第41話『コンタクト-3』


「………………pardon?」


 何を言われたのか分からず、俺は思わず使い慣れてもいない英語で姿なき声になんと言ったのか尋ねてしまう。

 いや、分からないというより信じられない。信じたくないというべきか。

 しかし、無常かな。どこかこちらを気遣うような声音で女の声は再度言う。


「えっと……だからね? ラース君がお盛んだったり熟睡してる間に魔物とそれを生み出す存在はぜーーんぶやっつけられたんだよ。魔人国風に言えばトゥルースコアが破壊されて、そこから生まれたフェイクコアや魔物達も消滅したって所かな」


「………………………………Why? じゃない。えと、こほん……どうやって?」


 もはや動揺を微塵も隠せない俺に、姿なき女の声は事のあらましを簡潔に教えてくれた。


「うーん。簡単なあらましだけ伝えるね? まず、君が召喚したアリスと主人公側の糸羅いとらとマサキ。彼らの姿が見えなかったでしょう?」


「あ、えと……はい。そっすね。まさか、その三人だけで……」


「殆ど正解だね。その彼らが地上を制圧していたダンジョンの主達を狩っていったんだよ。それについては殆どアリスのおかげだけどね」


「おいおいおいおいおい」


 途中から姿が見えないと思ってたらアリスめ……あいつそんな事してたのか。

 いや、確かにアリスがずっと大人しくしてるなんて思っていなかったけどさぁ……。



「そうして来たる元凶(トゥルースコア所持者)との決戦前っ! 女王のペルシーちゃんや彼女が引き連れた主人公達と合流した彼らはあっという間にトゥルースコア所持者を追い詰めたの」


 展開が熱くなってきたからかこの神様。なぜかノリノリである。

 しかし――


「あ、そこにペルシーや主人公が加わるんすね」



 そのトゥルースコア所持者とやらにはもはや同情するしかない。

 名だたる主人公達(覚醒済み)をたった一人で相手にするなんて……無理ゲーもいい所じゃないだろうか?

 


「そして、トゥルースコア所持者にペルシーさんが止めを刺そうとしたんだけどね? その時、ヴァレルさんがそれを止めたの。俺が止めを刺すと気を遣った結果だね。その一瞬の隙を突いて、誰もが予想しない結果が訪れた」


「ゴクリ」





 誰もが予想しない結果……それは一体?






「そう――元剣聖のガイ・トロイメアが瀕死のトゥルースコア所持者を一刀両断にしたんだよっ!!」








 ほう……………………なる……ほど?

 なるほどなるほど……ん?

 んんん?

 んんんんんんんんんんんん?






「おい待て」


「はい?」


「突っ込みどころしかないんだが……誰がトゥルースコア所持者を倒したって?」


「元剣聖のガイ・トロイメアさんだよ? ラース君のご先祖様にあたるね」


「それ……確かダンジョンの主……フェイクコア所持者だったよな?」


「そうだね」


「つまり、トゥルースコア所持者の部下って事だよな?」


「うーん。そこは曖昧な所かな。本来、フェイクコア所持者はトゥルースコア所持者に逆らえないはずなんだけど、彼はそういう縛りとかもぜーんぶ『斬っちゃってた』から」


「ああ……」


 そうか。

 ココウに敗れてたからあんまり気にしてなかったけど……あのご先祖様、この世界基準だとずば抜けて強かったっぽいからなぁ……。


 しかし、あのご先祖様……なんだかんだ生きてたんだな。

 全然出てこないから普通に死んでると思ってたし、なんならこうして名前を出されるまで忘れてたね。(第二章36話以降出てきてなかったし)


「それでね? 元剣聖であるガイ・トロイメアさんはトゥルースコアをその所持者から奪って、その場で食べちゃったんだよ。するとまぁ大変。彼は更に強くなっちゃったの」


「ある意味王道展開だなぁおい」


 ラスボスを倒したと思ったら、なんだかんだで第二のラスボスが現れる。

 アニメやゲームではよくある事である。魔王を倒したら大魔王が出張ってきたりな。


 問題はそこに俺が居ない事である。


 俺……立ち位置としては主人公みたいなもんじゃなかったっけ?

 自業自得なのは分かってるんだが……寝ている内にイベント進み過ぎて……既にもうなんて言えばいいのか分っかんねえよ……。


「そうして覚醒したガイ・トロイメアさんを待ちわびていたかのように、どこかから君が呼び出したラスボスのココウが颯爽と登場したの。『あの時の約束を果たそう』って言ってね。そうして二人は一騎打ちをすることになったんだ」


「熱い展開だなぁチクショウッ!!」


 そうだよなぁっ!!

 そりゃココウがそんなイベントを逃す訳がないよなぁっ!!

 ココウとガイ・トロイメア。二人は再び相対する事を誓い合っていた。


 そんな二人がそんな展開で再会を果たしたんだ。再戦という流れになるのは当然と言えば当然だ。

 果たしてその決着は――


「それで色々あって最終的にはココウが勝ったんだけどね?」


「雑ぅ!? 感動の再戦なんだからもうちょっと何かないのか!?」


「手に汗握る激戦だったね。ラース君風に言えばアニメのワンシーンみたいだったよ?」


「見たかったなぁチクショウっ!!」


 ホントに俺が寝てる間に色々と進みすぎだろ!?

 なんでその場に俺は居ないのかなぁ!?(寝てるからです)


「凄い激闘でね。ココウもかなりの手傷を負っていたんだよ。彼は戦闘の最中、時間を止めたりもしてたけどガイ・トロイメアも途中からそれに馴れたのか時間すら斬っててね。ギリギリの勝利って感じだったんだ」


「時間を斬るってもはや意味が分からないんだが……。しかし、あのココウが全力を出してどうにかなるレベルか……俺のご先祖様すげぇな……」


「本当にね。トゥルースコアの力を得たといっても、彼も元は普通の人間。それであそこまで強くなった人は歴史上一人も居ないんじゃないかな」


 さすがは俺のご先祖様。

 ダンジョンの主と化したとは言え、ご先祖様こそ剣聖の名に相応しい人物なんじゃないだろうか?


「――という訳で、トゥルースコアやらフェイクコア。果ては魔物に関する問題はもうあらかた片付いているんだよ」


「じゃあ問題解決じゃん。魔物やらを一掃することがアンタらの目的だったんだろ? 諸手を上げて万々歳じゃんか」


 この神様達の目的は世界と言う名の風船を割らないようにすること。

 そのためには勝手に増え続ける魔物と言う存在が邪魔だった。

 だからこそ、それを排除する為に俺のような転生者を呼んだのだとさっき言っていた。


 しかし、その魔物とそれを生み出す者達は全部滅んだという。

 問答無用のハッピーエンドのように思えるのだが――


「ところがどっこい。そう上手くはいかないんだよね。というのも……ペルシーさんとラース君。君たち規格外に強すぎるんだよ。召喚されたラスボスや主人公も含めてね。

 この世界にはさっきも言ったように許容上限という物があるんだけど……存在量が大きすぎる君たちのせいで実はもうかなりガタが来てるの。風船の一部が割けて空気が漏れていると表現すべきかな。草木は枯れ始めてるし、動植物達もその数を減らしてる。魔物たちと存在量オバケのセバーヌが居なくなったから少しはマシになったけど、このままだと結局数か月もしない内にこの世界は滅びちゃうね」


 あっけらかんと言ってのける神様。

 元凶を排除したのにも関わらず、世界が滅びる?

 んなアホな……。


「今は君が召喚したボルスタインの協力もあって世界はギリギリの所でってる。でも、やっぱり時間の問題だね。強すぎる君たち……その存在量が多すぎる君たちがこの世界に存在しているだけでこの世界は少なくないダメージを受け続けているの。

 ――本当ならその能力とかを取り上げて帳尻を合わせたいんだけどね……。困ったことに君たちはもう私たちですら手が負えない存在になってるみたいでそれは失敗したの。神様である私たちですら今の君たちはどうにもできない。だから私たちは君たちに対し、あるお願いするしかない」


 お願い……か。

 俺が最初にここに来て願われたこと。

 つまり――


「つまり――世界という器に収まらない俺達に死ねと……最終的にやっぱそういう話になる訳か?」


「話が早くて助かるよ。君たちと、君たちが使役するラスボスと主人公達がみんなこの世界から居なくなれば世界の修復はいくらでもきく。でも、君たちが命惜しさにまだこの世界に居座るなら……この世界は遠くない内に滅びちゃうね」


 つまりだ。

 俺たちがこの世界に居座る→世界は俺たちの存在量とやらを内包しきれずに破裂する。

 俺たちがこの世界から居なくなる→俺たちが居なくなることで存在量とやらが適量になり、世界は破裂せずに済む。


 ――って事か。


 だが待て。

 それなら別に死ぬ必要はないのでは?

 別の世界に邪魔な俺達をポーイと投げ出せばいいのでは?

 そう思って俺は神様にそう問いかけるのだが。



「うーん。それができるのならその通りだね。でも、魂だけならともかく肉体まで他の世界に飛ばすのは私たちじゃ無理かな」


 ――との事だ。

 神様と言っていたが、そんなこともできないらしい。

 となると、必然的に選択肢は二つになってしまう。



「残って世界が滅びるのを眺めながらその一生を終えるか。もしくは死ぬことでこの世界から退散して世界を救うか……結局はこの二択から選べって事か」


「そういう事になるね」


「――ったく」


 なんて面倒な。

 最低の選択肢しかないじゃないか。

 どちらにせよ、いずれ死ぬことが確定している。


 それを理解すると共に――目の前の光景が白くぼやけてきた。

 意識も遠くなっていく。

 これは――


「後はラース君が決めるだけ。どっちにしろ私たちはもう君たちに干渉できないからね」


「な、おいっ! ぐっ、ねむ……………………」


 何か他の解決策はないのか。

 お前の言っていることは本当なのか? その証明は?

 本当にそんな最低の二択しかないのか?


「ま……てぇ……」


 色々と言いたいことがあるのに、目の前の光景は白く……白く染まっていき、それと同時に意識が遠くなる。

 まるで――夢から覚める時のように。



「それじゃあねラース君。君がこの世界の為に死んでくれること……私たちは願っているよ」


 そんな姿なき声を聞くと共に、俺の意識は無へと帰り――


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