第13話『唐突な邂逅』
「くっくっく、だから言ったであろう
「誰だ?」
「……誰かしら?」
「ルル?」
「「?」」
この場に見えない第三者の声。
「ルナ――」
ララノアが自身の後ろを振り返る。
そこには、確かに先ほどまでは居なかった少女の姿があった。
右目に黒の眼帯を付け、この世界では珍しい部類に入るはずのゴスロリ服を身に纏うロリっ娘。
銀の短髪を煌めかせ、彼女は包帯がグルグルと巻かれた右手で顔を隠すようなポーズを取りながら語り掛けてきた。
「我々が考えるより、邂逅の時は近かったようだな転生者。これもアカシックレコードの定めた運命か。終焉の焔がこの国を包もうとする中、破滅に魅入られた我らが再び出会うのは必然だったのかもしれ――」
「うぜぇよ!!」
「いたぁっ!!」
少女がとても楽しそうに話しているのを乱暴な言葉と共に殴って中断させるララノア。
というあの姿、あの声……どこかで聞き覚えがあると思ったらアレイス王国で会った同族(俺と同じ中二病患者)じゃないですか。
「うぬぬぅ……なにすんのさ健一! 今はとっても大事な――ふぎゃ」
「あらあらあらあらあら。何を言っていますかこの娘は。私は健一などという名前ではありませんよ? そもそも、あなたはだぁれ? 住所はどこ? 親御さんは? 迷子か、迷子ですね? 人生という道で盛大に迷子になってしまったんですね。可哀想に、よよよ」
「はぁ? 何を寝ぼけた事言ってんのよ健一。そもそも、アンタが私をこんな風に作って――」
「うっせぇもう黙ってろこの痛々しい厨二娘がぁ!! さもないとその眼帯ずたずたに引き裂くぞ!!」
「や、やめてぇ! この……やめぬか健一ぃ!! この眼帯を外せば我自身でも押さえられない破滅の力が世界を――」
「ただのアクセサリーだろうが!! そんな嘘が製作者の俺に通じると本気で思ってんのか!?」
――と……俺たちの目の前でララノア? と前に会った厨二娘が取っ組み合いの喧嘩を始めた。
そして――
「はっ! そうか。今なら……スリープ!!」
「あっちょっそれズル………………ZZZ」
勝利したのはララノアだった。
眠りの魔法でも使ったのか、厨二ロリっ娘は気持ちよさそうに眠っている。
「――っよいしょ」
以外に優しいのか、ララノアは眠らせたロリっ娘をベッドまで運んでいた。
そうして「こほん」と咳払いした後、再び俺たちへと向き直って喋り始めた。
「先ほどの子供はとても疲れていたみたいでしたので寝かせました。おそらくどこかの亜人の子供でしょうね。最近のスプリングレギオンは先ほどの件もあって物騒ですから……。きっとあの子の親類ももう――」
まだ諦めていないのか、ララノアは俺達の同情を誘うべくロリっ娘を可哀想な子供だと紹介してきた。
この場合、俺たちは馬鹿にされていると怒りを覚えるべきなのかもしれない。
だが、それ以上に今は……このララノアに同情の念しか湧いてこない。
だから――
「大変だね健一さん」
俺がねぎらいと確認の意味も込めてララノアをそう呼ぶ。
そうすると、完全にララノアが固まった。
「………………チガイマスヨ?」
首をギギギと横に振り、否定するララノア。
だが、あまりにもぎこちないし、今更何を聞いたところでもう信じられそうにない。
というか、考えてみれば色んな所で綻びがあったからなぁ。
「くすくす、とっても素敵な部下を持っているじゃない。健一さん」
「えと……さすがにもう色々と限界じゃないかなと……」
「ル? ケンさんってラー君が会いたがってた亜人の王様じゃなかったっけ?」
「肯定。状況から考えてこの人物が亜人の王――鈴木健一。今は特殊な方法でエルフに擬態していると推測」
俺以外からも健一さんに対して追撃がかかる。
それをララノアこと健一さんは『いや、そうでなく……』と頑張って言い訳を考えているみたいだったが――
「くくく。観念せい健一。貴様の邪なる思惑は失敗に終わったのだ。ゆえに言ったであろう? 我の見込んだ闇の担い手に小細工など不要。同じ転生者同士、最初から素直に協力を申し出るべきだったのだ。貴様が慣れぬ小細工をした結果がこれだ。浅はかよのぅ、健一。フハハハハハハハハハハハハハハハハーー」
一瞬で眠りから覚めたのか。先ほどの厨二ロリっ娘が健一さんに引導を渡す。
そんな当の健一さんは肩をふるふると震わせ――爆発した。
「全部お前のせいだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
思いっきり厨二ロリっ娘の首を締め上げる健一さん。
いや、本当。健一さんの言う通り。色々と不可解なところはあったものの、あの厨二ロリっ娘が健一さんの正体を暴露しなかったら俺たちはそれに気づけなかっただろうね。
「っていうかなんでお前もう起きて……ってあぁそうだったルナは状態異常かかるはかかるけど回復が鬼早いんだったなぁ……」
「くくっく……。わ、我に秘められしエヴィケイト・イモータルを……もってすれば……いかな呪いといえど……けほっ……あの……謝るのでそろそろ勘弁してください」
「ん? あ、悪い」
そう言って厨二ロリっ娘もといルナの首を絞めるのをやめる健一さん。
そして――
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。しゃあねぇなぁ」
深いため息を吐き、
「キャラクター変更。対象――ヒューマン『シロウ』」
そう言うと共に、健一さんの体が光り輝いた。
眩しいそれを直視することができず、光が収まるのを待つ。
やがて光は収まり――そこには先ほどまでのエルフの姿はなかった。
代わりに、一人の青年の姿があった。
背は俺よりも少し高いくらいの野性味が溢れた青年。
身に纏うのは深紅の服。ノースリーブの動きやすそうな服だ。
青年は自身のオレンジ色の短髪を乱雑に掻きながら――
「まぁ……なんだ。こんな形で自己紹介するつもりはなかったんだが……俺が『
そう名乗ったのであった。
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