第24話『クルベックVS柊七輝』
今回もラース目線でのラスボスVS主人公の戦いです。(次で終わります)
ラース達の物語とは関係あるようであまりない気もするので、特に興味ない方はスルーしちゃっていいかもです。
★ ★ ★
「
あぁ、柊七輝ヒイラギナナキヒイラギナナキひいらぎななきひいらぎななきいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ。余は貴様が狂おしい程に愛おしく、同時に狂おしいまでに憎いっ!!! これほど余の心を乱す者は貴様意外にあり得ない。数多の主人公の物語を知ってもなお貴様だけが余の特別だ。さぁ……もっとだ。もっと貴様の輝きを余に見せてくれぇっ!!」
「うっせぇタコっ!! 俺の名前連呼しやがって気色悪いんだよ。てめえが俺の事をどう思ってるかなんか関係ねえ。ただ……俺はてめぇの事が純粋に憎いっ。争いを止める。ただそれだけの為にいろんな奴らから個性を奪いやがって。人は……自由な意思の下で生きるべきだろうがマヌケェェェェェェッ」
巨大なロボット二機が宙を舞う。
一方は相手に恋慕のようなドロドロとした好意と敵意を向け、もう一方は純然たる嫌悪を相手へと向けている。
クルベックは七輝を許せない。
しかし、許せなくともそこにある輝きに目を奪われずにはいられない。
ゆえに、焦がれる。焦がれつつも嫌悪するのだ。
対する七輝は純粋にクルベックを許せない。
人々の自由な意思を束縛し、仮初の平和を与えるだけであった統治者クルベックを心の底から嫌悪する。
ゆえに、互いが分かり合う事は決してない。
「貴様の言う通りだっ!! 余が統治していたあの世界は生きながらに死んでいた。それは認めよう。だが……人とは決して争いを止めぬ獣だ。柊七輝。貴様は私の統治を拒否し、あの世界を変えた。自由な意思の下とやらで人が生きられるような世界が生み出された。
――しかし、その先はどうなる? 数年も経てば野心を持った何者かが争いを引き起こすだろう。そうして争いが争いを呼び、世界全土が争いで満たされる。その事について何か思う所はあるか?」
貴様の意見は正しい。その輝きも認めよう。しかしゲームでも語られなかった未来をどう思うか、それをクルベックは問う。
しかし――
「んなもん知るかっ!! 先の事なんざ分からねえし、分かりたくもねえ。未来に何が起こるか分からねえからドキドキするんだろうがっ!!
博打だってそうだ。先を予想して、どうなるかワクワクしながらすんのが一番楽しいんだ。争いで世界が満たされる? それがいろんな奴らの意志によって引き起こされた事なら仕方ねえだろうよ。
俺は俺の意志に従って、その時はたぶんトンズラこいて楽に生きるっ!!」
主人公であるのにも関わらず未来など知るかと一蹴する七輝。
しかし、それもそのはず。
なにせ、七輝には自分が正義の主人公である自覚などまるでないのだ。
確かに彼はクルベックに支配された個性無き世界を救った英雄だ。
しかし、同時にギャンブル好きのろくでなしでもある。
付け加えるならば楽して生きたいと豪語するニートですらある。根っから小市民なのだ。
ゆえに、世界の行く末など小市民根性が板に着いた彼にとってはどうでもいい事。自分とその周りさえよければ後はどうでもいいのだ。
しかし、それでも彼は主人公だ。
なぜなら――
「ワクワクも出来ねえ世界に未来なんてねえ。お前の統治してた頃の世界は争いこそなかったが、だーれも笑わず、淡々と日々を生きてただけだ。レジスタンスとして反抗していた俺や仲間達は仲間内で楽しくやってたが、それすらもお前らは取り締まりやがった。そうしてあいつらから笑顔を奪った。そんな笑顔のない世界、いくら平和だとしても俺はごめんだね。まったく面白くねえ。クソ喰らえだ」
七輝は理屈などこねくり回さず、ただ人間が人間らしく生きれる世界を望む。
平和の代わりに人間性を失った世界など、自由を愛する七輝が認めるはずがない。
世界中で血がたくさん流れるだとか、世界が争いに包まれるだとかは彼の知ったことではないのだ。
ただ、自分とその周りの人間が思うように生きられればそれだけでいい。
そんな信念を胸に抱いているからこそ、それと相反する世界を作り上げたクルベックを心の奥底から憎んでいる。
「ククク……。ハハ……。アハハハハハハハハハハハハッ!! 貴様は変わらぬなぁ柊七輝。愚か、余りにも愚かだ。貴様のその行いが遠き未来の世界に破滅に導くのかもしれんのだぞ?
余は人々の未来を想い、平和を愛するからこそ争いの源である個性を奪ったのだ。ああ、貴様の想いも理解できる。個性なき世界などつまらん。それは余も同意しよう。だが、それ以外に恒久平和を為す方法があるのか? 人々の個性が失われる。それは即ち、誰もが競争心を無くし、他者と同じになるという事。かような世界で争いなどおきようはずもない。そんな恒久平和が約束された世界……それを何の代案も無しに破壊することが正しいと……本気で思っているのかこの破壊者がぁぁぁぁ!」
当然ながらそんな身勝手な理屈をクルベックは認めない。
彼が望むのは第一に平和な世界。その代償に何を求められようとも喜んで差し出す。
個性のない世界を創り出したクルベックだが、彼も当然それが理想郷などとは思っていない。ただ『平和であるならばいいか』と妥協した結果が個性のない世界となっただけの事。
ゆえに、それを認めないという意見には耳を貸す。
だが、代案もなく平和を破壊すると言うのなら……許さない。
「余の世界を否定するのであれば代案を出せっ!! 認めぬ認めぬとガキか貴様はっ!! この愚か者めがぁっ!!」
「うっせぇっ!! 俺が馬鹿なのは自分でもよく分かってるっつーんだよ。代案? そんなもん知るか。クルベック、お前に一ついい事を教えてやるっ」
そうして七輝は自身の機体の指先をずびしっクルベックに向け、言い放った――
「最後まであきらめずに死ぬほど頑張れば大抵の事はなんとかなるんだよっ!!」
……。
…………。
……………………。
静寂。
あまりにも想定外すぎる答えに、クルベックがその動きを止める。
それを目にして何を思ったのか、七輝は続ける。
「お前を倒した後の世界は割と平和だったしな。ほら、俺って主人公だし? 大抵の事はきっとなんとかなるんだよ。俺は頭わりぃからどうすりゃいいかは他の奴に丸根げだけどな。だから俺に代案なんて期待されても困る。そんなのは他の頭いい奴に聞け。極論を言うとな。俺は気に入らない事をするお前をぶっ倒したい。ただそれだけだ」
あまりにも身勝手すぎる答え。
平和など知るか。そんなものは他の奴が考えると代案を出すどころか蹴り飛ばす七輝。
そんな七輝に対し、クルベックは肩を震わせ――
「クク。ククククククククク。ハハハハハハハハハハハハハハハハ。ハハ。ハーハハハハハハハハハハハハハハッ」
今まで以上に高らかに哄笑をあげるクルベック。
おかしくてたまらないと言わんばかりに腹を抱えて笑っているであろうクルベック。
クルベックの機体であるアルヴェルもその場で動きを止めたままだ。
「ああ、ああ、いいぞ。貴様はそうでなくてはなぁ柊七輝ぃぃぃっ!! そうだ。世界の平和についてなど、既に関係ない。余は……そんな貴様という存在が何よりも愛しく、同時にそんな考えなしの貴様が心底憎いのだっ!! 余が貴様に牙を剥く理由など、それだけで良いっ!! 貴様と矛を交えるこの瞬間が余にとっての最高の悦楽だっ」
「俺にとってはとんだ罰ゲームだけどなぁっ。もう二度とそのツラ見たくなかったってのに……。今度こそてめぇの存在を抹消してやるぁっ!!」
「ああ、
互いに互いの存在を許せないクルベックと七輝。
次の一撃で勝負を決めるべく、互いに最強の技を繰り出すべく構えた。
『荒廃した戦の中、平和だけを求め我らは戦い続けた』
『平和の為の闘争。平和のための謀略。矛盾するがゆえに望みを遠くなるばかり。
されど、その尊き世界を我らは信じ、願い、果てに聖約を果たす。
我は光。全ての混沌を払いし光なり』
『
其は堕落。其は
あらゆる個性無き世界の果てで我らは泣く』
『望みは叶った。されど達成感はなく、しかし後悔もなし。
ゆえに我らは続けよう。ここから始まりし創成期。
我らこそが、世界を安定に導く者なり。
眼前の巨悪を打ち破り、平和を維持する守護者なりっ!!』
クルベックが唄い、彼が操る機体アルヴェルの右手の先に光が収束した。
それが弓の形を作っていく。
その一方、七輝は――
『自由無き世界で、それでも俺たちはがむしゃらに自由を求め続けた』
『喧嘩一つも起きない街。戦争一つ起きる気配のない世界。互いが相手の事に興味すらねえから言い争いすら起きねえ世界。ああ、なんて平和な世界――なんてクソッタレな世界だ』
『平和が正義か? 戦争が悪か? 争いが悪か?
個性が無いのが正義か? 自由な意思を持つことが悪か?
それなら……いいぜ? ――俺は誰よりも邪悪になってやる。この世界をとことんまで破壊してやる。
俺は邪悪。俺は堕落者。俺は破壊者。ゆえに、この個性無き世界を末端に至るまで破壊し尽くす』
『平和を愛する正義共。目にもの見るがいい。
てめぇらが築き上げたクソッタレな理想郷を破滅させる破壊者ここにあり。
世界の安定を崩し、人々の自由な意思を解放する破壊者ここにあり。
自由を求める破壊者は地中から現れな。この俺と共にクソッタレな平和を破壊し尽くそうぜっ!!』
七輝が唄うは破壊の唄。
平和などクソ喰らえ。それ以上に人の自由なる意志を束縛するなと憤る怒りと破壊の唄。
そんな完全に対照的な二人の詠唱により高められた技が、今まさに打ち出されようとしていた。
即ち――
『アルテミスの
『アレスの
互いに出し惜しみなど一切しない。
それどころか、ある意味互いが互いを信じているがゆえに避けられた後の事など一切考えず、ただ愚直に自身の最強の技を相手目掛けて放つのみ。
そうなれば当然、ぶつかるのは黄金の弓矢と真っ赤に燃ゆる七輝が操る機体であるセルンの紅蓮の拳。
「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ」
「ラァァァァァァァァァァァァァァァァッ」
互いに一歩も引かない。
しかし、それでもいつかは決着がつく。
金色の波動と紅蓮の波動は相手を喰らうべく、互いが互いを喰らい合い――
「柊七輝……柊七輝ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「うっせぇって言ってんだろ……このボケカスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
結果、金色の光が紅蓮の波動に喰われてゆく。
クルベックはそうはさせぬと力をさらに籠めようとするが、そもそも既に全開だ。出せる余力などあるはずもない。
逆に、柊七輝は――
「負けるか……負けっかよぉぉぉっ!! てめぇみたいなカスに俺たちの意志は奪わせねえっ!! この世界を生きる奴の個性だって奪わせてたまるかってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
絶対に負けられぬと。仲間の為、まだ見ぬこの世界の人々の自由な意思を守るため。全力を越えた全力を引き出す。
あり得ざる理不尽。まさに主人公。
ゆえに、勝負は既に着いていた。
「ああ、柊七輝。それでこそ……それでこそ貴様だっ!! クハッハッハハハハハァッ! 良いだろう。再び認めてやろう。余の敗北だぁぁっ!!
――頼む。この余すら成し得なかった誰もが納得する真の理想郷。貴様たちの手で作り上げてくれぇっ!! それこそが死にゆく余の最後の願いだ。ククククククククク。ハハハハハハハハハハハハハハハハ。ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」
そうしてクルベックは。
彼が操る機体アルヴェルと共に。
紅蓮の拳によってこの世から消滅した。
残ったのは勝者である七輝のみ。
彼は自身の機体であるセルンから降り。
「最後まで好き勝手言いやがって……。誰もが納得する真の理想郷なんて俺に作れる訳ねえだろ。このアンポンタンが……」
消滅したクルベックにそう言い捨てる七輝。
彼は数瞬の間だけクルベックが消えたその場所を見つめた後、その場に背を向け――
「ある程度の喧嘩アリなそこそこ平和な世界ってので満足しとけタコ。それを創るくらいなら……まぁ……なんだ。……飽きるまでの間でいいなら頑張ってやるよ。丁度、物好きな奴らが他にも居るみてぇだし。それくらいならなんとかなんだろ。多分――」
そう言い捨て、その場から去るのだった――
――なお、その数分後。
ボルスタインが創り出した異空間をひたすら真っすぐ歩いていた彼は。
「……あんれぇ!? 歩いても歩いても景色がなーんも変わんねえぞ!? ってかここどこだぁ!?」
――と、今更すぎる事で驚き、とぼとぼと己を召喚した召喚者であるペルシーの元まで歩いて戻っていくのであった――
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