第32話『痴話喧嘩?』



「――――――はいストーップッ!!」



「うぉっ!?」

「きゃっ――」



 そんな俺とルールルをセンカが強引に引き離した。

 そうしてセンカは俺とルールルの間に立ちながら、



「ダメですよラース様っ!! これ以上のフラグ立てはセンカが許しませんっ」



 何かよく分からない事を言いながら、ズビシッと俺に指を突き付けていた。


「「?」」


 当たり前のように首をかしげる俺とルールル。

 そんな俺達を交互に観察したセンカは、



「なるほど……少なくとも今はまだどっちも無自覚みたいですね……セーフです」


 などと意味不明な呟きを零していた。

 いや、あの……本当に意味が分からないんですけど?

 そんな俺の様子が気に喰わなかったのか、センカはきっと目元を吊り上げ、


「ラース様は本当に……どこまでもラース様なんですから。なら――よしっ! ラース様!!」


「はい?」


 拳を握りしめて、これから戦いにでも出向くかのような気迫を見せるセンカ。

 彼女は『すぅぅぅ』っと息を吸い――俺に説教をしてきた。


「ラース様はなんでもかんでも背負いすぎなんですよっ! そのマサキ? っていう人がどんな人かは知りませんけど、その人がルールルさんに危害を加えるって言うんなら『私たちが』ルールルさんを守ってあげればいいんですよ。『ラース様』じゃなくて『私たちが』ルールルさんを守るんです。勝手に私たちの分まで背負わないでください。私たちにとってもルールルさんはもう大事な仲間の一人なんですから」

 

「あ、あぁ。その通り……だな。えっと……ごめんなさい」


 ルールルの事を『私たち』の部分を強調して守ると意気込むセンカ。

 俺だけが背負うなんて間違っている。その荷物を全員で分けて、ルールルの事はみんなで守ろうと……彼女は言う。


 それはまごうことなき正論だ。

 まさかセンカにとって、ルールルがそこまでの存在になっていたとは……正直思ってもみなかった。

 そう……だよな。ルールルを……仲間を守りたいっていう気持ちは俺もセンカも変わりないよな。

 だというのに、俺は自分ひとりでルールルを守ると意気込んで……確かに背負いすぎていたのかもしれない。


「そう……だよな。センカの言う通りだ。相手がマサキだろうがなんだろうが関係ない。ルールルはもう俺たちの仲間だ。だからこそ、俺たちで彼女を守る。それでいいんだよな、センカ?」


 センカの意志を受け取った俺は、そうやって確認の意味も込めて彼女に聞き返し――


「へ? ………………も、もちろんですっ!!」


 どこか気のない返事を返された。

 ……あれれぇ? おっかしぃぞぉ?

 俺の解釈、間違ってた?


「あの……センカさん?」


「守りましょうラース様!! 私たちみんなでルールルさんを悪の手先であるマサキさんから守るんですっ!! えいえいおーですっ!!」


「いやマサキは主人公なんだけど!? どっちかっていうと正義なんだが!? そもそもセンカ、お前キャラ崩壊してるぞ大丈夫か!?」


「~~~~~~。全部ラース様のせいですっ!!」


「理不尽!?」



 あまりにも理不尽なセンカの物言いに俺が戦慄する中、センカは『ルゼルスさぁん』とルゼルスに泣きつき、彼女に『よしよし』と頭を撫でられている。

 そんなセンカの頭を優しく撫でるルゼルスは、


「くすくす。センカも大変ね」


「いや、大変なのは俺じゃない?」


「ラースは……そうね。一度胸に杭を打ち込んでからゆっくり考えてみなさい」


「死ねと!?」


 全面的にセンカの味方のようで、俺に対して辛辣しんらつだ。

 んんん?

 これは……もしかしなくても二人とも怒ってる?


 ――もしかして……アレかな?

 俺が二人に相談なしにラスボスを召喚しまくった事を思い返して怒ってたりするのかな?

 うん、きっとそうだ。そのことで怒ってたりするんだろう。



「えと……ルゼルスもセンカも怒ってるよな? ごめん。確かに俺、今回は色々と勝手にやり過ぎた。もっと二人と話し合ってから動くべきだったって……反省してる」



 素直に勝手に永続召喚を相談なく一気に使った事を二人に詫びる。

 すると、二人は顔を見合わせて――


「「はぁ……」」


 ため息をついた。

 まるで『こいつ何も分かってねえわ』とでも言いたげな態度。なぜだ……。


「本当に大変ねセンカ。あなたは本当にこんなのでいいのかしら?」


「仕方ないですよ……だってもう変えられないんですもん……。ルゼルスさんもそうじゃないんですか?」


「くすくす、私はいいのよ。ラースのこういう所、個人的には好きだもの。逆に、察しがいい紳士のラースなんて気色悪いわ」


「……確かにそうですね。これでこそラース様なのかもしれません」


「何を言っているのかは分からないが、とにかく滅茶苦茶馬鹿にされてる事だけはなんとなく伝わってるからな?」



 俺をダシにして盛り上がるセンカとルゼルス。

 そうして俺が釈然しゃくぜんとしない物を感じる中――



「あのぅ……ラースさん。もう痴話げんかはいいですか? マサキ達が居なくなった件を置いておくにしても、今後の事について話したいんですけど……。食事の手も止まっているみたいですし……」



 ペルシーがもううんざりとでも言いたげな目で俺達を見ながらそんな事を言う。

 そういえば……途中から完全に食事の手を止めてたな。

 ふと周りを見れば、俺やセンカ等、騒いでいた面々以外はとっくに食事を終えている。


 どうやら、有益な話をするでもなく騒いでいた俺達待ちらしい。



「……ごめん」



 俺は意識を切り替えて、真面目に今後の事について話し合う事にした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る