第40話『コンタクト-2』



「話の腰を折っちゃってごめんなさい。そして――そうだね。さっきはこの場所の事を夢の世界って表現してみたけど、厳密にはそうじゃないんだ」


「んん? という事はやっぱりここはボルスタインが作った異空間って事なのか? つまり、この状況もあいつの仕込み?」


 この異空間はボルスタインが創り出したもので、そこに眠っていた俺の意識と、声しか聞こえない存在×3を呼び寄せた……とか?

 何のために?


「うん、まずはその辺りの認識を正しておこうかな。

 この空間は確かにあなた達が激闘を繰り広げた場所だよ?

 でも、この空間はボルスタインが創り出したものじゃない。ここは元々あった空間……言うなれば世界の外ってやつかな?

 彼は元々あったこの空間の存在を私たちを通じて知り、利用しただけ。あの戦いの時、彼はこの空間にみんなを移動させただけなんだよ。私たちもそれに協力したんだけどね」


「世界の外? 協力?」


 なんのこっちゃ。

 俺の理解を得ないまま、声は続ける。


「あのまま超常の力を持った君たちに魔人国なんかで戦われていたら世界っていううつわが壊されちゃってただろうからね。

 戦いが始まるよりもずっと前……ラース君が彼をこの世界に初めて通常召喚した時。その頃にはもうボルスタインは私たちの存在を認識してたんだよ。この空間、世界の外に居る私たちの存在をね。そうして彼は私たちに協力を申し出てきた。この世界を守る手助けをしよう……ってね」


「世界っていう器が壊れる?」


 いかにも物騒な話だ。


 しかし、少し言い方は違うがボルスタインが言っていた世界の崩壊とも符合する。

 この声の主とボルスタインが繋がっている可能性……少しは信じてもいいのかもしれない。


「ああ、そっか。そこからだね。なら、簡単にこの世界の仕組みみたいな物を教えてあげましょう」


 どこか『しょうがないなぁ』みたいな声音で、声はこの世界の仕組みとやらを語り始める。

 こちらとしてはそんな物、特に聞きたくもないのだが……それを聞かなければボルスタインとこいつらの暗躍について語れないっぽかったので、仕方なく耳を傾ける事にした。


「まず――この世界に限らず、全ての物には許容上限という物があるの。そうだね……異世界人のラース君風に言うなら風船ってやつかな? 風船を世界。そして、中に入っている君たちが空気だと言ったら理解してくれる?」


「ああ、それは分かりやすい。分かりやすいが……俺は正確に言うなら異世界人じゃなくて転生者ってやつだぞ? 前世の記憶をそこそこ持ってるに過ぎない。まぁ、神様のアンタならそれくらい理解しているかもだが」


「あはは、そうだね。そこら辺の所もきちんと把握してるよ? なにせ、君をこの世界に呼んだのはこの私だからね」


「なぬ?」


 さらりと告げられる衝撃の真実。

 とはいえ、神様と言うならそれくらいは出来てしまう……のか。


「何のために自分を呼んだのかって顔をしてるね? 君を呼んだ理由……簡単に言っちゃえばこの世界の空気を抜くためだよ。

 君たちがダンジョンの主と呼んでいた存在や魔物達。あれが私たちの悩みの種でね。ダンジョンの主として生まれ変わった人は普通の人間よりも存在力が大きくて、それでいて魔物っていう存在まで無限に生み出しちゃう厄介な存在なの。

 私たちは世界という名の風船を破裂させたくない。でも、ああやって魔物が無限に生み出されちゃうといつか世界は破裂しちゃう。風船の中で勝手に空気が増え続けてたらいつか破裂しちゃうでしょ? それと同じだね。それを阻止するために彼らに対するカードとして君のような転生者を何度か呼んでるんだ。と言っても、同時に呼べるのは各種族一人ずつだけなんだけどね」


 ……なるほど。


 世界という器……これが風船だとして。

 そこに住まう俺達人間。なんなら動植物やらなんやらも全部、世界という風船の中に詰まっている空気という物なのだろう。無論、ダンジョンの主達やら魔物達もだ。


 その中で、延々とその数を増やす魔物達……確かに放置していると世界という風船は割れそうだ。


 しかし、それでどうして転生者を呼ぶという話に?

 普通に神様なら強い人間をポンと生み出すなり、普通に生まれる人間に強い職業クラスでも与えればいいと思うのだが?

 俺がそれを聞くと、声の主はこの世界の職業クラスの仕組みについて語りだした。


「この世界の職業クラスっていうのは潜在的に何になりたいかで決定されるんだよね。槍の名手になりたいって心の奥底でも思ってるのならそれに見合った職業クラスを得る事ができる。でも、逆に頭で『剣の名手になりたい』って思ってても心の奥底で『ラスボス達と関わりたい』なんて思ってたらラスボスに関する職業クラスを得るんだよ。ラース君がまさにそれだね。

 この世界には当たり前だけどテレビも基本ないし、創作物もあるにはあるけど常識外の存在が出てくるものはあまりない。だからそういう想像力が欠如しちゃってて、パッとした職業クラスを得る人が居ないんだよね。だから私たち三人は異世界の人の魂をこの世界の人間として生まれさせることにしたの。そうすれば、その魂が真に望んでいる職業クラスが発現する。そして、それは基本的にこの世界で生まれた人のよりよっぽど強いの」


 ――なるほど?

 強力な職業クラスを得るにはそれだけ想像力豊かな人間が必要だが、この世界にそんな人間はあまり生まれない。

 だからこそ、他の世界からそれを持ってきたと……そういう話か。


 だが、それで強力な人間を生まれさせたとしても、そいつが魔物やらを狩る為に身を粉にするとは思えず……………………そこで俺は気付いた。



「もしかして……俺のMP吸収の技能ってお前たちが後付けとかしたり……とか?」



「お、察しがいいね。その通りだよ。生まれた強者であるあなた達が魔物達を倒したくなるように私たちはその能力に少し手を加えたんだ。それくらいの干渉ならできるからね。ラース君の場合はMP吸収。その能力があるからこそ、ラース君は生きる為、ラスボス召喚の能力を使う為に魔物を倒さなきゃならなかったでしょ? そうして転生者たちに風船の中の無駄空気である魔物やダンジョンの主達をやっつけてもらう。それが私たちの目的……って事になるかな」


 悪びれる事すらなく、そう言ってのける声。

 こいつ……おのれぇっ!!

 当時、俺がそのMP吸収の非効率さにどれだけ苦労したか……どれだけ惨めな思いをしてきたか分かっているのかぁっ!!

 などなど、延々と文句を言ってやろうかとも思ったが……そうしなければ世界を守れなかったんだと言われれば納得するしかないし、MP吸収の能力が無ければ永続召喚なんて出来なかっただろうし……その点については感謝するしかないので文句は言わないでおいてやろう。



 ――とはいえ、事情についてはおおよそ理解できた。

 ボルスタインは、世界の破裂とかいうドラマ性もクソもない理由で幕が下ろされるのを嫌がり、だからこそこの神様達に協力した。

 そして、そんな神様達の目的は世界を破裂させない事。世界の内に存在している魔物やらダンジョンの主やらの無駄な空気の排除だ。


 そんな神様達が俺の意識をここに呼び出した理由……察しはつく。

 つまり、こういう事だろう。


「なるほどな……。MP吸収を俺にくっつけて魔物やらダンジョンの主やらをぜーんぶ片づけてもらう予定だったのに、俺が全ラスボスを永続召喚しちゃったからこうして声を掛けてきたわけだ。

 ――なにせ、全ラスボスを永続召喚した俺にとって、MPなんてもう必要のない物だからな。そんな俺が好き好んで自分から魔物やらダンジョンの主やらを倒しに行くとは思えない。だから俺を排除して新たな転生者を呼ぼうとしていると……そんな所だろう?」



 この神様のいう事を全て信じるならば……だ。

 異世界の想像力豊かな魂とやらは各種族に一人ずつしか配置できないらしい。

 その中で、力は持っていてももう役立つかどうか不明な俺。


 ならば、そんな俺を排除して新しい転生者を呼び出した方が良いという結論になってもなんら不思議ではないだろう。

 だからこそ、こいつらは最初に俺に『転生者よ。疾く死ね』と言ってきたのだ。


 だが、そうはいかない。


「悪いが、俺はそう簡単に排除される気はないぞ? 神様がなんだってんだ。俺にはまだまだこの世界でやるべきことがあるんだよ。

 そもそも、信用できないかもしれないが俺は何も言われなくても魔物やダンジョンの主やらはぜーんぶ抹殺するつもりだったっての。あいつらは俺にとっても邪魔者だしな。

 だから、俺を排除して新しい転生者を呼ぶなんて面倒な事はせず、もう少し放っておいてくれれば――」


 そうして『簡単には言いなりにならない』『けれど放っておいてくれたらお前らの悩みの種は解決してやる』と交渉する俺だったが………………次に神様が告げる一言で硬直する事になった。



「あーー。えっと……うん。色々とごめんなさいなんだけど……そうじゃないよ? もう魔物やダンジョンの主、もっと言えばその元凶もぜーんぶ滅んじゃってるからね」







 ……

 …………

 …………………… 

 …………………………………………

 ……………………………………………………………………………………










「………………pardon?」


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