第11話『VS佐々木優馬』
――ルゼルス視点
「さて……それじゃあ少しの間だけ付き合ってもらうわよ、優馬?」
ボルスタインによって作られた異空間に飛ばされた私、リリィ、そして当のボルスタインは現在、過去に私を打ち滅ぼした主人公である優馬と対峙していた。
私たちは何としてでもここで優馬を足止めしなければならない。
ボルスタインの持つ『アカシックレコードの写本』の能力によって作られたこの異空間。通常ならば簡単に出る事は難しいだろう。かくいう私でも、こんな術利もへったくれもない異空間から抜け出すのは少し骨が折れそうだ。
現実を意のままに歪める事が出来るというボルスタインの『アカシックレコードの写本』。
しかし、その改変も度が過ぎれば写本自体が自壊してしまうとも聞く。
こうして異空間をポンポン作る事なんて事、できる訳がない……とは思うのだけれど、実際作られている訳だしその点は放っておきましょう。
そんな私でも脱出に骨が折れそうな異空間。
しかし、あの『優馬』ならここから抜け出すくらい造作もない事だろう。
ゆえに、それを阻止する為に私たちが居る。
無論、ここで優馬を倒してしまってもいい。
そうしてこの異空間を作った本人であるボルスタインの手でこの異空間から脱出し、私たちがラースに加勢する事でも決着はつくだろう。
けれど――現実的ではないわね。
数の上では三対一。
だけれど、相手はあの『優馬』だ。
その厄介さは……この私がよく知っている。
「――――――
早速、その能力で何かを作り出そうとする優馬。
「させないわ」
「させません」
私は優馬めがけて速度重視の魔弾を放ち、それに合わせる形でリリィが自身の影を飛ばす。
「ちっ」
それを見た優馬は舌打ちをして、自身の能力で創造した武器を構える。
それは――銃だった。
無論、ただの銃ではない。
あれこそ優馬が愛用していた創造されし銃――ハデス。
速射性に優れ、程度の低い魔術と同程度の威力を発揮できる優馬専用の武器だ。
ハデスが銃声と言う名の咆哮を上げる。
弾数の上限などない。なにしろ、その弾は優馬の能力による創造の弾だ。
弾倉が空になった瞬間、その弾倉には新たに創造された弾が出現し、また吐き出されていく。ゆえにマシンガンのごとく連射が可能。
私の放った魔弾とリリィの影、それと優馬の放った弾が激突する。
結果――
「相打ち……まったく、ラースの知識で知ってはいましたけれど本当にとんでもない化け物ですね、彼は」
私と優馬が放った弾は衝突と共にその姿を消失させた。
それに巻き込まれるような形でリリィの影も消し飛んでしまう。
「くすくす。本当にそのとおりね。でも、これでいいわ。時間さえ稼げれば十分よ」
優馬を相手にするとき、絶対に避けなければならない事。
それは、彼に時間を与える事だ。
彼の能力である『創造』は時間をかければかけるほどに厄介な物が出来上がる。
だからこそ、さっきの簡単な衝突の際、優馬は手になじんだハデスを創造するしか選択肢がなかったのだろう。
つまり……このまま私たちが間断なく攻撃を繰り返す事で時間稼ぎは成立する。
「ところで……あなたは戦闘に参加しないのかしら? ボルスタイン」
そんな中、戦闘に参加せず一人空中に浮かんで自身の『アカシックレコードの写本』をゆったり読むボルスタイン。
彼は本から目を離さないまま、不気味に笑顔を浮かべて私の問いに応える。
「残念ながらこの異空間を維持するので精一杯でね。私個人も多少は魔術を扱えるが……悲しいかな。君らの物と比べ稚拙と言う他ない。足手まといにしかならないだろう」
「そう――」
それが嘘か本当か……かなり怪しい所だけれど、
そう考えた私はそこで話を打ち切る。
そうして新たな魔弾を精製する中――
「しかし、助力となれるかは分からないが……くくく、まぁ好きなようにやらせてもらおう」
まさにボルスタインが何かをやらかそうとしていた。
「え? ボルスタイン。あなた一体なにを――」
私は動こうとするボルスタインを止めようとするが、遅かった。
安心した矢先の事だったから、ボルスタインへの対応が一手遅れてしまってのだ。
そうして彼は――
「お初にお目にかかる優馬殿。ご存知かもしれないが、自己紹介させて頂こう。私の名はシュランゲ・ボルスタイン。ラスボスにその名を連ねる者ではあるが……そうだな。私はただの一介の作家のつもりだ。さて、私の舞台は楽しめられているかな?」
「………………」
何をしでかすか……私は不安に思ったが、ボルスタインは優馬に語り掛けるだけだった。
ふと、ボルスタインの視線がこちらに向く。
その瞳は暗に『大したことはしないのだから邪魔はしないでもらいたい』と言っていた。
優馬はそんなボルスタインを完全に無視しており、特に何かが起こる訳でもなし。
なら――
「……ここでボルスタインを敵に回すのも面倒ね。リリィ、続けるわよ」
「仕方ありませんね。しかし、不穏な未来が見えたら私は
「ああ、そういえばあなたは未来が見れるんだったわね。くすくす。頼りにしてるわよ?」
なんて頼もしい味方なのかしら。
今まで味方なんて、手のかかるラースとセンカしか居なかったから少し新鮮ね。
「兄さんと一緒に逃げられる未来が見えれば、迷わずあなたを置いて逃げますけどね」
とはいえ、完全に味方という訳でもないみたい。
当たり前ね。リリィにとっては兄こそが全て。共感こそ出来ないが、理解はできる。
親姉妹を早々に殺された私には分からない感覚ね――
「くすくす、ぶれないわねリリィ。えぇ、そうしてもらって構わないわ」
そうして私たちは時間稼ぎに徹するべく、そして優馬にとんでもない創造させる隙を与えないように間断なく攻撃を加えていく。
「
そんな優馬が、私も見た事のないような盾を創造した。
一見、ただ光っているだけの盾だ。
そこには微弱な魔力が通っているだけで、あまり驚異的には見えない。
少なくとも、私にとっては――
「――面倒な。私にとってあの盾は正直少し厄介ですね」
「何が? ただ光ってるだけ……ああ、そういう事ね」
苦々しい表情で盾を見るリリィを見てやっと得心がいった。
なんて事はない。あの盾はリリィの影対策のようね。
影に身を潜められるリリィは、その気になれば大抵の敵からは逃げられるでしょうし、どこにでもある影を使えば先手を取ることも容易でしょう。
けれど、攻め続けるとなれば話は別。
敵が自身の近くの影を払えばそれだけでリリィの攻撃手段は激減する。
だからこそ、優馬はあの光る盾を創造した。他でもない、リリィ対策として。
「……大抵の状況に対応できる創造。こうもあっさり対応されてしまうと改めて厄介な物だと思わされるわね」
「ええ、本当にそう思います。仕方ないので、私は防御と未来視に力を傾けましょう。なので、攻撃の手だけはお任せします」
「了解したわ。まったく……今の優馬は覇気に欠けていてあまり楽しくないし、とんだ貧乏くじね」
そう愚痴りながらも攻撃の手は緩めない。
優馬も私の攻撃にきっちり対応してくるが、逆に言えばそれだけだ。
この異空間を脱出できる物を創造する事も、私たちにダメージを与える新しい何かを創造する事もない。
早くもこちらが望んだ『膠着状態』という物になっている。
このままただ時間が流れるのならば願ったりかなったりというもの。
そう私が思い通りの展開に薄く微笑む中、ボルスタインは無視を貫く優馬に語りかけ続けていた――
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