第33話『キョウイの告白』


 過去の出来事についての説明回。

 正直、脱線してしまった感がありますが、せっかく書いたので投稿。

 スルーしても問題ない気がするので、興味ない方はスルーしちゃっていいかもです(こればっかだなぁ)


 ★ ★ ★




「それではキョウイさん。お願いしてもいいですか?」




 仕切り直し、開口は女王ペルシーから。

 彼女はこの魔人国の宰相であるキョウイさんに今後の事についてどう動くべきか考えを聞くのだが。


「畏まりました、女王陛下。しかしその前に……ヴァレル様、あの事については女王陛下に伝えなくても宜しいのでしょうか?」



「あぁ? ……あ、わりぃ。忘れてた。種明かしは任せた。もう女王の嬢ちゃんは大丈夫だろ」


「はぁ……全くあなたという人は。そんな事ではないかと思っておりました。全てを打ち明けても良いのですよね?」


「言っただろ? 嬢ちゃんはもう大丈夫だってな。さっき、俺ら主人公に対して土下座までかましたんだ。俺たちと一緒に歩む。そう嬢ちゃんは誓った。あの言葉に嘘はねぇと俺は信じてる。仮にこれから道を踏み外すことがあろうが、物好きな奴らが嬢ちゃんを正してくれるだろうよ。俺も含め……な」


「ほぉう」


 なんと。

 そんなイベントが発生していたとは……正直見て見たかったような気がする。

 おそらく、俺がさっき外の空気を吸いに行っていた後の出来事だろう。


 くそぅ……そんな面白イベントが行われてると知っていたら絶対に見に行っていたというのに……。惜しい事をした。



「――畏まりました。では、今後についての方針を話す前に、これまでの魔人国の……もとい、私が掲げていた方針についても語らせて頂きましょう。特に女王陛下には聞いていただきたい」


「わ、分かりました」


 そう言って佇まいを正すペルシー。

 その姿に満足したのか、宰相さんが語り始める。



「この国に女王陛下……ペルシー様が誕生したのが約三百年前。それから魔人国は過去の文明を優馬様のお力添えの元、急速に取り戻す動きを見せました」


「三百年前!?」


 この女王様ってそんなに年食ってたの!?

 どう見てもそうは見えない。せいぜい十代の少女にしか見えないもの。


「ふふっ、驚きましたかな? それだけ魔人種は長命なのですよ。

 さて――そんな女王陛下によって魔人国は急速に発展し、国防もヴァレル様達が担う事で安定した暮らしが出来るようになりました。しかし……問題が一つだけありました。これは女王陛下には言えなかったものです」


「「「問題?」」」


 俺やペルシー。さらに多くの主人公&ラスボス達が首をかしげる。


 例外はボルスタインやこれからの話の全てを知っているであろうヴァレル。ボルスタインは愉快そうに一同を見渡し、ヴァレルはつまらなそうに欠伸している。


 はてさて、宰相さんが語る問題とは――


「簡潔に言わせていただくと、即位して数年が過ぎた頃、女王陛下当人に問題が発生しました。それまでは彼女なりに懸命に魔人達の為に動いてくれていたはずなのに、飽きてしまったのか働かなくなってしまったのです。

 民を導く訳でもなく、面倒な事は全て召喚する主人公頼り。しかも、そんな女王陛下に仕える事を快く思っていない主人公方も多く、国防の為に惜しみなく力を振るってくださる方はヴァレル様のみ。そんな状況が続くようになりました」


「「「あー」」」


 なるほど納得。

 ちなみにペルシーはと言えば、両手で顔を覆って俯き、『死にたい』と恥ずかし気にぼそりと呟いていた。まるで自分の黒歴史を公共の場で晒されたかのような取り乱しっぷりだ。


「注意をしようにも全ての要でもある女王陛下にへそを曲げられればその瞬間から魔人国は国防すら満足に出来なくなります。それほどまでに魔人国は女王様の主人公召喚に頼りきってしまっていたのです」


「ご、ごめんなさい……」


 過去の女王様の問題をここぞとばかりに投下する宰相さんに対し、蚊の鳴くような声で謝罪する女王様。その顔は羞恥の色で真っ赤だ。

 

「いえいえ、こうして改心してくれたのですから問題ありません。

 ――しかし、当時の私たちにとっては死活問題でした。ゆえに、私たちは女王陛下に頼らず国防を担える兵士を作成しようとしました。それこそが――『人造魔人精製計画』」



「「!?」」


 僅かに身を固まらせたセンカとチェシャ。

 俺も二人からその計画の内容に関しては軽く聞いてはいるが、実際にその計画によってダメージを受けた二人にとって、ここでその計画の名が出た事は動揺に値するものだったようだ。


 宰相さんはそんなチェシャに申し訳なさそうに頭を下げ、


「チェシャ、申し訳ありません。あなたにとっては辛い話でしょうが、これは私にとっての贖罪しょくざいでもあるのです。全てが終わった後ならば私はあなたに殺されてもいい。ですから――」


「――いい。私は過去を乗り越えた。それに、私にはお姉さまが居る。それに……今なら分かる」


「チェシャ?」


「あなたは……私が本当の意味で壊れないように使命をくれた。もうかなり朧気おぼろげだけど、優しくしようとしてくれた頃の事も覚えてる。でも……大丈夫。私にはお姉さまが……うぅん。友達が……出来たから」


 ふっと、今にも消えそうな笑みを浮かべるチェシャ。


 そんなチェシャを、センカはその小さな体で抱きしめる。

 安心してね。怖くないよと言わんばかりにチェシャの背中をゆっくりさするセンカの姿は、失礼ながら友達でも親友でも姉でもなく、ただただ母親のように見えた。


 そんなチェシャとセンカの姿を見て呆然とする宰相さん。

 彼はその瞳から一筋の涙を流し、


「そう……ですか。少しだけ……救われたような気分です」


 そう言って俺達に背を向け、しばらく上を見上げていた。

 そうしてしばらくして落ちついたらしい宰相さんは、



「――申し訳ありません。少し脱線しました。さて――この『人造魔人精製計画』ですが、至って単純な計画です。我々魔人国の歴史は長い。その中で、今の女王陛下に及ばずながら強大な力を宿した転生者が幾人か現れておりました。そんな彼らの遺伝子は何かにつかえるかもしれないと過去の研究者によって保管されており、それは現在に至るまで問題なく保管されておりました。それらを――」


「――それらの転生者の遺伝子と女王の遺伝子を掛け合わせた……と。くすくす。神をも恐れぬ行為ね。センカは気に入らないでしょうけど……悪いわね。既にひねくれてしまった私にとって、それは面白い研究テーマであるとも思えてしまうわ。遺伝子によって生まれる子供の能力値限界が決定されるなら、試すべきと思えるわね」


 宰相さんの言葉を遮るようにして、ルゼルスが先に『人造魔人精製計画』の内容を口にする。

 基本的にセンカの味方をするルゼルスだが……少なくとも彼女本人はこの計画に忌避感は抱いていないようだ。

 

「――そのように考える者が居たからこそ始まった計画です。私自身も計画に異を唱えませんでした。ですが……結論から言えば、この計画は失敗に終わりました。

 精製自体はうまくいったのです。生み出された百の魔人達は様々な家庭に送られ、あらゆるパターンが試みられました。将来従軍させるまで各々自由にさせる。そうする事で様々なデータを採取しようとした。しかし……生まれた魔人たちが十歳を迎え、職業クラスを授かった時。私たちはこの計画が根本的に間違っていたのだと突き付けられることになりました。

 というのも、精製された魔人は誰一人として望まれた職業クラスを得ることが出来なかったのです。少なくとも、転生者と比べればあまりにもお粗末な物でしかありませんでした。かけたコストにまるで見合っていないと思える程だったのです。

 この計画の失敗によって、職業クラスやステータスというのはなにも遺伝子によって決まる物ではないのだと我々は学ぶことになりました。そうなれば計画を続ける理由などありません。そうして『人造魔人精製計画』は白紙に戻されたのです」


 チェシャが製造されるきっかけとなった『人造魔人精製計画』。

 その計画の骨子にあったのはただただ魔人国の為を思えばこそというもの。

 問題がある女王の代わり……いや、最低でもその補佐を担える魔人を誕生させなければ魔人国は滅ぶ。そのような想いから計画は実行されたのだと宰相さんは語る。


 もちろん、中には研究欲に駆られた者も居たのだろうが、それでも純粋に魔人国を想っていた者が居たことを否定なんて出来る訳がない。


「――計画は白紙にこそ戻されましたが、既に生み出されていた百の魔人の存在が無かったことになるわけではありません。その多くは当人にその素性を明かさないようにと念押ししたうえで各家庭に預けられました。しかし、タダで見知らぬ子供を育てる親など僅か。なので、魔人を預かってくれた家庭には計画によって生み出された子供たちを育て、従軍させる事を条件に継続的な支援が行われる事になりました。

 もっとも……これに関しては失敗だったかもしれませんがね。チェシャのように親の愛を知らないまま育ってしまう子供を幾人も生み出してしまった。さすがに彼女ほど計画に狂わされた子供は他に居ませんが……ね。いくつかの家庭は子供に情が湧いてくれたのか、あちらから支援を打ち切って従軍させる事を拒み、実の子供に接するように接してくれたみたいですし………………と、申し訳ありません。脱線が過ぎましたね」




 過去を悔いるように、『人造魔人精製計画』によって身勝手に傷つけられた子供たちを想う宰相さん。

 確かに、その計画によってチェシャは傷ついたと聞いている。今でも心に残るくらい大きな傷を付けられたのだと。


 ただ、それでも俺は宰相さんやら計画に携わった人たちを責める気にはあまりなれない。

 生み出された命を失敗作だからと処分しなかっただけ、十二分に人道的だと思えてしまうしな。

 それでも、本人は命を身勝手に弄んだみたいな罪の意識があるのか、チラチラとチェシャに視線を送り、その度に申し訳なさそうな表情を見せる。


 しかし、いつまでもそんな話はしていられないと思ったのか。宰相さんは話を進める。


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