第25話『ココウVSルクツァー』


 今回もラスボスVS主人公の戦いです。(今回で終わります)

 ラース達の物語とは関係あるようであまりない気もするので、特に興味ない方はスルーしちゃっていいかもです。



 ★ ★ ★



「時よ止まれぇいっ!! ――――――――――――ぐっ、ここにも罠か。ええい、いいかげん正々堂々己と戦わぬかルクツァァァァァァァァァァッ!!」


「――――――――――――。ざっけんなタコ助っ!! だーれが時間を止められるどチートなお前相手にまともにやりあうかよぉっ。

 良い事を教えてやろうココウ君。勝負なんて最終的に勝てば良かろうなのだよ。ま、俺はそもそもてめぇとやる気なんてねぇけどなぁっ! ブッハハハハハハハハハハハァァーー」


 相も変わらずボルスタインが創り出した異空間を鬼ごっこのように駆けまわるココウとルクツァー。


 ルクツァーは逃げる。ただただココウから逃げ続ける。

 ココウを倒した主人公であるはずのルクツァー。

 その彼が、なぜか恥も外聞もどうでもいいと言わんばかりに逃げ続けている。

 その理由は――


「こうして世界がぐるっと変わっちまったんだ。確かに悲しい。俺はとても悲しいっ。だけどよ~~? 変わったもんは仕方な~~い。俺はきちっと切り替えて彼女の一人でも作って余生を過ごそうと思うのだよ。従って、お前とやり合う意味などな~~い。ドゥーユーアンダスタン?」


 そう。

 ルクツァーにとって、そもそもココウとの決着など既にどうでもいい事なのであるっ!!


 アニメにおいて、ココウはルクツァーだけでなく彼の仲間にも敵意を向けていた。

 強者とみれば狂犬如く襲い掛かる天災。

 それこそがココウというラスボスだったのだ。


 そんなココウにルクツァーは執拗しつように狙われた。

 時には仲間を傷つけられたりもした。

 そんなココウを許すまいと、ルクツァーはココウと雌雄を決し、勝利した。それがアニメでの二人の関係性である。



 しかし、この世界においてはまだルクツァーに友など居ない。

 彼女も作りたいと言うだけで現在は居ない。

 つまり、ある意味弱みがない状態。同時にココウと戦う理由も完全に消失している状態なのだ。


 ゆえに、ルクツァーは戦わずに逃げる。

 もう一度ココウとやり合って勝利できるという保証もない彼は、ただただ逃げるのであった。



「~~~~~~。貴様に戦う理由がなくとも、己にはあるのだっ。この……貴様は主人公なのだろう!! ならば正々堂々己と戦えぇぇぇいっ」



 ココウはそう声高に叫びながらルクツァーを追う。

 肉体を限界まで鍛えているココウ。そんな彼はルクツァーなどよりもよっぽど素早い。

 ゆえに、何もなければルクツァーを捕まえる事など容易なのだが――



「くっ――――――また糸か。おのれぇぇぇ。猪口才なぁぁっ」



 空気の流れからか、はたまたルクツァーの視線からか。

 目の前に糸があると察したらしいココウはその場で動きを止める。



「ちっ。まーた察しやがったか。そのまま突っ込んでくれば真っ二つだったってのによぉ」



 ルクツァーはそう愚痴ると共に指先を動かす。

 その指先にはいつの間にか真っ黒な糸が巻き付いており、その黒い糸の内の一本は今まさにココウの目の前に揺蕩たゆたっていた。




 これこそがルクツァーの武器。

 ――ただの糸だ。




 ただの糸ではあるが、ルクツァーは自身の能力によって自身が持つ物体に超振動を与えることが出来る。

  例えば今、彼が操っている糸にだって超振動を与えることが出来るのだ。


 それにより、彼が操るこの糸に触れられるだけで対象は切り刻まれる事になる。

 更に―― 


「この……面倒な。逃げ回るには便利な能力よなぁっ。そうして透明な罠を幾重も張り巡らせられてしまえば己も貴様を追いにくい。実に面倒だ」


「ハッ。透明化させた糸に気付くお前もなかなかに面倒だっての。相手がお前じゃなけりゃ俺はとっくに自分自身を透明化させてこっからトンズラしてるってのによぉっ。時間を止められてる間は超振動もまるで意味がねえ。このままじゃあっさり捕まりそうだぜぇ~~」


 そう、ルクツァーは自身と、自身が触れている物を一定時間だけ透明化させる事が出来る能力も所持していた。


 物体に超振動を与える能力に加え、物体を透明化させる能力。


 そんな彼が真価を発揮するには今のように罠を仕掛ける時だ。

 まともにやりあえばココウに軍配は上がるだろう。純粋な追いかけっこでも同じだ。


 しかし、こうして罠をいくらでも仕掛けて良いなんでもありの中での逃走劇ならば――ルクツァーが一歩勝る。



「戯け。己が時間を止めていられる時間は精々数秒だ。貴様の糸を無視して強引に進んでいる間に時間を止められなくなれば再度振動を開始した貴様の糸によって己は無視できぬ手傷を負う。それを理解していない己だと思っているのか」


「……無視できない手傷どころか手足が一本無くなってもおかしくないと思うんだけどなぁ。はぁ……本当に面倒くさいイカレポンチ君だよお前は」



 二人の戦いは続く。

 それを眺めている俺は、ルクツァーの思考を読んでみるが――



(――とはいえ、決め手がねぇんだよなーー。あんのイカレポンチ。どうやってんのか透明化させてる糸もぜーんぶ躱しやがるし……。ってか、ここであいつを倒してもどうせいつかまた復活して勝負を挑まれるんだろ? ………………めちゃくちゃ不毛じゃな~~い?)


 ココウは絶対に敗北を認めない。どこまでも強さを求める狂人である。

 アニメにおいてもココウはかなりしぶとく、致命傷を何度負ってもルクツァーとの戦いを継続していた。

 その記憶があるからか、ルクツァーはここでココウを倒しても無駄だろうと考えているようだ。


 そこで――


「ハッ!! 閃いたぁぁっ!! 俺って天才かもしれねぇっ!!」


 パァンッと手を打ち合わせ、何か思いついたと言わんばかりに笑みを浮かべるルクツァー。


「くっ――。何を思い付いたというのだ……。また面倒な事なのだろうが……」



 何度もルクツァーが練る策略に嵌められ、ひどい目に遭ったココウはそんなルクツァーを強く警戒する。

 だが、そんな心配は不要だった。

 なぜなら、ルクツァーが考え付いた事とは――




(そうだそうだよっ!! あいつは俺に勝つことそのものが目的なんだろ? そして通常召喚された俺は放っておかれようが殺されようがどっちにしろ二十四時間以内に消える存在だ。って事はつまりぃ? ちょーーっと痛い思いをするだろうがここであいつと戦ってボロ負けすりゃあ……もうあいつに追われることはないんじゃね!?)



 ――まさかの八百長勝負をココウへと仕掛けようとしていた。

 もはや主人公から出てくる発想ではない……。



 とはいえ、ルクツァーの今の立場を考えればある意味最適解でもある。

 これ以上ココウの相手をしたくないルクツァーだが、今の彼は通常召喚された存在である。

 つまり、仮に死んでも再召喚して貰えればすっかり元通りの姿でこの世界に現出する事ができるのだ。


 つまり、敗北をどうとも思わず、勝負にかける誇りもなく、痛いのも我慢できるのならばワザと敗北するという案は決して悪くない物だった。


 当然、勝敗をどうとも思わず、誇りなんてとっくにゴミ箱にポイして、痛いのだって我慢できるもんっ! というルクツァーは迷わずその案を選び――



「ふっふっふっふっふー。なぁに。簡単な事だよココウくぅん。俺は既に一度、お前に勝っている。そう、俺は主人公だ。つ・ま・りぃ……こーんな面倒な追いかけっこなんてせずとも俺の勝利は決まっていると気づいたのだよ。

 ――いいだろう、正々堂々勝負といこうじゃあないか」



 あおった。

 それはもう盛大にココウを煽った。

 ルクツァーは「お前なんて俺の敵ではな~い」なんて事も言いながら、ひたすらにココウを煽る。内心では負ける気満々であるにも関わらずだ。



「――これはひどい」


 思わず声に出して言ってしまったが、本当になんて主人公だ……。



 あおり耐性が高い奴に対し、こうして過剰にあおれば『こいついきなりどうしたんだ? 何か狙っているのでは?』と訝しまれるだけだろう。


 しかし、ココウはそうではなかった――


「え? なになに怖気おじけづいちゃったのコ・コ・ウ・ちゅわぁーーん? ほーれほれ、俺はもう逃げないぞぉ? それとも、散々偉そうな事言っといていざとなったら怖くなっちゃったんでちゅかぁ? ぷーくすくす。へいへーい、ココウちゃんビビってる~~。ほらおしーりPEN☆PEN☆」


 あまりにもうざったらしいルクツァーの煽りにココウも遂に耐えられなくなったらしく。





「貴様……きぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁぁっ!!! そこまで己を愚弄するとは良い度胸だぁっ!! 否、それだけではないっ。貴様は今、己だけでなく神聖な決闘という行為そのものに泥を塗ったぁぁぁぁぁっ。良いだろう。これから行われるのは決闘ではなく、処刑だ。もはや貴様をライバルなどとは思わん。神聖な決闘を汚したドブネズミとして処してくれるわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ――キレた。

 それはもう盛大にココウはキレた。

 強さを限界まで求め、その過程にある戦いと言う行為そのものに神聖さすら感じているココウにとって、ルクツァーの決闘を馬鹿にした態度は我慢のできない物だっらたしい。

 実際、ルクツァーはその神聖な決闘とやらに泥を塗りまくっているので間違いではない。

 本人もその辺りの自覚はあるようで。


「へーんだ。神聖な決闘だぁ? んなもん犬にでも食わせとけターコ。そもそもてめぇと戦いたくないって散々言ってる俺と無理やり戦おうとかする時点で神聖もクソもなくないっすかぁ~~? つええ奴とやりたいならそれこそセバーヌの旦那にでも挑めってんだよ。

 ――って……あっごっめ~~ん。それは無理か~~。だってセバーヌの旦那相手だと瞬殺されちゃうもんな~~? お前の言う神聖な決闘って、勝てるかもしれない相手との戦いの事だもんなぁ? いやー、ホントわりぃ。神聖な決闘(笑)をしたいってんなら俺を引っ張り出すくらいしかないよな~~? うんうん、仕方ない仕方ない。ほれほれ、軽く相手してやるからかかってきなちゃ~~い」


 これでもかというくらい神聖な決闘とやらを汚しまくるルクツァー。

 さすがはうざ……愉快な主人公ランキングNO.1に輝くであろう男だ(私見)。実際、ここまでうざ……愉快な主人公などそうは居ないだろう。



「ぐっぬっぬぅぅぅぅぅぅ……己は果たすべき決闘を優先しているだけだ。まずは己を打ち倒した貴様との決闘。そして――」


「はいはい言い訳おつ~~。孤高なる武人とか気取ってるけど要は怖いだけでちゅもんね~~」


「ルクツァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


「おっ。来るの? ビビリココウちゃん来るのぉ? っしゃオラァッ。望み通り正々堂々やったらぁっ!!」


 もうルクツァーに喋らせまいと言わんばかりに特攻するココウ。

 時折ココウは変な軌道を描いているが、おそらくルクツァーが漂わせている糸を避けているからだろう。

 そして宣言通り、そんなココウを真正面から迎えるルクツァー。

 懐から滅多には出さない接近戦専用の短剣を取り出し、それに超振動を与える。


「ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!」

「でいらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 そうして交差するココウとルクツァー。


 互いの全力を込めた拳と剣が交差する。


 結果――




「へ……へへ。やるじゃねぇ……か……」




 そう言って、満足げに倒れるルクツァー。

 拳を振りぬいたままのココウはつまらなそうにルクツァーを見て。



「策略もなしに貴様が己に勝てるわけがないだろう。一度の勝利で慢心しおって……。所詮、その程度の男だったという事か。――このような男に敗北してしまうとは、己もまだまだという訳か……。ふん、つまらぬ時を過ごしたな。貴様の肉など、喰らう価値すらない。もっとも、喰らうまでもなく消えるようだがな」


 そう呟くココウの視線の先、ルクツァーの体が淡く輝きながら透明になっていく。

 通常召喚されたルクツァーが致命傷を負った事で、その存在を保てなくなったという所だろう。



「いってぇなぁ……クソ……この俺が……くそ……くそぉ……いてぇっ……」


 泣きながらこの結果に対し、呪いの言葉を吐くルクツァー。

 しかし、その心中は――



(いっでぇぇぇぇぇぇぇ!? いやいやマジいってぇ!! あ゛~~早く消えねえかなぁ。小物っぽく振る舞う事でこいつの標的から外れたっぽいから作戦成功って感じなんだが……いっでぇよぉ~~。僕ちん、痛みすら感じないくらいの一撃欲しかったなぁ。あ゛~~ダル。小物っぽく惨めにのたうち回るのもだりぃ……)


 ――という、なんとも愉快なものだった。

 


 そうして「うぼぁぁぁ……死にたくねえ……しにたくねぇよぉ……」等、三下が死ぬ間際に言うであろうセリフをいくつか口にしながら、ルクツァーの体は虚空に消え去ったのであった――


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る