第39話『コンタクト』
「――――――ここは?」
目覚めたそこは不思議な場所だった。
光が無秩序にぐにゃぐにゃと曲がったような……そんな妙な場所。
虹色にも見えるその空間は絶えずその形を変え、果てがどこまであるのかもしれない。
そんな不思議な場所だが……俺はこの場所に見覚えがある。
これはそう、たしか――
「ボルスタインが創り出した異空間……」
そう、ここはラスボス達と主人公達が激戦を繰り広げる時にボルスタインが展開した異空間だ。
しかし……どうしてこんな場所に俺は居るんだ?
俺はそう……確かその戦いが終わって――
「………………………………あ゛っ」
――思い出した。
全てのラスボス達を永続召喚し、斬人やクルベックの記憶が流れ込んできて混乱し、更に更に戦いで疲労していた俺は……欲望のままに――
「んのォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
俺は自分が何をしたのか思い出して、たまらずその場で転げまわる。
「勝手に思いっきりはしゃいで疲れて帰って来て、そんでもって飯を食ったら眠くなったと言って女を連れて他人の寝室でって……最低かっ!!」
なんだその子供のようでいてダメな所だけ大人な行動。
しかも俺の記憶が正しければ――
「なんでっ!? 俺は!? ルールルにまで!? 手を出してんだアホかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
言い訳をさせてもらうのならばだ。
あの時の俺の意識は
だからこそ、ラスボスの斬人とクルベックの記憶を受け継いだ俺はそんな彼らに染まりきらないよう彼らの記憶になく、且つそんな彼らが絶対にしない俺ならではの何かをしようと試みた……のかもしれない。
そう――それこそがルゼルス達とのイチャコラであるっ!!
「――なーんて言い訳が通ってたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なにせ俺自身ですら本当にそうなのか? と首を傾げたくなる言い訳なのだ。
そんな言い訳が通るわけがない。否、通っていいはずがない。
あの時の事は記憶には残っているが色々と夢うつつで曖昧で……でもしっかり記憶には残っていて――
「……もしやアレ全部夢だったのでは?」
そうだったらいいなぁと思ってボソっと呟いてみる。
すると――
『――
まるでこの空間全体に響くかのような声が天から響いた。
酷く重々しい。声だけで只者じゃないと分かるような……そんな声。
「これは――」
頭上を見上げるも、誰の姿も見えない。
そうやって一人混乱する俺が落ち着く暇すら与えることなく。
『――告げる。転生者よ。疾く死ね。さすればその記憶と魂は輪廻の理によって流転されよう。その肉体は世界へと還元せよ』
先ほど聞こえてきた声とは別の、新たな声が聞こえてきた。
最初のものに比べれば幾分か人間っぽい感じの声だが……その言い方も内容も上位者然としたものだ。最初に響いた声と同じく、無機質で男か女かすら判別できない。
頭上だけでなく、周りも見回してみるが……やはり誰の姿も見えない。
しかし――
「いきなり『死ね』ってか……。それで『はいそうですか。じゃあ死にますね』なーんて言うとでも思ってんのかタコッ!! 言いたいことがあるんならまず姿を見せろやゴラァっ!!」
いきなり告げられた内容に反抗し、俺は空に向かって声を張り上げる。
あちらの姿が未だに見えない以上、こちらの声が向こうに届いているか不安ではあったが――
『汝ノ死。必須。世界、崩壊』
『――拒否は認めぬ。再度告げる。転生者よ。疾く死ね。さすればこの世界は救われよう』
俺の返答に対し、二つの声が返ってきた。
しかし、姿を見せる気はないようで、やはり何も視認できない。
一応こちらの声は届いているようだが……一方の声は言葉が少なすぎるし、もう一つの声は一方的に死ね死ねと告げ、さすれば~~しようと言うのみ。
「いや……だからそんなんで納得できるかっての……」
残念ながらどちらもまともに会話する気が無い……というより、まともに会話が出来ない相手のようだ。
こりゃどうしたものか……ポリポリと頬を掻いていたら。
『もう……ダメじゃない二人とも。私の子が訳も分からず困ってる。あなた達はもう少しコミュ力を付けないとね?』
またまた新たな声が天から響く。
先の二つの声と同じように、周りを見ても誰の姿もない。
『初めましてラース君。私たちは……なんと言うべきなのかな。あなた達人間でいう所の……神様? うん、そういうのをやってます』
「……はぁ?」
新たな声は先の二つの声のように無機質でなく、落ち着いた女性のようなものだった。
話も通じるようなのは結構だが……神とかかなり胡散臭い事を言ってるんだが?
とりあえず、俺は相手の正体を見破るべくラスボスの力を発動し――
「あ、悪いけどこのままでお話させてもらってもいいかな? 私もね? 姿を見せてきちんと話し合いたいんだよ? でも、ごめんなさい。今はそれが出来ないの。今の私たちは
――力を使う寸前の俺にそんな事を言ってのける声。
少なくとも、相手からは俺が見えているらしい。
言っていることが本当かどうかはともかくとして、今の俺を一方的に『観察』できるほどの相手の可能性あり……か。
神を自称する相手が何者かは今も不明だが、下手に噛みつくべきではないかもしれない。
この女性らしき相手は俺との対話を望んでいるようだし、ここは大人しく対話に徹することにしよう。
「――――――自称神様が俺に何の用だ? というか、ここはどこだ?」
「自称神様とは言ってくれるなぁ。ま、いいけどね。
それで、ここがどこかって話だっけ? うーん、なんて言えばいいかなぁ。気づいていないみたいだけど、今の君は曖昧な意識だけがここに飛ばされてる状態なの。だから、君にとってこれは夢のようなものだからここは夢の世界とも言えるかもしれない」
「夢の世界……ねぇ」
今の俺が
無論、俺が寝ている間にこの異空間に運び込んだ説もある
しかし、その傍にはルゼルスとセンカ、ついでにルールルも居たはずだ。
その三人に全く悟られることなく、且つ熟睡しているとはいっても全ラスボスの力の一部を引き継いだ俺を起こすことすらもなくこんな空間に運び込む事など……誰にも出来ないような気がする。
だから、夢の世界というならば多少は信じてやってもいい。
しかし――気にかかっている事もある。
「これが夢の世界だっていうならそんな事もあるんだって納得してやる。だが……この場所には見覚えがあるんだが、それは偶然か?」
そう――目覚めた直後にも思ったが、この光景には見覚えがある。
最近、これに似た場所で激闘を繰り広げたばかりだ。
つまり――
「この場所はボルスタインが創り出した異空間によく似てる――」
俺は抱えていた違和感を口にして、この場所は夢なんかじゃなくボルスタインが創り出した空間なんじゃないかと姿なき声に聞こうとするが。
「偶然、否。当然。同一。夢、否。現実成」
最初に聞こえた声。
威厳があり……されど無機質な声が介入してきた。
何かを俺に告げたようだが……残念ながら、その内容までは理解できない。
そんな介入してきた声に対し、先ほどまで俺と対話していた女性の声が『もう』と困ったような声音で。
「あなた達は少し黙っていてくれるかな? あなた達からしてみれば回りくどいのかもしれないけど、今はきちんとこの子に現状を把握してもらわないとでしょ?」
そう言って他の声に対して黙ってろと告げる。
それに対し、他の声はといえば――
「「……了承」」
どこか不満そうな態度をその声音に宿しながら、それでも了承する。
それを確認し、落ち着いた女性のような声は俺との会話を再開させるのだった――
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