第12話『VS佐々木優馬-2』
――ルゼルス視点
ボルスタインは続けて無視を貫く優馬に語りかける。
「クックック。無視とは悲しいな。しかし、それならばそれで良い。勝手に喋らせてもらうとしよう。
さて、唐突だが私は君に対し、興味・関心といった感情を抱いている。君が行動した過去の履歴はこの『アカシックレコードの写本』に記されている。そして、本来であれば今の君が何を考えているのか。そういった心情も読み取れるはずなのだが……面白いな。君の心情については何も記載されておらず、よって読み取れない。これは私にとって初めての経験だ。気にならない訳がないだろう?
察するに、君は他者に自身の心を読み取らせる事を阻むような……そういった物を過去に創造しているのではないかね?」
「………………」
「反応なし。やはり答えては貰えないようだ。しかし、構わないとも。重ねて問いを投げさせてもらおう。
君……いや、主人公の
日本という国に生まれた平凡な君は突然ルゼルスが住まう世界である『エミコール』へと多くのクラスメイト達と共に召喚され、最愛の家族と強制的に引き離された。そうして君に突き付けられた使命が魔女の討伐――そう、ラスボスであるルゼルス・オルフィカーナの排除だ。君らを召喚した教会から『それを為さねば元の世界に戻れない』と聞かされ、君らは憤ったのだね。しかし、召喚されたばかりの君らは非力で、戦う術も知らない。とても教会の戦士たちに適うはずがなかった」
「幸いというべきなのは、仲の良い幼馴染のクラスメイト、名前はそう……
「しかし、君は生き汚かった。雑な表現ではあるが、しぶとい……と言うべきか。ともかく、そんな君の故郷に帰りたいと願う気持ちは誰よりも強かった。創造の力がまだ真価を発揮していない初期の君はとにかく死に物狂いで魔女の領域に住まう魔獣と死闘を繰り広げ、致命傷を何度負っても諦めず生にしがみついた。そうしていく中で君は現地の仲間を得て、信頼を深め、教会への不信を募らせる。そうして最後には図らずも魔女と共闘して教会その物を破壊し、その後世界そのものを破壊しようとしていた魔女の目論見も打ち砕いた……と。何か間違っている点はあるかね?」
「……ふんっ――」
返事こそしないものの、優馬は忌々し気に顔を歪ませ、不満を
そう――それこそが優馬の生きた世界。
教会に汚され、魔女である私によっても汚された世界。その世界を生きた、ただの人間である優馬の物語だ。
そんな優馬に何かを感じたのか、ボルスタインはパチパチと手を打ち鳴らす。
「いや、素晴らしい。何の力もなかった少年が悲しみの果てに巨悪を倒し、世界を救う。――――――ああ、いけないな。言葉で語ると途端に
なぜ君はあの女王……主人公召喚士に従っているのかね?」
「………………」
「いやいや、実際そこが本当に分からないのだよ。君の今の思考は読めないが、ゲーム時代に君が何をよりどころにして行動していたかは分かっているつもりだ。君は主人公ゆえに、その心情が我々ラスボスよりも分かりやすい。
――ああ、これは君の思考が単純で読みやすいなどと愚弄しているわけではないよ? 単に、物語の世界に居た我々。つまりはラスボスと主人公では主人公の心情の方が読みやすいという至極当たり前の話という事だ」
「ちっ――」
気に入らないと言わんばかりに、大きく舌打ちする優馬。
その間も、私の攻撃を
(しかし言われてみればなるほど……ボルスタインの言うとおりね)
私がラスボスとして暗躍していたゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』に関わらず、そもそも物語という物は大抵主人公の視点となって語られる。
最終的に打ち倒される私たちラスボスの心情などより、主人公の心情の方が読みやすいのは至極当たり前の事。
ゆえに当然、ラースの持つ記憶を保持している私たちは主人公である優馬の過去の心情を理解できている。
だからこそ――解せない。
(どうして優馬は文句ひとつ言わずあの主人公召喚士の女王に仕えているのかしら? 彼の性格上、何が何でも自分の生まれた世界に帰ろうとするはず。斬人を倒した主人公である
――――――いえ、彼はそんな事で諦めない。不可能だろうがなんだろうが自分の故郷へと帰る事を諦めない。それが優馬という主人公のはず。なら……一体なぜ?)
「故郷に帰る。それが君の唯一の渇望。君の決断は相手が例え神であろうとも揺るぎはしないのだろう。だからこそ聞かせてくれないかね? なぜあの主人公召喚士に従っているのか。
――よもや……君のかつての仲間達の事などもどうでもよくなったのかね? 皆、こうして君を待っているかもしれないというのに」
倒し気にボルスタインが腕を振るうと、優馬の周囲にいくつもの人影が現れた。
「クックックックックックック。優馬、察しているだろうがこれらは勿論ただの幻だ。しかし、実際の彼ら彼女らも君の帰りを待っているのかも知れぬのだよ?」
「――悪趣味ね」
「ええ、本当にそう思います」
優馬を取り囲むようにして包囲する人々。
それは、かつてゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』にて優馬が親しくしていた人たちだった。
そこには、彼の両親などの姿もある。
彼の望んでいた全てが虚構とはいえ、そこにあった。
虚構はあたかも意志を持っているかのように『帰って来て欲しい』だの『愛している』だのと甘い言葉を優馬へとかけている。
それらすべてがボルスタインが創り出した虚構。
なんとも恐ろしいまでに悪趣味な幻影ね。
「さて、主人公優馬よ。君はこの声に応えることなく、あのどうしようもない主人公召喚士の女王に従うつもりなのかね? ああ……それはなんとも悲しい物語の結末だろう。ごらん? 彼ら彼女らもそんな君にお怒りの様子だ」
ひゅっとボルスタインが腕を上げるとともに、先ほどまで優馬に甘い言葉をかけていた者達の表情が一変する。
やれ『裏切ったな』だの『私よりあんな女を取るんですか? 私との事は遊びだったんですね!?』だの本来絶対に言いそうにないセリフを優馬へと投げかける。
――そして更に、そんな人々の中から一人の男が姿を現そうとしていた。
それは優馬……の形をしたボルスタインの幻影。
幻影の優馬が、女王の言いなりとなっている優馬を憎悪と嫌悪に満ちた瞳で睨む。
「おっと。どうやら過去の君もご登場のようだ。ククククククククク。どうやら相当お怒りのようだぞ? さて、君はどうす――」
ボルスタインが優馬に選択を迫ろうとする。
――その時だった。
「ラスボス『シュランゲ・ボルスタイン』………………お前、いい加減耳障りだよ」
優馬がまともにボルスタインへと言葉を返した。
そして――
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