第14話『ゲームプレイヤー』


 鈴木健一。

 明らかに転生者だと思われるその名前。

 そいつこそがリリィさんが求める主人公召喚士の職業クラスを持つ者かもしれない。

 そうでなくても何かしらの情報を持っているかもしれない。

 そう思ったからこそ俺たちは亜人国に来たのだが――


「お前が……鈴木健一?」


「あぁ。色々と小細工しちまったが俺が鈴木健一だ。まぁ、この世界で与えられた名前はユスティルヌスだけど? ださいから速攻で前世の名前に変えてやったぜ。カカカッ――」


 悪ガキのように笑う健一。

 名前から察していたが、やはり転生者で間違いないようだ。

 しかし――


「あの……さっきのララノアと名乗っていたエルフさんは?」


 おずおずとした様子でセンカがそう尋ねる

 そう、ララノア。あの残念だけど美人なエルフ。アレも鈴木健一と名乗っていたはずなのだが……まさか……。


 一つの可能性がよぎる中、健一は行動を起こす。


「あぁ? だからそれが俺だっての。ったく……見てろよ? キャラクター変更。対象――エルフ『ララノア』」


 呪文のようなそれを唱えると共に、健一の体が光り輝く。

 そうして光が収まった先にはやはり――


「――という事です。お判りいただけましたか?」


 先ほどまで居た野性味あふれる健一の姿が消え、ララノアと名乗っていたエルフの姿に変わる。


「これは……変身能力か?」


 ぽつりとそう呟く俺に対し、健一が「正解だ」と返す。


「ええ。もっとも、単純な変身能力という訳ではありませんよ? さっきの人間の姿であればそれに見合った力を振るえますし、この姿ならエルフの魔法の力を振るうことが出来るのです。ララノアは防御タイプですね。後はそうですね――キャラクター変更。対象――獣人『シエル』」


 そう言って再び健一の体は光り輝き――


「これが物理攻撃タイプの『シエル』です。その力は皆さんにご覧いただいた通りの物です。あぁ……説明すっごくかったるいです……」


 なんと、その場に現れたのはエルフの国に着くなり居なくなったシエル。

 言動から察するにこれは健一が変身した姿なのだろう。

 だが――


「な、な、な、な、な」


 開いた口が塞がらない。

 俺が呆気にとられる中、健一は元の青年の姿に戻って自身の能力の説明を続けた。



「――とまぁご覧の通り。俺は前世の時にプレイしたMMORPG『ヴェンデッド・フェスタ』で作ったキャラクターを使用することができんだよ。ちなみにそこのルナは俺が作ったNPCで、永続召喚したやつだ。逆に『シエル』や『ララノア』はプレイヤーキャラとして使ってたからなのか、召喚じゃなくて変身としてしか使えねえって感じだな。それが俺の職業クラス――『ゲームプレイヤー』だ」


 その後、健一はぽつりと「まぁ、この力に気付くのにかなり手間はかかったけどな。前世の記憶も最初からあった訳じゃねぇから訳わっかんねぇって感じだったぜ」と零す。


 今までの苦労を思い出してでもいるのか、どこか遠くを見るようにして呟いていた。その辺りは俺も同じだからとても共感できる。

 しかし――


「教えてもらってる側が言うのもなんだけど……よくそこまで明かせるな。そういうのってもう少し隠すべきなんじゃないのか?」



 健一は自身の正体がばれたと見るや謝罪すると共に懇切丁寧に自分の持つ技能を説明してきた。

 善人として目が覚めたのであればとても尊い行為にも思えるが、それは危険な行為のようにも思える。

 こんな……敵になるかもしれない俺にここまで技能の詳細を開示するなんて……色々と企むくらいには頭を回せるこいつがなぜ今になってそんな事を?


 そう疑問を覚える俺に健一は「だってなぁ」と技能の詳細を語った理由を明かす。


「確かにこの能力の事は基本秘密にしてるぜ? 各タイプには弱点もあるし、キャラへんするときは完全に無防備だからな。だからこそプレイヤーキャラである『シエル』や『ララノア』達は各部族を治める族長って感じで俺が一人五役くらい担ってるしな」


「なら――」


「でもな……それをどううまく使ったってそこの世界を滅ぼしかけた魔女様には勝てねえだろうがこのチート野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ルゼルスを指さし、悔し涙か分からないけど思いっきり号泣する健一。


 あぁ……お前もルゼルスがラスボスとして登場したゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』やってたのね……。


「俺の技能でできるのはゲーム時代に作り出した無数のNPCを使役して自身も数あるキャラを使って多彩な攻め方をする事だ!! だけどなぁっどれもこれも海を裂き、地面を砕くのが関の山なんだよ!!」


「ああ、なるほど。そりゃ無理だ。どうやってもルゼルスには勝てないだろうな」


 俺は嘆く健一の肩に手を置き、そりゃ無理だと半ば同情するように声をかける。

 しかし――


「……え? 十分すぎると思うんですけどそれでも駄目なんですか?」



 この中で唯一常識人(のはず)であるセンカがそんな突っ込みを入れてきた。

 なので――


「「やれやれ……何も分かってないんだなぁ」」


 俺と健一はやれやれと肩をすくめて見せる。

 これにはセンカも怒るか? と思ったのだがそうはならず、


「ら、ラース様……いきなり健一さんと仲良くなってません?」


 なぜか少し引いた様子で俺と健一を見てきた。

 そこにルゼルスとルールルが加わり、


「くすくす。同じ転生者だものね。無理ないわ。それに、初めての男友達っていうのもあるんじゃないかしら?」


「ル? そもそもラー君って友達居ないですよね?」


「ぷふっ――――――アハハハハハハハハッ。そういえばそうね。という事は健一が初めてのお友達という事になるのかしら? くすくすくすくすくすくす」


 逆に、俺へと強烈なダメージを与えてきた。

 いやいや、ちょっと待て。俺にも友達くらい……あれ……もしかして居たことがない? うっすらとしか覚えていない前世も含めて友達が居た記憶がないような……。


「そりゃそうだろ。こんな変人に付き合える奴なんてそう居ねえよ。カカッ――」


「女に化けて俺を誘惑してきたお前には言われたくねぇよ!?」


 止めを刺してくる健一だが、お前にだけは言われたくないと反撃を繰り出す。

 変人度で言えば確実にこいつの方が上だと確信できる。


 その点、俺はまだマシだよ。少し厨二のがあってちょっとラスボスが好きなだけの青少年なんだからな。

 目的の為とはいえ、シエルやララノアという美女に化け、あまつさえ俺を誘惑してきた健一の方が変人だと言えるだろう。


「それは――」


 健一が何か弁解しようとしたその時――


「!? こんなタイミングで!? 健一……始まったわよ」


 健一が生み出したという厨二ロリ娘ことルナが何かに驚き、意味深に呟く。


「マジか……いつ始まってもおかしくねぇと思ってたがこのタイミングでとはな……」


 それを普通に受け取る健一だが……こっちからしたら何が何だか分からない。


「始まったって……何がだ?」


 そう俺が尋ねると健一は告げた。


「魔王……いや、エセ魔王達による総攻撃だよ」


 健一がそう言うと同時に――外から地鳴りの音が聞こえてくるのであった。



★ ★ ★


 後書きというか補足。

 健一はキャラクター変更で誰かに変身すると、口調がそのキャラに設定した性格に寄ります。(ゲーム設定に寄る物+一人五役をこなす為、変身するたびに口調を変える癖がついてます)

 ただ、いくら変身しても心は健一自身の物なので驚いた時や怒ってる時なんかに素の口調が出ます。一番顕著なのが前話のララノア。

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