。


「困っている人を自分勝手な理由で助ける。それこそが主人公なんです。世界と誰かの命。そのどっちを取るかなんて選択肢を突き付けられても……私たちはそんなの意地でも選びません。

――だって、望んだ全てを欲深に求めるのが主人公なんですから♪」




 あまりにも眩しいその笑顔で。

 センカを救ってくれたかつてのラース様みたいに。

 少し前まで困ったさんだったはずのペルシーさんは……自信満々にそう言い放ちました。


「どうやって――」


 そんなペルシーさんに、センカは期待を込めてその方法を問います。

 けれど――


「方法なんて思いついてませんっ!!」



 ズコーーーーーーッ。

 あまりにもな回答に、期待していたセンカは思わずずっこけます。

 いや、あの……それならなんでペルシーさんはそんなに自信満々なんでしょうか?

 センカはそう頭を痛めますが――



「けど――絶対何とかしますっ!!」



 そう言って。

 ペルシーさんは消えゆくルゼルスさん達を為すすべもなく見る事しか出来ていないラース様へと駆けていきました。



「絶対何とかする……ですか」



 なんて根拠のない自信。

 普通なら信じられる訳もない子供の理屈。

 けれど――



「どうにかしてくれそうだなんて……そう思ってしまえるのはセンカが単純だから……なんですかね?」


 まだ何も終わっていない。

 状況は最悪一歩手前と言ってもいいでしょう。

 それなのに……どうしてでしょう?


 ペルシーさんと主人公さん達ならばどうにかしてくれる。

 自信満々な彼女らを見ていたらついつい明るい未来を夢想してしまう。

 そんな自分がどこかに居て……その事がおかしくて。


「くすっ。ラース様、ルゼルスさん……ごめんなさい。でも……これがセンカの希望なんです。どうか二人とも、無事に帰ってきてください。そうしたらいっぱいいっぱい怒りますし、怒られてあげますから――」



 センカにとって最も大切である二人。

 そんな二人の無事をセンカは影ながら祈るのでした――


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