第27話『敵わないなって思ったんだ』
「――優しい子」
ルゼルスがさらりと俺の頭を
俺は、そんなルゼルスの事を横目で盗み見た。
俺の頭を撫でる彼女は……とてもやさし気な笑みを浮かべていた。
「クルベックと斬人……彼らは言うまでもないけれど人の枠外にある存在よ。人として特別……なんて言葉では済ませられない。
斬人の相手だった
それに対し、あのラスボスの二人はどう? どんな環境にあろうと、誰に何を言われようとも……決して揺れず、折れない。望みの為にそれと相反する事を為して、それでも最初に定めた夢を決して見失わない……言葉にすれば容易いけれど、彼らのそれは狂気そのものよ」
ルゼルスは、クルベックと斬人の事を狂気そのものと評す。
確かに、それは間違っていないのだろう。
人は誰だって過ちを犯す。
その後、道を踏み外すか正しい道を進むのかはその人しか分からないが、それでも多くの人や環境なんかにも影響を受けながら変化していく。
けれど、あの二人は決して折れず、最後まで自分の望みの為に修羅の道を歩んでいた。
それは、俺からすればとても格好よく見えたけれど――
「――それは人の生き方としてはあまりにも
そんな二人の生き方をルゼルスは歪なものとして一蹴する。
「彼らを見て憧れるのは無理ない事。なにせ、彼らはぶれないもの。その
――でもね……それは第三者として見ているからよ。どんな環境にあっても、どんな事があっても折れず、曲がらない彼らの信念は歪と言う他ない。彼らの記憶を受け継いだあなたなら、少しは理解できるんじゃないかしら?」
「………………そうだな」
クルベックと斬人の過去。
常人ならば、確実にどこかで心が折れるような目に二人は遭ってきた。
しかし、二人は折れなかった。
どんな困難が立ちはだかろうとも彼らは周りの人間や自身を削って削って削りまくって……そうして自身が望んだ夢へと手を伸ばし、しかしそれが真っ当な手段では叶えられないものだと知ってしまった。
普通ならそこで掲げた夢を目指す事そのものを諦めるだろう。
なんだかんだ言い訳しながら現状を良しとし、妥協するだろう。
――けれど、彼らは諦めなかった。
そうして諦めなかった果てが、ラスボスとしての彼らだ。
一方は平和の為に殺戮を繰り返し、もう一方は平和の為に国民から強制的に個性を奪い去った。
その生き方はなるほど。言われてみればとてつもなく……歪だ。
けれど――
「だけど……二人の願った夢は間違いなんかじゃない。だからこそ、俺はあの二人に報われてほしかった。でも、迎えた結末は結局また死だ。これじゃあまりにも――」
――報われない。
そう続けようとした俺の口を、ルゼルスは人差し指で軽く押さえる。そして、
「二人は、満足していたんでしょう?」
それは、純然たる事実。
なにせ、先ほど俺がそう言ったのだ。
死ぬ間際の二人に後悔なんてなかったのだと。
自分が背負っていた物を主人公達に預けられて、ようやく荷を下ろせたと。
それはつまり、彼らなりに満足していたのだという事で――
「そもそも、修羅の道を歩む事を是とするあの二人に真っ当な救いなんて誰にも与えられる訳がないでしょう? いえ、仮に与えることが出来たとしてもあの二人は自分がそんな形で救われる事なんて望まない。救いの手など跳ねのけ、自らまた修羅道に潜るだけ。それしかあの二人には出来ないのよ。
そんな二人が後悔はないと。後世に託せたと思えるようになっただけで十分に救われていると思うわ。
だからラース。そんな彼らの気持ちを素直に受け止めなさいな。深く考えるのなんて、あなたらしくないしね。くすくす」
真っ当でない二人に真っ当な救いなんて、最初からある訳がない。
だからこそ、真っ当でない彼らが彼らなりに救われた事を満足しろと。
そうルゼルスは俺の頭を撫でながらを励ましてくれる。
そうして、最後には俺に考え事など似合わないと、くすくすと笑って茶化してくる。
そんな彼女に俺は
「……それは言いすぎだろ……。俺だって悩んだりするんだよ」
「あら、これは失礼しましたご主人様。くすくすくすくす」
「全く……ホント敵わないなぁ……」
こうやって拗ねて見せても普通に返してくる彼女には本当に敵わないと思わされる。
こうやって甘やかされるだけで、先ほどまで重く沈んでいた気持ちはどこかへ行ってしまったようだしな。
これが惚れた弱みというやつか……やれやれだ。
ルゼルスにまんまと心中を
そうして、話がついたらしいセンカとペルシーの下へと向かい――
「ああ、それとね――」
「ん?」
そんな俺の背中に、ルゼルスが声を掛けてくる。
振り返ろうとしたら、後ろから幼い彼女の肢体が俺の背中に乗っかるように抱き着いてきて――
「私はこうして第二の人生を謳歌させてもらってとても満足しているし、少なくとも今は死にたいなんて思っていないわよ? 手のかかる恋人と、同じくらい手のかかる娘が居るのだからね。くすくすくすくす――」
まるで俺の全てを察しているかのように、そんな事を言うのだった。
それを聞いて、俺は安堵と共にこう思ったんだ。
ああ……やっぱり敵わないなぁ――。
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