第19話『女王様は必死』
「嘘……。あれだけ私が励ましてあげてもやる気の欠片も出さなかった信吾とセバーヌがあんなに……」
「あ、あぁ……こりゃアレだな。さっきの兄弟の
落ち込んで生きる気力を無くした主人公などもうどこにも居ない。
少し前までそうであった彼らだが、今はその瞳に光を宿らせ、眼前のラスボスと同等……あるいはそれ以上の力を振るいながら自身の想いを眼前の敵へとぶつけていた。
そんな主人公達の変わりように俺も、ペルシーも、ヴァレルも……全員驚きを隠せない。
「俺の啖呵で火が点いたって……。いや、いい。今はあっちは置いておこう。信吾はともかく、セバーヌはマジでどうしようもないし。まぁ、二人とも常識人だし? 俺の啖呵で火が点いたっていうんなら俺の邪魔はしないだろ………………多分」
どうにもならない事は楽観視しながら放置する。
それこそが俺がここ数年で学んだ処世術だ。
「さて、ペルシー。ちょっと予定外の事もあったが、アレを見たらさすがのお前でも分かったんじゃないか?」
「何を――」
「何をだって? そんなの決まってるだろ。主人公は縛って輝く物じゃないって事をだよ。あいつらの啖呵をお前も聞いただろ? あいつらはもうお前やこの世界に縛られていない。多分だけど、お前が永続召喚するしないに関わらずあいつらはもうお前の言う事を聞かないと思うぞ?」
既にセバーヌと信吾は元居た世界が幻想ではないと結論付けている。
そんな二人が俺の召喚したラスボスに勝利した後どうするか?
そんなの決まってる。二人とも、元居た世界に帰ろうとするだろう。
帰るべき場所がある二人は必ず、ペルシーの前から姿を消す。
「そんな――」
声を震わせるペルシー。
そんな彼女に、俺は当たり前の事を言ってやる。
「そもそも、主人公ってのはヒロインを守るから主人公って訳じゃない。っていうかぶっちゃけた話、
――と言っても、彼らにはそれぞれ既に先約となるヒロインが居るからペルシーの入り込む余地はほぼ無いと思うけどな。
「一人の人間として……」
「そうだよ。お前、あいつらの物語を知ってるんだろ? そのあいつらの物語に出てくるヒロインを思い出してみろよ。お転婆だったり我がままだったり性格は様々だが、まっすぐ主人公にぶつかってただろ? ただ助けられるだけのヒロインなんてどこぞの桃色の姫くらいしか居ねえっての」
まぁ、桃色の姫もシリーズによっては助けられるだけでなく色々活躍してるけども。
「あなたは――」
「ん?」
「あなたは……ラスボス達に対して一人の人間として接しているからそうやって居られるんですか? あなたとラスボス達……私の目からは信頼し合っているように見えました。支え合って……まるで主人公とその仲間みたいに……。どうして? どうしたらそんな風になれるんですか?」
えぇ……。
いきなりそんな風に聞かれましても……。別に狙ってこうなった訳じゃないしなぁ……。
「どうしたらって……それは……アレだよ」
「あれ?」
「うん、アレだよアレ。――ってそうだっ! 教えて欲しいならさっさと優馬の召喚を解けっ。そうすりゃいくらでも教えてやるよっ!!」
必殺、誤魔化し。
いや、これは誤魔化し返しというべきだな。
元々論点は優馬の召喚をキャンセルさせるという物だったはずなのに、俺はペルシーの話術に嵌まって全然関係のない事に時間を費やされてしまった。
だが、その事に気づいた俺にもう誤魔化しは効かない。
これ以上時間を引き延ばそうとしても無駄だ。俺は絶対に優馬の召喚キャンセルという話題から離れるつもりは――
「ランダム召喚解除――対象――佐々木(ササキ)優馬(ユウマ)。
――はい、解除しました。他の主人公の召喚は解除しなくてもいいんですよね?」
「え、あ、うん」
今セバーヌや信吾の召喚までキャンセルされてしまうと、手の空いた斬人やサーカシーが俺めがけて襲い掛かってくるかもしれない。
なので、それらの召喚はむしろ解除されると困る。
「それで? どうやってあなたはラスボス達とあんな信頼関係を築けたんですか? それだけじゃありません。主人公であるヴァレルともこんなに仲良くなって……私もあなたみたいに色んな人と仲良くなりたい。でも……どうすればいいか分からないんです。前世でも今世でも私はぼっちでしたし……。ねぇ、どうすればみんなとそんな関係になれるんですか? ねぇ、ねぇ、ねぇ???」
「ちょっつ、近い怖い近い。落ち着けっ。いや、落ち着いてくださいお願いしますっ!!」
少し前まで女王として
しかし、アレは自分を強く見せる為の演技だったらしい。
実際のペルシー。これは……ぼっちを極限にまで拗らせた闇の深い女の子ですわ。
焦点の合っていない目で他人と仲良くなる方法をしつこく聞いてくるペルシー。
ある意味、どんなラスボスや主人公よりも怖かった。
とその時――
「ラース様にそんな事を聞いても無駄だと思いますよ? 深く何かを考えて事を成してるわけじゃなくて、ただやりたいことだけを考えなしにやっちゃうアンポンタンさんですから」
「くくっ。なんとも罪深い男だねぇラース君。そういう所、僕は嫌いじゃないよ? なにせ、そういう所は僕の親友に似ているしねぇ。とはいえ、レディに心配かけてしまうのは感心しないな」
「――ジェストさん。先ほどから何度も言っていますがそんなに気安くお姉さまに話しかけないでください。お姉さまはあなたみたいな
今までどこに居たのか。センカとチェシャがひと段落終えたこちらと合流する。
そんな彼女らの傍に居るのは主人公の一人――ジェスト。
かつて『ウルウェイ・オルゼレヴ』を倒した主人公である。
「女王さん……まず最初に謝っておきます。センカたち、隠れてあなた達の話をずっと聞いてました」
え? 隠れてたの?
そもそも、どういった経緯でジェストなんかと一緒になったの?
どうしよう。うまく言えないが……なんかもやっとする。
そんな俺にそっと耳打ちしてくるジェスト。
(心配するなよラース君。僕とレディ達の間に特別な何かが起こる訳がないだろう? 僕のスキルと彼女の影の能力を使ってうまく隠れさせてもらっていただけだよ。そうしてみんなの戦いをゆっくり見物してたってだけさ)
……いや、別にそんな邪推はしてないし?
ただ、少しだけ厄介な性格をしているこの主人公とセンカが一緒に居たって聞いてちょっと心配になっただけですし?
特別『何かがあったんじゃないか?』なんて考えてすらいないんだからなっ!!
「それは別に気にしてませんけど……あなたは?」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。センカの名前はセンカっていいます。ラース様に救ってもらった魔人種と人間のハーフです。ラース様や女王様と違って、ラスボスさん達や主人公さん達と何か繋がりがある訳でもない無関係の一般人ってとこですかね?
あ、でもでも。それは女王様やラース様みたいな能力とかの繋がりがないって話ですよ? センカ、ラスボスのルゼルスさんやリリィ師匠にも一杯一杯お世話になってたりしますし」
「ラスボスのルゼルスやリリィと親しく?」
「はいっ! ルゼルスさんやリリィ師匠には戦い方を教えて貰ったり、色々と良くしてもらってるんですっ」
「そ、そうなんですか……」
元気はつらつといった感じで女王ペルシーに馴れ馴れしく接するセンカ。勢いに押されたのか、ペルシーはセンカから思いっきり目を逸らしながら
ペルシーよ……さては貴様、人見知り激しい子だな?
そんな女王ペルシーに対し、センカはズイズイっと。
「それでですね女王様。いろんな人と仲良くしたい気持ち……センカも理解できます。センカも独りぼっちでしたから。でもですねっ!! ラース様だけは参考にしちゃいけませんよっ!! ラース様はただの考えなしの馬鹿なんですからっ!!」
「おい」
いきなりこっちにまで弾が飛んできたんだが?
というか、誰が考えなしの馬鹿だ。俺だって俺なりに色々と考えて――
「うふふふふふふふふふ。あらあら、危ない召喚をこれでもかっていうくらいしてくれたラース様、何か文句でもあるんですかぁ? 以前、『危ない召喚はもうしないでください』ってセンカがお願いした時、ラース様『努力する』って言ってくれてましたよねぇ? その時の会話、センカはぜーんぶ覚えてるんですけどここで復唱しましょうか?」
――アカン。
満開の笑顔を俺に向けてくれるセンカ。しかし、目が全く笑っていない。
これは……完全にキレてますね。
そんなこれまでにないくらい怒っていらっしゃるセンカに俺は。
「――――――いえ、なんでもないです。僕はただの考えなしの馬鹿です……」
即座に白旗を上げることにした。
そりゃ……ねぇ。
今回俺は何の相談もせず、敵対するべきじゃないと心がけていた主人公召喚士のペルシーと思いっきり敵対してしまったからなぁ。
挙句、ラスボスを危ないのも含めてぜーんぶ大放出しちゃったのだ。
それは例えるならば自ら危険地帯に向かって助走をつけながらフルダイブするかのような蛮行。自身を顧みないにも程がある。自分で言う事ではないが、頭がおかしいとしか思えない。
特にセンカからしたら、『あの時の約束はなんだったの!?』という話だろう。
「うふふふふふふふ。ラース様、後で落ち着いたらルゼルスさんも交えてゆーーーーーーーーーーっくりお話しましょうね?」
「………………はい」
どう考えても俺が悪いので、何も言えない。
考えなしの馬鹿な俺は、隅っこでセンカさんの活躍を見守る事にしよう……。
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