第20話『センカの苦労話』


「女王様。私はあなたやラース様が居た世界については何にも知りません。それに、ラスボスさんや主人公さんについても詳しく知ってるわけじゃないです。

 でも……女王様が本当は何を願っているのか。それについてはなんとなく分かる気がします」


「私が本当は何を願っているのか……ですか?」


「はい」


 自信に満ちた眼差しでペルシーをみつめるセンカ。

 そんなセンカと目が合わせられない女王ペルシーはうつむきながら。


「そんなの決まってます。私は……私を助けてくれるナイトにずっと傍に居て欲しいんです。そうすればきっと、私は変われるから――」


「そこですっ!!」


「「え?」」


 ペルシーと俺の声が期せずしてハモる。

 えっと……そこってどこ?


「女王様は自分を変えたいんですよね? センカ、その気持ちはすっごく分かります。役立たずで生きているだけ無駄な肉の塊。せめて誰の迷惑にもならないようにはなりたいけど、何かしようとしたら誰かの邪魔になってしまいそうでビクビクして何も出来ない。いざという時が来ても行動に移せない。以前のセンカもそうでした」


「え? あの……私、そこまで言ってな――」


「でもっ!!」


「!?」


「そんなセンカを、ラース様が救ってくれました。そして私の力が必要だって……そう言ってくれたんです。その日からセンカの全てをラース様に捧げようってセンカは決めたんです」



「そ、そうなんですね……」


 思いっきり引いている女王様。

 ――うん。いきなりそんな事を熱弁されても困るよね。

 俺もどう反応すればいいか分からねえよ……。帰ってもいいかな?


「はい、そうなんです。でもですね……一つ問題があったんです……」


「問題……ですか?」


「はい……。センカを救ってくれたラース様……センカにとってそれは白馬に乗った王子様って感じだったんです。でも――」


「でも?」


「……実際はなんというんでしょうか? さっきも言ったみたいに考えなしのお馬鹿さんというか……直情的というか……思い付きで行動しちゃう困ったさんというか……」


「――ああ」


 おい待て女王ペルシーよ。

 なぜそこで『ああ、なるほど』みたいな納得に満ちた声を出す。

 俺はそこまで馬鹿じゃないぞ……多分。


「だから女王様っ!! そんなラース様の事なんて絶っっっっっ対に参考にしないでくださいっ。ラース様はたまにセンカやルゼルスさんと相談して事を起こしてくれますけど、基本的に今回みたいに突発的にとんでもない事をしちゃう人なんですっ。こんなの、本来命がいくつあっても足りないんですから。

 そんなラース様の真似をするくらいなら、その前に周りの人たちと相談しましょう?」


「えっと……相談……ですか?」


「はいっ。ラース様と似たような感じで女王様も主人公さん達を召喚できるんですよね?」



「え、ええ」


「それじゃあその人たちの知恵も借りて考えましょうよっ! 自分が何をどうしたいのか。どう変わりたいのか。それと、主人公さん達の悩みにも耳を貸すんです。ただ命令するんじゃなくて、一緒に主人公さん達と何かを為しましょうっ。そうすれば女王様も自分に自信がつくんじゃないでしょうか? 自分という物はそうやって何かを為す事で変えていけると思うんです。少なくともセンカはラース様やルゼルスさん達と色々とやる事によって、自分に多少なりとも自信が持てるようになったんですよ?」



 名案だと言わんばかりにそんな提案をするセンカ。

 だが、ペルシーは力なく首を振り。



「えと……センカさん……でしたっけ? 言いたいことは何となく分かりましたけど……そんなの、ただ惨めになるだけですよ……」


「惨め……ですか?」


「はい。だって、それってつまり自分が召喚した主人公と友達になって慰めてもらえって事ですよね? 確かに、ぼっちな私が頼れる相手なんて自分が召喚できる主人公達くらいしか居ません。でも……そんなの色々終わった後に惨めになるだけ。そうに決まってます。主人公だって裏で何を考えているのか分からないですし。色々私が尽くしても、永続召喚した後には裏切られてしまうかもしれない。

 それなら……主人公にはずっと私を守っていて欲しいんです。召喚者である私にはその価値があると思うから……」


 うーん。これに関しては俺からは何も言えない。

 だって、後半はともかく、前半はちょっぴり理解できちゃうもの。


 俺は色んなラスボス達と会って仲良くしたい、戦っているその姿を生で見たいというのもあって、これまでラスボス召喚をしてきた。


 だが、そんな俺でも完全な0の状態からラスボス達を信頼出来るかと言われると……正直首を傾げるしかない。

 ルゼルスに関しても、彼女が俺の事を小さな頃から見守ってくれていたという事があって信頼出来たのだ。


 仮に、もし俺が主人公召喚士だったとして、それで自分を変えたい。信頼できる友達が欲しい、なーんて願っていたとしよう。


 その時、俺はその友達になる相手として本来使役する対象である主人公を選ぶだろうか?


 ――否だ。


 裏切られるかもしれないという懸念もあるが、なにより憧れの相手に弱みなんて見せたくない。そう思ってしまうだろう。


 これは……ペルシーの説得には骨が折れそうだなぁ。

 少なくとも俺には無理だ。

 そんな女王ペルシーをどう説得するのか、センカを見守り――


「……話せる相手が奴隷商人さんしか居なかったセンカよりマシじゃないですか?」


「……ごめんなさい。一度、主人公達と話し合ってみる事にします」


 女王の説得に成功したっ!!


 いやセンカさんパネェです。……圧が凄いよ圧が。

 あんな虚無の目と混沌とした体験談出されたら気恥ずかしいとか弱みがどうこうとか言えないね。


「それは良かったです♪ いいですか? 対等な視点で主人公さん達と接さないとダメなんですからね? そうしないと本当のお友達にはなれませんから。事実、センカはチェシャちゃんっていう子と友達なんですけど、一時はチェシャちゃん自身になりかけてようやく友達になれたくらいなんですから」


「は、はい。分かり……ました?」


 アカン。女王様がもう何を言われているのか全然理解できていない。

 いや、気持ちは痛いくらい分かるけれども。そんな特殊過ぎる友達の作り方があってたまるかってお話だけれども。


 そんな明らかに理解できていない生返事にセンカが怒る。


「本当に分かったんですか!?」


「は、はいぃぃぃぃぃ。な、なんだかよく分からないけど分かりましたぁっ」


「やっぱり分かってないじゃないですかっ!! まったくもう……こうなったら仕方ありません。センカが実体験で学んだ自分に対する自信の付け方。そしてお友達の作り方っていうのを一から十から百まで女王様に教えてあげますっ」


「え……いや、あの――」


「覚悟してくださいね♪(満面の笑顔)」


「は、はいぃぃ」


 センカ……強い(確信)。

 もはや女王ペルシーのお母さんかなっていうくらいには強い。

 あの女王、この調子でいけば数時間後くらいにはセンカのいう事なら何でも聞くようになってるんじゃないか?

 なんにしろ、予定外過ぎる結末だが、終わりよければ全て良しだ。後はセンカに任せるとしよう。


「それでは行きますよぉっ! ……以前のセンカと思考パターンがほぼ一緒なのでやりやすいですね……。このまま女王様にはついでに常識なんかも叩きこんじゃいましょう。ラース様が暴走した時の抑止力になってくれたら万々歳ですし(ボソッ)」



 おや、おかしいな?

 予想外に上手くいっているはずなのに今なんか嫌な予感がしたぞ?

 気のせい……だよな?

 

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