第10話『ラスボス召喚士VS主人公ヴァレル』
「ペルシィィィィィィィィィィィィッ!!!」
主人公を道具のようにしか思っていない女王ペルシー。
こいつをどうにかしなければリリィさんとコウの感動の再会はあり得ない。
それに、半ば自業自得とはいえこいつを一刻も早くどうにかしなければ今も別の空間にて戦っているであろうルゼルスとリリィさんが危ない。なにせ、二人が相手にしているのはあの『優馬』なのだ。
――最速で勝負を決めにかかる。
……え? ボルスタインはどうなってもいいのかって?
もちろんどうでもいい。
俺も人の事は言えないが、あいつだって望んでこの状況を作った訳だし、自業自得というやつだろう。
「気安くわたくしの名前を呼ばないで頂けます? まったく……やはりラスボス召喚士など当てにするべきではなかったですわね。――――――ヴァレル」
「へいへい。了解しましたよ嬢ちゃん。――気乗りしねぇなぁ」
ペルシーを守るように立ちはだかる一人の主人公――ヴァレル。
「しかし……ふふっ。馬鹿な男ですわね。召喚士のくせに自分から飛び込んでくるとは。ラスボスを召喚するしか能のない無能がわたくしのヴァレルに敵うとでも思って?」
勝ち誇ったかのように笑うペルシー。
確かに、優馬ほどではないがヴァレルもかなり厄介だ。
しかし――
「やるしか……ないっ!!」
俺は新たに手に入れたラスボスの力を半ば手探りではあるが、発現させる。
今、為すべきは速攻。つまりは発現させるべきは全ラスボス中最強の能力。
即ち――
「――大罪の拷問器具、怠惰の章――」
ラスボスの中で最も強い力を持つサーカシー。
その彼が持つ拷問道具の中で特に優れた拷問道具。それが大罪の名を冠した七つの拷問道具だ。
暴食は全てを呑み込み、取り込んだ者を永遠に苦しめ続ける拷問道具。
そして、怠惰の拷問道具は――
『あぁぁぁぁぁぁ。めんどくせぇぇぇぇぇ。希望が足りねえ……。夢が足りねえぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』
現れたのは漆黒の鎖。
その鎖はひとりでにじゃらじゃらと動き、獲物はどこだとうずいていた。
「あれは!?」
「はっははぁっ!! 面白れぇ。どういう理屈かは分かんねえが他のラスボスの力を引き出せるってかぁ? こいつぁかなり厄介だなぁおいっ!」
同じゲームをプレイしているであろうペルシーは怠惰の拷問道具を見て顔を引きつらせる。
逆に、彼女の記憶を持っているであろうヴァレルは好戦的な主人公らしく『上等だ』と言い捨て拳を構えた。
「怠惰。獲物はあの男だ。たっぷり希望やらやる気やらを持ってる。だから――限界まで吸え」
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
耳障りな雄たけびを上げながら虚空へと消える怠惰の鎖。
そして――
「ぐっ――。やっぱこれは避けられねえか」
次の瞬間にはヴァレルの体に怠惰の鎖が
「吸え」
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。やる気でねえぇぇぇぇ。希望もぉぉぉ、夢もぉぉぉぉ。ぜぇんぶ寄越せぇぇ。お前もおでと一緒に木偶になれぇぇぇぇぇぇぇぇ』
怪しく輝く漆黒の怠惰の鎖。
その能力は大きく分けて二つ。
一つは、より強い生命力を持つ者を問答無用で捕らえる捕縛の能力。
もう一つが、捕らえた者の生命力を限界ギリギリまで吸う能力だ。
ここで言う生命力とは、何もHPに限った話ではない。
人間ならば誰もが持っているであろう希望、やる気、将来の夢。
そのような生の概念となる物をこの鎖は根こそぎ奪うのだ。
怠惰の鎖が捕らえた者の生命力を限界まで吸うのに数秒もかからない。
さらに、この鎖には捕らわれた者の体感時間を一秒=一億年と感じるくらいまで引き延ばすという悪趣味な能力まで付いている。
自分の夢や希望。将来の夢などをゆっくりと溶かされていく感覚。
捕らわれた者はやがて自分が誰かも分からなくなり、どれだけ高潔な精神を持っていようとすぐに発狂する。
ゆえに、怠惰の拷問道具。
「これで……終わりだ」
怠惰の拷問道具がヴァレルを捕らえ、一秒が経過。
俺が怠惰の拷問道具を使いこなせているのならば、既にヴァレルは一億年程度の時間を過ごしている感覚に襲われているはず。
ならば当然、平静を保っていられない。
「ヴァレルッ! この……役立たずっ。あんなラスボスもどきの攻撃をこうもあっさり喰らうなんて情けないっ」
捕らえられて動きを止めているヴァレルをこれでもかというくらい罵る召喚士ペルシー。
本当にこの女は……主人公をなんだと思っているのか。
――今すぐ分からせてやる必要があるだろう。
「覚悟はいいか……このクソ女ァ!! 今すぐその肢体を拷問に晒し、主人公達がお前に味合わされた苦痛を何倍にも返して味合わせてやるっ。そうすれば奴らの気持ちの数分の一くらいは分かるだろうよぉっ!!」
脅しの意味も込めて拷問すると凄んでみる。
ホントにそんな非道な事をやろうだなんて思ってないよ? そんな事は気持ち半分程度にしか考えてないよ?
「ひっ――」
色々粋がってはいても所詮は普通の女というやつなのか。少し凄んだだけでペルシーのさっきまでの余裕そうな表情は完全に剥がれ、恐怖した目で俺を見つめていた。
よしよし、いいぞ。
この調子でまずは優馬の召喚をキャンセルさせて、その次にコウを永続召喚(自由に)してもらおう。
他の主人公達もついでだ。このアホ女に一生こき使われるなんてあまりにも可哀想だし、ぜんぶ永続召喚させるか。
――そんな事を考えていた時だった。
「――おい」
声が聞こえた。
それは、つい先ほどまで自分が相対していた男の声。
「まさか……ぐぅっ――」
振り返りざまにその男は拳を叩きこんできた。
ギリギリでガードできたものの、その男の拳はとても重く――鋭い。
「まさかさっきのでこの俺様が終わると……本気で思ってたんじゃねぇだろうなぁ!? 小僧ぉぉぉぉっ!」
「ヴァレルッ!? ――んな馬鹿な」
あり得ない。
サーカシーの最たる力である大罪シリーズの拷問機器。
それをまともに受けて平然としているなど……サーカシーを打ち倒した完全無欠状態のセバーヌでもない限りあり得ないはず。
なのになぜ……ヴァレルはこうも平然としているんだ!?
「まさか、まともに喰らった振りでもしていたのか!?」
そうでもなければ説明がつかない。
そもそも、ヴァレルに怠惰の拷問道具を使ったのは彼にとってそれが致命傷になると判断したからだ。
こいつにとっての原動力はまさに希望ややる気といったものだ。
ヴァレルは見知らぬ誰かの為、戦友の為に心を奮い立たせて戦う真っ当な主人公。
加えて、怠惰の拷問道具を即座に退けるような特殊能力など持っていないはず。
そんなこいつが怠惰の拷問道具に捕らえられて、無事に抜け出せるはずがない。
「おい、怠惰の拷問道具? これは一体――」
『………………』
今もなおヴァレルの体に絡まっている怠惰の拷問道具に語り掛ける。
こうして怠惰の拷問道具に触れられている間もヴァレルは生命力をぐんぐん吸われているはず。
なのに、どうして動けている?
それを怠惰の拷問道具にきいてみるが……
――ピキッ
ヴァレルの体に絡まっていた鎖が……割れる。
ピキピキと音を立てて砕けていき……やがて鎖そのものが消滅した。
「――んなアホな……」
大罪の名を冠した拷問道具が……壊れた?
俺が召喚したラスボスの中で最強であるサーカシー。あいつの必殺武器とも言うべき拷問道具が壊れるって……そんなのありか?
「おいラース君よぉ。俺の部隊のゲーム内での通り名……まさか知らねえわけじゃねぇよなぁ?」
自身を捕らえていた鎖をどういう手段を取ったかは不明だが、消し飛ばしたヴァレル。
そのヴァレルが、ゲーム内でしていたような、けれど少し違った名乗りを上げる。
「俺は元帝国軍第十三特務部隊団長のイリュージョン・リッター。ヴァレル・ザ・ドライヴ」
不敵な笑みを浮かべる特務部隊『イリュージョン・リッター』の元団長様。
イリュージョン・リッター……その意味は――
「イリュージョン・リッターは倒れねえ、負けねえ、
ドンッと自身の胸を強く叩くヴァレル。
決して倒れない騎士団……それこそがイリュージョン・リッター。
それを一人で体現しているのがこの男――『ヴァレル・ザ・ドライヴ』だ。
「俺が生きている限り、この想いが尽きることはないっ!! 容易く俺の胸の中の
「はぁ――ったく。
要はそういう事らしい。
怠惰の拷問道具が壊れた理由。
おそらくだが……単純にヴァレルの生命力があまりにも膨大過ぎて吸収しきれずに弾けたのだろう。
希望ややる気をどの主人公よりも溢れさせているこいつの生命力を尽きさせれば容易に決着はつくと思っていたのだが……俺はこの主人公様をまだ甘く見てしまっていたらしい。
速攻でケリをつけるつもりではあったが、それは無理なようだ。
勝負はまだ始まったばかりだった――
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