第28話『やっぱり主人公(一人)はチートでした』



 ――結論から言おう。

 女王様であり、主人公召喚士でもあるペルシー。

 彼女は永続召喚する事を承諾してくれた。


 そんな彼女は――――――なんと俺のように全ての主人公をランダム永続召喚しやがったのだ。


 ここで死なれてはつまらないと思ったのか、ペルシーが永続召喚をしている最中に目を覚ましたボルスタインが速攻で状況を理解し、ペルシーの痛覚も麻痺させたからよかったものの、そうでなかったら激痛によってショック死していたかもしれない。

 センカに何を吹き込まれたのかは分からないが……困った女王様である。


 と言っても、ペルシーに色々と吹き込んで彼女に永続召喚する事を承諾させた当のセンカも『こんなはずじゃなかったのに……ラース様の事は悪い例として話しただけなのに……』と項垂れていたから全部が全部センカの想い通りという訳ではなさそうだが。



「無茶すんなぁ嬢ちゃん。あ、今は返事すんなよ? 嬢ちゃん、痛みは感じてねぇみたいだから分からねえかもしれねえが……アンタの体の中、今すっげぇ事になってるからな?」


「――――――」


 ランダム永続召喚×10をやり終えたペルシーの身を案じるヴァレル。

 それに対し、ペルシーは応えたくても応えられない。

 なぜなら――


「大丈夫だヴァレル。今、ペルシーは動きたくても動けないはずだ。俺の能力で既に影を固定したからな」


 リリィさんの能力。操影。

 全ラスボスの能力の一部を手に入れた俺は当然、これも使える。

 まだまだ練習は必要だろうが、それでも人一人動けなくするくらいなら今の俺の練度でも可能だ。



「……分かってはいたが、本当に面倒な存在になったなぁ兄弟――」


 どこか遠くを見るような目で俺を見つめるヴァレル。


 まさか主人公様からそんな目で見られる日が来ようとはなぁ……。


 だけど実際、ペルシーの体はしばらくこうして固定化した方が宜しいでしょうが。


 永続召喚した直後は、体が内部だけとはいえ根本から作り替わるからか。肉体が文字通り軋むような……そんな悲鳴を上げまくってる感じになる。

 一回の永続召喚でもそうなるのに、ここに居るペルシーは耐性も出来ていないままそれを十回もいっぺんにやったのだ。正直、正気を疑っちゃうね。


 今のペルシーは、例えるならば器に水が溢れんばかりに注がれたような状態だ。

 少しでも刺激を与えれば力という名の水は溢れてしまうかもしれないし、最悪ペルシーという器そのものが壊れてしまうかもしれない。


 だからこそ、こうして固定しておいた方が良いだろう。

 ここで女王様に死なれても寝覚めが悪くなるだけだし、そりゃ出来る事はするでしょという話だ。


 しかし――だ。

 ヴァレルの言う通り、俺も大概インチキな存在になってしまったとは思うが……。


「いや、俺なんて全然だろ。少なくともそこに居るセバーヌさんと俺がやりあったら絶っっっっっ対に負けるからな? 望んだだけで現実を変えられるとかどないせいって話だよ……」


 と、召喚されたばかりで『さてどうしよっかなぁ』と両腕を組んで遠くをぼーっと眺めているセバーヌに矛先を変えてみる。

 実際、セバーヌ相手では俺がどんなラスボスと共闘しようが勝つことは不可能だ。

 

 仮に……仮にだ。彼と俺達が戦う事になったとしよう。


 すると、結果は――――――







 セバーヌが自身の勝利を望みました→はいセバーヌが勝利しました。



 



 ――となる事も十分あり得る。



 ……いやどうしろと。

 もちろん、セバーヌはゲーム内においてそんな能力の使い方をしたことはない。

 だが、極端な事を言ってしまえば、セバーヌの能力はそういう事すら可能なはずなのだ。


 セバーヌとまともにやり合おうとするなら、セバーヌと同じような未来確定型の能力を持つか、もしくはセバーヌが何かを望む前に決着を付けなければならない。しかも、死ぬ間際に何かを望んだりされる暇も与えることなくだ。


 断言しよう。

 ――――――勝てるかんなもんっ!! チートだチート!!


 そうしていきなり話題にあげられたセバーヌさんは腕を組むのをやめ、


「……ん? 俺……か? いやいや、俺もそんなに大した存在じゃないよ。現に、今だって何も出来ていない。俺に出来る事と言えばせいぜい……そうだな……。

 ペルシーさんが今苦しめられている永続召喚による代償に耐える事が出来て、そうして俺たちの力が彼女の体に完全に馴染んで、そうして彼女が五体満足になった未来を望むことくらい……かなぁ?」


 そうセバーヌが呟いたその時――


「――――――ふぁれ? か、体の違和感がなくなっちゃいました……。これは……凄い。完全に治ったみたいですっ!」


 俺が影を拘束して、体どころか口すら満足に動かせないはずのペルシーが歓喜の声と共に立ち上がった。

 俺の戒めを破ったことも驚きだが……えぇ?

 今さっき永続召喚×10をやったにも関わらずもうなんともなくなってるの? 

 これぞセバーヌの能力という訳か……。過程とか理由とか全部無視して望んだ結果のみを現実にする能力。


 ――――――

 ――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――――







「……やっぱチートじゃねえか」


 汎用性が高い上に、対処手段がほぼ取れない能力。

 何度でも言ってやろう――――――勝てるかこんなもん。



 その当の本人であるセバーヌも頬をかきながら苦笑している。

 自分がインチキだと言われてもこれじゃ否定できないなぁという感じですね。はい、その通りです。あなたは自分がこの中で一番チートである自覚を持つように。



 さて――


「しかし、ラスボスと主人公様が勢ぞろいか……。これまた圧巻だなぁ。ラスボスは一部滅ぼされたけど――」


 もちろん……というべきか。ココウによって倒されたルクツァーもきちんと再召喚されて、何食わぬ顔で同じく召喚されたばかりのひいらぎ七輝ななきに絡んでいる。

 二人とも、なんとなく趣味が合いそうだしね。


 そんな光景に圧倒されていると。


「はい……はいっ、そうですよね! 私、こういうの見るとすっごく興奮しちゃってっ。あぁ……今までは主人公達は創造の産物だ創造の産物だって思ってましたけど今の皆って言うなれば受肉している状態ですよねれられるんですよねさわれるんですよね話せるんですよね友達にだってなれるんですよね!?」


 ――と、俺の独り言に音速で食いつき、ものすっごい早口で捲くし立てる女王ペルシー。

 え? 女……王? 女王っすよねあなた?


 女王ペルシーは『はぁはぁ』と軽く息を荒くしながら絡み合っている(健全な意味で)ルクツァーと七輝から目を離さない。


 いやいきなり何なんですかあなた? なんだかもう今のあなた目が怖いんですけどなにその肉食獣が獲物を目の前に差し出された時にするような爛々とした眼。

 もはやさっきまでの冷徹でどこか冷めた目なんかよりもよっぽど怖いかもなんですけど。その視線が俺に向けられていたら裸足で逃げ出してる自信があるね。


「俺は……俺たちはもしかしたらとんでもない怪物を野に解き放ってしまったのかもしれない……」


「何馬鹿な事を言ってるのラース? あなたもこの光景に呑まれて頭がおかしく……ごめんなさい。元々頭はおかしかったわね……」


「そこで謝るのは本当に勘弁してくれませんかねぇルゼルスさぁんっ!!」



 くすくすくすと静かに笑うルゼルス。

 しかし、確かに俺も少し興奮してしまっておかしくなっているのかもしれない。

 こうして全ての主人公と、サーカシー、クルベック、斬人を除いた全てのラスボスが揃って……揃って………………。



「……………………あれ? 足りなくない? っていうか優馬は何やってんの?」


 人数が多かったら最初は気づかなかったが、いつの間にやら幾人かのラスボスや主人公がこの異空間から姿を消している。

 そして、優馬はと言えば何に使うかよく分からない道具を懐からポンポン取り出し、何かをしている。……あれは一体?



「わぁぁぁ……。ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。憧れの主人公達が実際に目の前に居て、それが本物なんだって思ったら興奮して――――――あれ? 本当ですね。いつの間にかマサキや糸羅いとらも居ません。

 ゆ、ゆう、ゆゆ、ゆまは……あれ、どうしよう。今までは普通に呼び捨て出来てたのに、急に恥ずかしくなってきちゃいました。えと……優馬さんは何をしてるんですか?」




 えぇ……なんなのこの主人公召喚士。

 もしかしてどっかで頭でも強烈に打って人格でも変わった? もはや最初の冷徹なわがまま女王の面影すらないんだけど……。

 言動から推測するに、召喚された主人公達の事を創作物と割り切っていた以前は普通に冷たく接する事が出来たけど、今はそんな事出来ませんって感じ……なんですかねぇ?


 俺がそんなペルシーの変化に内心かなり驚いている中、俺とペルシーの二人に尋ねられた優馬は、作業の手を止めないままぶっきらぼうに。



「帰る」

 


 とだけ答えるのだった。


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