第7話『隠された想い』


 ――センカ視点



「つまり……こういう事か? 兄弟とラスボス達はこの世界に残る為、俺たち含め罪もない奴らを滅ぼそうとしていた。だが、それは俺達に勝った場合の話で、負けた場合は大人しく世界の為にその身を捧げようとしていたと……あいつら、最初からそのつもりだったって事か?」


 そんな主人公のヴァレルさんの確認にセンカは力なく頷きます。


「そんな……でも、そんな分の悪い賭けをどうして……。主人公とラスボスなら明らかに主人公の方が有利です。それに、ラスボスはもう何人も脱落してるのに……」


「分の悪い賭け……ですか。確かにその通りです。その辺りの力関係はセンカには分かりませんでしたが――」


 結果を見れば力関係は明らかです。

 実際、センカ達はペルシーさん率いる主人公達を誰も倒せませんでしたし。

 センカは序盤ですぐに脱落してしまっていたので、戦いの展開なんかはほぼ把握していませんが、主人公さんは全員無事で欠けたりもしていない。

 それだけラスボスと主人公では地力が違うという事みたいです。


「それでもラース様はペルシーさん達と戦う事をかなり早い段階から覚悟していました。でも……今にして思えば最初から負けることが分かっていたような雰囲気さえ――」



 ――その時でした。



「――ふざけんなよ」



 そう言って声を荒げながら一歩前に出る主人公の……リリィ師匠の兄であるコウさん。

 彼は憎々し気に消えようとしているラスボス達を……その中に居るリリィ師匠を睨みつけながら。


「あいつ……あの時と同じことを……。また繰り返すつもりなのか。残されるこっちの事なんか何も考えず……何も知らせず、罪悪感さえ抱かせないように――」


「コウ……さん? 一体何を――」



 リリィ師匠のお兄さん。彼の独り言らしき呟きにペルシーさんが口を挟みます。

 すると、リリィ師匠のお兄さんは私たちの方を振り返り――



「だから言ってるだろ!! あの時と同じだよっ!! 俺を生かすために犠牲になったリリィ。あいつは……また同じような事をしようとしてるんだ。負ける事を前提にリリィは……あいつらは俺達に勝負を挑んできたんだよっ!!」




「「「っ――!?」」」


 負ける事を……前提に?

 最初から負けるだろうと……それが分かっていて?

 でも、それならどうしてわざわざ勝負なんか……。


 センカはぐるぐる頭を回そうとしますけれど、残念ながら上手くいきません。

 それでも、リリィ師匠のお兄さんは止まってくれませんでした。



「全部あの時と同じだ。こっちには何も知らせず、罪悪感さえ抱かせないように……そのためにリリィは……あいつらは俺達に勝負を挑んできたんだ。わざわざ悪ぶりやがって……ちくしょうっ!!!」


「「「――――――――――――」」」


 センカも。

 ペルシーさんも。

 主人公さん達も。


 誰もが一様に何も言えなくなりました。

 その間、他の方が何を想っていたのかなんて……センカにその心を図る事なんて出来る訳がありません。

 そもそも、そんな余裕すらありませんでした。

 なぜなら――



(まさかラース様……最初から……負けることが分かっていてのご提案だったんですか?)



 この世界の人たちを全員殺す。

 そうする事でセンカ達は無人の荒野の上で一緒に居られる。

 そんな最善ではない。けれど唯一私たちが共に在れるであろう未来を掴む為――邪魔しに来るであろう主人公さん達を倒そうと。ラース様は言いました。

けれど――


(今にして思えばラース様はあの時から何度も悲し気な笑顔を見せていました。あの笑顔の意味……そんな最善じゃない未来の為に進まなきゃいけない事を憂いているからだとばかりセンカは思ってました。でも――)


 それが違うとしたら?

 あの悲しみに満ちた笑顔の意味。

 あれは、主人公達に勝てないと察していたからの物だったんじゃ……。


 だからこそラース様、柄にもなく真っ先に負けたな場合の事を話したんじゃ――

 そして、それはルゼルスさん含め全てのラスボスさん達も察していたんじゃ――


 ――繋がる。

 ――繋がってしまう。

 全部……今まで腑に落ちなかったもの全てが連鎖するように繋がってしまう。




 きっと、ラース様は主人公さん達に勝つ気では居たのでしょう。

 でも、心のどこかでそれが無理だと分かっていた。

 だからこそ、負けた後の事を話されて、その上で内緒でセンカを巻き込まないようにした。


 ――でも、それをルゼルスさんは許さなかった。

 ルゼルスさんはセンカに過去の自分を重ねています。

 センカの幸せこそが自分の幸せ。そう何度も言っている事をセンカは知っています。

 そんなセンカに絶対必要なのがラース様です。


 ラース様が居ない世界なんて、センカにとって一欠けらの意味もない。


 センカの事を誰よりも知っているルゼルスさんはその事も当然知っていた。

 だからこそ、その身を捧げてラース様もこの世界に残そうとしてくれているんでしょう。



 でも――



「や……です……」



 ――足りない。

 我がままだって言うのは分かってます。

 このまま何もせずにいようとも、ラース様が消えるような事はないのだと思います。

 なにせ、あのルゼルスさんがセンカの為にこんな展開を作り出したんです。

 きっと、抜かりはないのでしょう。


 それどころか、もしかしたら自分が消える事によってラース様とセンカの仲が深まる――なんてことまで考えているのかもしれません。


 センカにとって、それはとても価値がある事です。それは認めます。

 けど――



「そんなんじゃ……ラース様があまりに可哀想じゃないですかっ!!!」



 ラース様にだって色々と言いたいことはある。

 ずっと一緒に居ようと約束してくれたのに、ラスボスさん達と関係ないからってセンカを置いて消えようとしたラース様。

 そんなラース様に文句を言う権利がセンカにはあると思いますし、押し倒されても文句なんて言えないと思います。いえ、言わせません。

 でも、それをルゼルスさんが居なくなって意気消沈したラース様相手にするなんて事、センカには出来ません。

 それ以前に、そんなラース様とどう接すればいいのか……センカにはまるで分からないんです。

 それほどに、ルゼルスさんの存在はラース様にとっても、私にとってもかけがえのない物なんです。



 だから……ルゼルスさん含むラスボスさん達だけが居なくなるなんていう展開をセンカは認めない。認められる訳がありません。


 消えるなら全員一緒が良いです。残るにしても全員一緒が良いんです。

 私とラース様だけを置いて自分達だけ犠牲になろうとするなんて……そんなの本当に勝手すぎます。


 だからセンカは――


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