第2話『とあるラスボスさんの現状』
魔人国の女王。
そいつがヴァレルを召喚し、コウを使役している人物。
ようやくここまで来た……。
「ラース?」
「ああ、悪いルゼルス。ここまで長かったなぁって思ってさ」
思えば色々とあったものだ。
最初の頃、俺はただ生きることに必死だった。
そうしてルゼルスに命を救われ、それどころか彼女の存在が知らず知らずのうちに俺を支えてくれていたのだと知り、彼女に恋をした。
だからこそ、そんなルゼルスを永続召喚してずっと傍に居て貰う事を目的にMPを貯め続けた。
そんな中でセンカと出会い、ルゼルスを永続召喚し、他のラスボスも永続召喚したいと思うようになって続けてMP集めの為に奔走した。
そうしていく中、後悔を残して散っていった多くのラスボス達に報われてほしいと思うようにもなったのだ。
しかし、そんなラスボスの中でリリィさんには兄の存在が不可欠。彼が居ないのではリリィさんが報われる事なんて決してない。
だからこそ、俺は彼女の兄であるコウを探す事にした(そう提案しないと力を貸してくれなさそうだったというのもあるが)。
俺と対となるような
そして、スプリングレギオンにてリリィさんの弟である『コウ』を発見。話すことは出来なかったものの、主人公召喚の
残念ながら、そこでのリリィさんとコウの出会いは一瞬の事だった。
しかし、今や主人公召喚の
その人物に頼めば、またリリィさんとコウは再会できるだろう。
何か要求されるか知らないが、向こうも俺に用があるようだし、二人が再会するのはそう難しい事ではないはずだ。
そうして、二人にはかの世界では叶わなかった兄弟の平穏な時間というものを過ごして欲しい。心の奥底からそう願う。
俺の今の目的。それは現在大きく分けて三つある。
一つ目。
主人公召喚の
二つ目。
世間で暗躍しまくっているダンジョンの主達(一部では魔王と呼ばれているらしい)の
三つ目。
俺が多くのラスボスが報われる事。
この三つだ。
その一つがようやく叶おうとしているのだ。
「くすくす、そうね。まさかあの落ちこぼれの坊やがここまでしてくれるなんて予想もしていなかったわ。まったくもって人の成長は凄まじい。それを始めて間近で見せられたわ」
「そりゃあ人間ですから。主人公様曰く、人の可能性は無限大らしいよ?」
「ふふ、そうね。そうだったわね。あなたやセンカを見ているとなんだか納得させられるわ」
そうして過去を振り返りながらお屋敷の中に入る。
中も想像通りのTHE・洋風のお屋敷という感じだ。シャンデリアによって屋敷内部は照らされ、様々な調度品が並べられている。
そして、最初に入ったエントランスホールのような場所でこちらを待ち構えるかのようにして立っている一人の青年。
青年は軽く頭を下げ、
「お待ちしておりましたラース様。わたくし、この魔人国の宰相を務めるキョウイと申します。本日はわざわざご足労いただき、誠に感謝します」
自らを魔人国の宰相と名乗った。
「あぁ、はい。ご丁寧にどうも。えぇっと、俺は――」
そうして自己紹介の為に口を開こうとする俺。
しかし、そんな俺の自己紹介を遮るようにして宰相キョウイはとんでもない事実を暴露してきた。
「あぁ、そちらの自己紹介なら結構ですよ? 貴方たちの事はチェシャを通じてよく知っているつもりです。ついでに、今はアレイス王国の国王となられている『ウルウェイ・オルゼレヴ』様の事も把握していますよ」
「あぁ、そうなんですか。それは手間が省けて何より……んんん!? 国王!? 誰が国王!?」
「あぁ……そう言えばラース様達は現在のウルウェイ・オルゼレヴ様の動向を感知できないのでしたね。彼は――」
「おい、キョウイ」
ウルウェイ・オルゼレヴの現在を話しだそうとする宰相さんだが、それを邪魔するかのようにヴァレルが彼の名を呼ぶ。
「それは、俺が聞いてもいい事か?」
そんなヴァレルの問いに宰相は笑顔で答える。
「構いませんよ。というよりも、ここまで話が進んでしまえば秘密にすることなど何もありません。次の策まで潰えたならそれまでというだけの話です。それでも、最悪ではありませんしね」
「そうか……ならいい」
そう言って黙るヴァレルさん。
二人して何か考えがあるみたいだが……正直、俺達としてはその中身までは分からない。というより、出会ったばかりなので分かるわけがない。
そんな俺達に宰相は『身内事で話を逸らしてしまい申し訳ありません』と断った上でウルウェイのその後について語ってくれた。
「彼はあなた達と分かれた後、冒険者ギルドを設立したみたいですね。そうして力を求める冒険者にのみ地獄の鍛錬を課したようです。そうして彼の鍛錬を受けた者の半数が亡き者となり、残り半数がA級冒険者を遥かに凌ぐ力を手に入れました」
何やってんだよウルウェイさぁんっ!!
自分は色々とやりすぎる傾向にあるから自重するとか言ってたじゃんかよぉっ!!
「一時はこの過激な鍛錬について、遺族等の方から抗議の声が上がったようですね。しかし、彼は用意周到だった様子。鍛錬に参加する冒険者には必ず『鍛錬の際に死んでも構わないか?』という旨が書かれた契約書を確認させ、そこにサインさせていたのだとか。
また、遺族の方たちには十年は遊んで暮らせるだけの保険金なるものを送り、多くの者を黙らせたそうです」
「あ……そう……すか」
ウルウェイさんそれ自重する方向性間違ってるぅぅぅぅぅぅっ!!
っていうか保険金って……ウルウェイさんの世界にもなかった概念じゃないっすか。
思いっきり俺の知識利用して無双してらっしゃいますねぇおいっ!!
「そうして彼の鍛錬を受けて無事に生き残った者は全員A級冒険者を遥かに凌ぐ力を持つに至りました。彼らはウルウェイ・オルゼレヴにその身を捧げると豪語したそうですが、これを
「言いそう」
うん。それはウルウェイらしい。
部下やら配下やらなんかどうでもいい。個々人が守るべきものを守れとはあいつが言いそうな事である。
「その言葉に従って多くの猛者がアレイス王国を守護する形になりました。しかし、それで彼らの忠誠の対象がウルウェイ・オルゼレヴ様から離れる訳でもなし。
彼らは行く先々で善行を重ね、その中でウルウェイ・オルゼレヴ様がいかに素晴らしい人物か喧伝したようです。
そうしてウルウェイ・オルゼレヴ様の名は上がり、誰も無視できない存在となりました。そうして、彼を人間種の支配者にするべきだという動きが活発になり内乱に発展――――――するかと思われたのですが、アレイス王国の前国王『アレイス・ルーデンガルヴ』はあっさり王位をウルウェイ・オルゼレヴ様へと移譲。これによって内乱の動きはなくなり、今のアレイス王国は比較的平和な国となっています」
「あー、うん。ごめん。もういいや」
これ以上ウルウェイ関係の話は聞きたくない。
だって、聞いてると頭が痛くなってくるんだもの。
「それよりも、ここに来るまでで気になる事が出来たからそっちの方を聞きたいかな」
「左様ですか。どうぞ、なんなりとお聞きください」
俺はウルウェイの話を中断させる意味も込めて、少し気になっていた事を宰相に尋ねてみる。
「それじゃあ遠慮なく……どうして魔人種は人間を敵視しているんだ? ここに来るまでの間にヴァレルから軽く聞いたけど、人間が魔人を敵視しているとか関係なく魔人は人間を嫌ってるんだろ?」
魔人種と人間の仲は劇的に悪い。
このまま放置するのはセンカにとってもなんだし、理由くらいは聞いておきたいものだ。
「その件ですか……。畏まりました。それをご説明すると少し長くなってしまうので歩きながらに致しましょうか。
女王の下まで……あなた方がお求めになっている主人公召喚士の下までご案内させていただきます」
そう言って、宰相キョウイは俺達を屋敷の奥に案内した。
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