第37話『主人公』


 ――二か月経過。魔人国領内


「ここが……魔人国。そこに至る通路ってやつか」


「肯定」


 俺たちはチェシャの案内の下、魔人国領に入った。


 二か月前、俺たちはチェシャの正体を知った。

 それと同時にセンカと一戦交えた事もその時言われて初めて知った。


「処断するなら好きにして。私は許されない事をした」


 そう言ってその身を委ねたチェシャだったが、


「いや、そこに俺達が口を出すのは筋違いも良い所だろ。思う事があるとすれば……気づけなかった俺たちはとんだ間抜けだったなぁっていう事くらいか? それ以外は二人で最初から最後まで決着がついていて、勝者であるセンカは敗者であるチェシャを許すことにしたんだろ? なら、やっぱり外野が口を挟む余地なんてないだろ」


「くすくす、そうね。結果良ければ全てよし。センカが取り返しのつかない事になっていたら私はあなたを許さなかったかもしれない。けれど、センカはこうして無事に生きている。それなら、私が言う事は何もないわ。ラースが言った通り、これはセンカとチェシャ、二人だけの問題。両者の断りなく私が横やりを入れていい道理はないわね」





 ――と、俺とルゼルスの判定でお咎めなし。


 ただ、チェシャは偽装という技能を使ってその技能やら職業クラス、果てはステータスまで思いっきり誤魔化しまくっていたみたいなので、それは解除させた。


 彼女の真のステータスはその値だけ見ても、それまで見えていたステータスの五倍くらい跳ねていた。

 それに、話を聞く限りだと偽装という技能はぶっちゃけチートだ。なんでもかんでも偽装できるというのはかなりの武器になる。

 とはいえ、相手に直接かける偽装は無条件にとはいかないらしい。なんでも目を合わせたり、直接触れたりしなければ偽装にはかけられないのだとか。そう聞くとまるでどっかのアニメに出てた幻術みたいだな。

 

 そんなやり取りを経て、ついでに一休みとでも言わんばかりに亜人国(スプリングレギオン)の各集落を見て回ったり残ったダンジョンを潰して回り――


 そうして健一の助力も借りて魔人国へと到達し、あまりに多くの魔物が地表を闊歩しているのに驚きつつもそれらをルゼルス&センカ&アリス&チェシャ&俺で目に見える所のやつはあらかた殲滅。


 ああ、そうそう。ルールルだけは戦闘に不参加だったのだが、彼女は致命的な障害を負っていた事が判明した。

 ルールルの技能の一つ……ルール作成。それが俺の劣化版も含めて消滅していたのだ。

 それに気づけない内にルールルは幾度か死んでしまい、死に戻りの技能だけは残っている事が判明したが……それだけじゃ正直どうしようもない。なので、補欠と言う感じで戦闘には不参加だった。



 そうして魔人国領にいくつか存在している岩山へとたどり着き、その影になっている場所から地下へと潜り――今に至る。



「しかし、入り口に門番とか居ないのか? 厳重に管理されてるって言ってたからそういうのが居ると思ってたんだが……」


「ここは枝分かれした通路の一つ。見つけられた場合は破棄する通路でもあるから問題ない。門番はたった一人」


「なるほどな。って事はここを進んでいって、枝分かれする前の通路まで行けば門番が待ち構えている……と」


「肯定。でも、大丈夫。既に私たちが向かう事は伝えている」


「いつの間に……。しかしこの通路、狭いな」


 人一人がギリギリ通れるような小さな通路。

 匍匐ほふく前進しながらでないと進めない為、歩みは当然非常に遅い。


「当然。これ、掘った通路。いつ崩れても不思議じゃない」


「いや、それはダメじゃないか?」


「問題ない。崩れても新しく作れる。でも、その場合は少し時間が必要」


「……つまり?」


「崩れないように祈るしかない」


「やっぱりダメじゃねえか……」


 欠陥だらけの通路だった。

 いや、地中を泳ぐ魔物とかも居るから特定の通路は造らないって方針になってるのか? だから枝分かれするまでのこういう通路が見つけられたときは爆破するっていう手はずになってる……とか?


 色々と不安になる俺たちだったが、それでも特に問題なくトンネルのように大きな通路に出た。ここからがおそらく本通路というやつなのだろう。


 ――カッカッカッ



 静寂の中、全員の足音だけが聞こえる。

 いよいよ魔人国。暗いトンネルを通ってその未知の世界へ踏み込もうとしているのだ。

 周りがシーンとしているせいもあって、誰も口を開かな――嘘だ。アリスだけ変な鼻歌を歌ってた。


 そうして、下り坂のトンネルをどんどん下っていき――


「お? 団体様とは珍しい。……ってなんだ。チェシャじゃねぇか」



 不意に、目の前から男が現れる。

 真っ黒な軍服を羽織り、戦闘に居るチェシャに声をかけている。

 この男が門番というやつなのだろう。


「……私の事……覚えてた?」


「あったりまえだろ。外で任務に当たっている68人。そして俺が任務を請け負った後に死んでいった1875人。全員俺の戦友だ。そいつらの事を俺が忘れるわけねぇだろ。仕える国が変わっても戦友たちの事を俺は決して忘れねえ。それが気に食わねえやつだったとしてもな。命を互いに預け合う以上、そいつは戦友だ」


「そう……」


「おぅっ! しかしチェシャ……お前、少し変わったか? 前のお前さんなら俺の事なんざ無視して会話に応じなかっただろうに。お前は戦友の中でも特に素っ気なかったからなぁ。それに、今回は他にもぞろぞろと連れてきて……。魔人国に貢献してくれる優秀な人材を連れてきたと嬢ちゃんからは聞いてるが、そいつらがそう……なの…………………………は?」


 チェシャと言葉を交わしていた軍服の男が初めてこちらに視線を向ける。

 そうして、そいつは俺たちの事を……特にルゼルスやアリスの顔を凝視している。


 そして――俺もその男の事をよく知っていた。




「……こんなところで何やってるんだ? 帝国軍第十三特務部隊団長様?」


「あぁ? なんでソレを……いや待て……あぁ、そう言う事か。お前も嬢ちゃんと同じ……いや、嬢ちゃんと対を為す召喚者って奴か……」


 そう。こいつは――

 

「まぁいい。もう知ってるかもしれねえが、名乗らせてもらうぜ。そこの魔女と宝石鬼。後は男の背中に隠れてるキチガイ女……ん? なんか雰囲気が俺の知ってるのと違うな……。ともかく、お前らの事は一応知ってるが初対面だしな」


 そうしてルゼルスやアリス、そして俺の背中に隠れているルールルという居並ぶラスボス達の顔を知っているというそいつは高らかに名乗りを上げた(リリィはいつの間にか影の中に隠れていた)。


「俺は元帝国軍第十三特務部隊団長のイリュージョン・リッター。今はこの魔人国の女王である嬢ちゃんの護衛兼使いっぱしりの召喚物。ヴァレル・ザ・ドライヴだ」


 そんな格好よくも格好悪い名乗りをゲーム『トラゴディエ・ヴォン・ゲシスター』の主人公であり、ラスボスのシュランゲ・ボルスタインを打ち倒した男――『ヴァレル・ザ・ドライヴ』はするのであった――



★ ★ ★


「お疲れ様ですっ! ヴァレル様」


「おぅ」


 俺達は主人公の一人である『ヴァレル・ザ・ドライヴ』(以降はヴァレルと呼ぶ)と会った後、俺たちは彼の案内の下、魔人国へと足を踏み入れる事になった。


 今はそこへ行く道中。途中で検問のようなものがあり、そこで俺たちはヴァレルが待機していた男達とやりとりしているのを眺めている。


 彼らは魔人国の住人なのだろう。門番のヴァレルが抜かれた場合、あるいは敵を討ち漏らした際にそれを駆除する者達と見た。

 彼らの姿は様々だ。背中に翼を生やした者も居れば、鋭い爪と牙を覗かせている者も居る。

 かと思えば、外見上は人間と変わりない者も居る。人それぞれならぬ、魔人それぞれという感じだ。


「その者達が?」


「ああ、そうだ。少なくともあそこにくっついてる女三人は俺と同等。あるいは俺すらも超える実力者だ。下手に刺激すんなよ?」


「そう言われると挑んでみたくなりますね……」


「はっはっはっ! 気持ちは分かるがやめとけ。あいつらを怒らせて無駄死にしたなんて嬢ちゃんが知ったら絶対に怒られるぞ? その命は祖国を守るため……家族を守る為に使えや」


「分かってますよ。言ってみただけです」


「だろうな。で? もう通っていいか?」


「えぇ、ヴァレル様のお墨付きですしね。ちなみにヴァレル様が自ら女王の下へ連れていくのですか? なんでしたら別の者を彼らの案内に付けますが……」


「嬢ちゃんからもそうしろって言われたがな……。悪いな。ちょいと野暮用だ」


「またですか……。ヴァレル様が居ないとなると……少しワクワクしますね。あなたが門番をやっている間、最終関門を担う我々は極まれに来る残り物しか味わえませんし」


「はっはっはっ! 血の気の多い奴らだなぁ、全く。だが、残念ながらご期待には沿えないと思うぜ? あの嬢ちゃんの事だ。代わりの奴がすぐに来るだろうよ」


「それは残念。しかし、あなたにだけは血の気が多いなどと言われたくありませんよ」


「ハッ。違いねえ。そんじゃ、通るぞ」


「はっ!」


 そうして検問のような場所を突破し、薄暗いトンネルを抜ける。

 そこには――


「これは……まじか……」


 トンネルを抜けたら雪景色……などという驚きとは比較にならない。

 トンネルを抜けた先に、国があるのだろうとは思っていた。魔人国がこの先にある。そう聞いていたからだ。

 だが、これは想定外だ。開いた口が塞がらない。


 なにせ――


「世界観……違い過ぎるだろう……」


 車が低速でとはいえ走っている道路があり、ビルがあり、国全体を照らしている光がある。


 そんな現代日本のような国模様が目の前に広がっていたのだから――



★ ★ ★


 これにて三章終了です。

 次回から魔人国編。

 なのですが……すみません。しばらく筆を休めます。

 というのも、連続で執筆していている中、展開が急になったなぁと……これはもう一旦休んで軽くゆるい新作でも書いて息抜きした方がいいかなぁと……。自分に甘い作者ですごめんなさいm(_ _ )m

 きっと半年以内くらいには再開する(はず)


 それではっ! 次に会うのが次回作になるか、今作の続きとなるかは不明ですが、また拙作の作品と出会った際にはよろしくです。

 ではでは。またのお越しをお待ちしております(*´꒳`*ค"フリフリ

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