第3話『人間種と魔人種の溝』
「魔人種は人間よりも遥かに永い時を生きます。とはいえ、生殖能力は低いので人間ほど数はいませんがね。しかし、だからこそ私たちは遥か昔の事も覚えている。人間の間で歴史の奥底に埋もれた出来事。神話と呼ばれる遥か昔の出来事ですら記録から抹消されずに残っているのです」
コツコツと屋敷の更に地下に続く螺旋階段を下りる宰相キョウイ(以降は宰相さんと呼称)とそれに連れられる俺達。
そんな中、宰相さんは昔話を語る。
「かつてこの世界には三柱の神が居たと伝えられています。人間種の神、魔人種の神、それに亜人種の神の三柱です。彼らはそれぞれ人間、魔人、亜人を生んだのだとか」
昔話どころの話じゃなかった。もろに神話ですねこれ。
ちょっと驚く俺に気付いてるのかは分からないが、宰相さんはよどみなく続きを話し続ける。
「彼らはそれぞれの種族を生んだ後、どこかへと消え去りました。しかし、神が消えたからと言ってこの世界が亡ぶわけでもなかった。その三種族は協力し、仲良く暮らしていたそうです」
今とはぜんっぜん違うなぁおい。
いや、神話じみた物に関して文句言うのも的外れって話かもしれないが。
「しかし、そんな彼らに牙を剥く者が現れました。その者の名は……キメラ。
「マジすか」
すげーな魔物。つまり魔物って人間、魔人、亜人の親戚みたいな物なのか。
とはいえ、魔物は会話が出来ない奴が殆どだし、アレを人間みたいな物と割り切るのは無理だが。
「神に連なる者というだけあってキメラの力は強大でした。
僅かに生き残っていた人間、魔人、亜人は息を潜めて地中に潜むしかなかった。
しかし、ある日転機が訪れる事になります。それは転生者の存在です」
「転生者?」
なんか無視できない単語が出て来たな。
「転生者とは異世界の記憶を持つ者の事。彼らはそれぞれ人間種、魔人種、亜人種に一人ずつ生まれ、その者達は全員強力な力を有していたと言います。
とはいえ、最初から異世界の記憶を保持していたわけでもないようで。彼らは自身が危機的な状況に陥った際にその記憶を呼び覚まし、規格外な力を発揮してその頭角を現したのだそうです。
そんな彼らは力を合わせてキメラに戦いを挑み、激戦の果て遂に打ち倒しました」
おぉ、めでたしめでたしじゃん。
しかし、転生者ってのは俺やケンイチの事なんだろうなぁ。後はこれから会う女王様か。
「ふぅん。転生者というのはそれだけ昔からの存在だったのね。
しかし宰相さん? 話を聞いていても魔人種と人間の仲が悪い理由が皆目見当が付かないのだけれど? その後に権力争いでもあったのかしら?」
ルゼルスが宰相さんに尋ねる。
あぁ、そっか。そういえばこれ神話みたいだなって思ってたけど一応昔にあった出来事っていう話でしたね。
魔人種と人間の仲が悪い理由を応えるために宰相さんはこの昔話を話してくれたみたいだが……うん。ルゼルスの言う通り、これまでの流れで魔人種と人間の仲が悪くなる要素なんてないと思う。
「ええ、そうですね。無事にキメラは倒されました。しかし、その後に残った物が問題だったのです」
「「「後に残った物?」」」
なんだろう?
パッと思いつくのは
その
「キメラは死した後、魔物を生み出す核となるコアを残したのです。そのコアは破壊不能で、そのコアからの波動を受けて世界各地に強力な魔物が一定周期ごとに生まれるようになったと言います」
惜しいっ!!
瘴気みたいなのがポンポンコアを生み出したんじゃなくて、普通にポンって感じでコアが出現したのか。
……あれ?
「えっと……そのコアってダンジョンの主の核になってるダンジョンコアの事ですよね? あれ、腐る程たくさん潰してきたんですけどおかしくないっすか? 今の言い方だとコアが大量にばら蒔かれたって感じじゃないし……」
「ええ、生み出されたコアは一つのみでした。しかし、ここで生み出されたコアとラース様が言うコアは根本的に違います。私たちは前者をトゥルースコア。後者をフェイクコアと呼称しています」
「フェイクコア……つまり偽物のコアって事か……」
「その通りです」
なるほど。
つまり、今まで俺たちが破壊してきたコアは偽物だったと。
しかし、一体全体なんでそんな物が生み出されたんだ?
あれ、偽物にしてもかなり面倒な一品だと思うんだが……。
「先ほども言った通り、トゥルースコアは破壊不能かつ世界に強力な魔物を一定周期で放つ。そんなもの、当然放置など出来るはずもありませんでした。そこで、三種族の中で最も知恵に秀でた人間種。その転生者が管理、研究することになりました」
なん……だと。
よりにもよって一番欲深い気がする人間種がそんなものを管理する事になったと?
あのぅ……なんかもう既に嫌な予感しかしないんですけど。
「人間種による研究は順調に進んでいました。魔物の出現する周期を遅らせる事にも成功し、トゥルースコアの破壊方法も時間をかければ必ず見つかると当時の人間種の転生者は断言していたのです。
――――――しかし、そう上手く事は運びませんでした。
トゥルースコアを研究していた転生者。その彼がいつしか闇に堕ちていたのです」
「「「………………」」」
あちゃーー。マジかーー。
いやまぁ話の流れでなんとなく読めたけど……やっぱりそういうオチになっちゃいますか。
「その転生者が初めから闇に堕ちていたかどうかは分かりません。ですが、確かにその転生者はトゥルースコアの構造の解析に成功していたのでしょう。だからこそ魔物が湧く周期を遅らせる事も出来た。
しかし、
おいおいおいおい。
過去の転生者さんよ。ちょっとはっちゃけ過ぎじゃないか?
何を求めていたかは分からないけど、最初は他の転生者と仲良くラスボスことキメラを倒したんだろ?
それなのにどうして問題を大きくすっかなぁ……。
「フェイクコアを使用させられた
すでにラース様達はご存知でしょうが、フェイクコアを使用した者は自身に有意な地形をいとも容易く作り出すことが出来、その地からは無数の魔物が出現するようになる。さらに厄介なことに、彼らはその魔物を自在に操ることが出来るのです」
「ああ、それはもう嫌って程に体験してる。後はアレだよな。自分の陣地内の魔物やら敵やらをワープさせる事も出来たりするんだろ?」
以前に一度だけ教会のダンジョンでやられたワープ。
あれは……少し面倒くさかった。
「それは……おそらく特別な製法で製造されたフェイクコアの力ですね。当時のフェイクコアにそんな力はなく、現在様々な場所に散らばっているフェイクコアの多くにもそんな力は無いと思いますよ?」
「……あれ?」
え? フェイクコアにも個々で違いがあったりすんの?
そんな俺の疑問に答えるようにして宰相さんは続けた。
「
「レア物て」
偽物のコアなのにレア物とはこれいかに。
「そうして
「なんつー迷惑な話。面倒な流れを作ってんなぁおい」
自分は決して動かず、フェイクコアを延々と作り続けてそれを配下に頼んでばら蒔かせる。
そうして力に目がくらんだアホ共がフェイクコアに飛びつき、晴れてダンジョンの主さんとなって各種族に敵対する。そういう流れか。
各種族の敵でしかないその某転生者さんからすれば、自分が望む研究をやっている間に勝手に部下が増えて勝手に自分の敵を減らしてくれるってサイクル。笑いが止まらんだろうなぁ……。
「――その面倒な流れを作ったのが人間種の転生者とその配下である人間種達なんですけどね……。だからこそ多くの魔人種が人間種を嫌っているのですよ。彼らのせいで我らはこんな地下に潜んで暮らす事になったのだ……とね」
「……なんかすいませんでした」
決して俺は悪くはないのだが、なんか人間として謝らないといけない気がしたので宰相さんに頭を下げた。
「いえいえ。ラース様に謝っていただく必要などありませんよ。私は人間全てがそのような邪悪な者でないと知っていますからね。それに関しては亜人も魔人も関係ありません」
なんてできた宰相さんだ。
やはり国の上の方に居る人は違うなぁ。
「それに、トゥルースコアを使用して人の身を捨てた
「そう聞くと転生者って対キメラ用に生み出された感じがするな。そういう展開、結構燃える」
……あれ?
「なぁなぁ宰相さん。そのトゥルースコアを使った
「ええ」
「それじゃあ、今のこの世界に転生者って四人居る感じか?」
人間種の転生者である俺、トゥルースコアを使った転生者の何某さん。
亜人種の転生者であるケンイチ。
魔人種の転生者であるであろう女王さん。
遥か昔に三人の転生者がキメラを打ち倒したというからてっきり転生者って三人ぽっきりの存在だと思ってたんだが……違うのだろうか?
「その辺りの事は私にも分かりませんね。当時の神が気まぐれに転生者を三人だけ降臨させたというだけの話かもしれませんし。実際はもっと多くの転生者を降臨させることも可能なのかもしれません。
後はそうですね……。
「そこまで考えだすと訳が分からなくなるな……。まぁ、別に転生者が何人居ても別にいいか」
特に重要な事でもないだろうし。
そうして宰相さんの昔話も混じったこの世界の現状を聞き終わった頃、ちょうど螺旋階段の終わりが見えてきた。ようやく地面だ(地下なのに地面と言うのも変だが)。
螺旋階段を下りた先には大きな鋼鉄製の扉がそびえ立っており、普通に開け閉めするだけでも大変そうだなぁと思った。
「女王様ぁっ! お話していた人間種の転生者、ラース様をお連れしましたぁっ!!」
そんな鋼鉄製の扉をガンガンと叩きながら中に居る女王に大声で告げる宰相さん。
え? そんな乱暴なノックの仕方ある? しかも女王様に対して怒鳴るとか不敬過ぎない?
と一瞬思ったがそうか。もしかしたら鋼鉄製の扉だからそうでもしないと中に声が響かないのかもしれないな。え? それもう設計ミスでは?
なんてつまらない事を考えている中。
「入りなさい」
女の澄んだ声が響く。
女王らしい尊大さが感じられる声だ。
「――失礼します」
そうして宰相さんが鉄の扉を開ける。
最初に感じたのは強烈な青の視線だった。
全てを者を見下す青の視線。
部屋の中にはキングサイズのベッドに優雅に腰掛ける美しい女の姿があった。
外見上は俺とあまり変わらない程度の年。だが、なんともいえない女王としての風格がそうとは感じさせない。
透き通るような薄い青の長髪。
女は不敵な笑みを浮かべながら、新入りの配下でも見るような視線でこちらを値踏みするようにして見ていた。
そうして彼女――女王は口を開いた。
「いらっしゃい。ラスボス召喚士さん達。わたくしの名はペルシー・ローレルライト。主人公召喚士にして、この国の女王です」
そう言って、俺が探し続けた主人公召喚士のその女は笑顔と共に俺達を出迎えるのだった。
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