第10話『五賢人』


「ふぅん……殊勝な態度じゃない。それじゃあ私は……おばさまと呼ばせていただこうかしら。いいわよね? おばさま。くすくすくす」


「「「え゛!?」」」

「ルゥ♪」


 ルゼルスがとんでもない名称でララノア呼ぶと宣言していた。これにはルールルを除く全員が驚愕の声を上げた。俺ももれなく変な声を出してしまった。

 いや、だって……あの……ルゼルスさん? あなた数百年を生きた魔女だよね? 絶対に口には出せないけど年齢的にはあなたがこの中で一番の……アレだよね?


 これにはさしものララノアも驚いたのか。絶句していた。

 これはさすがに怒るか? と思ったのだが。


「いや、おま……こほん。か、畏まりました。こう見えて私も百年の時を生きていますからね。おばさまと言われることに抵抗は…………あり……ません?」


 ララノアの笑顔が苦笑いへとレベルダウンした!!

 色々と下手に出ているララノアだが、さすがにおばさま呼びには抵抗があったらしい。

 しかし、そんなララノアに更なる追撃の一手が迫る。


「ルゥ♪ ではおばさま。少し気になっていたんですけどさっきの五賢人ってなんですか?」


「ルールルさんまで!?」


 ルゼルスに倣ったつもりなのか、ルールルまでララノアをおばさまと呼ぶ始末。あまりに失礼な呼び方第二弾にセンカが声を出して驚いている。


 だが、俺としてはルールルがララノアをおばさま呼びするのはいいと思う。ララノアは百歳越えらしいし。

 ルールルは巻き戻り時間を含めなければ16歳だしな。年齢差を考えればおばあちゃんでも可だろう。もちろん失礼でしかないけど。


「簡単に説明しますと、五賢人というのは王の次に偉い五人の事ですね。基本的に『エルフ族』『ドワーフ族』『獣人族』『鬼族』『竜人族』から一人ずつ選ばれ、それぞれが自身の種族を治める長となります」


「え!? 今度は動揺ゼロですか!? なんで!?」


 二度目だから慣れたのか、動揺した様子を全く見せず笑顔でルールルの疑問に答えるララノア。

 それに翻弄されているのはセンカのみだが、正直それが普通の反応だ。

 だが――


「――ってなんでラース様はそんなに目を輝かせてるんですか!?」


 そう――俺は今それどころじゃなかった。

 俺の胸にある想いはただ一つ。


 五賢人……なんか格好いいな!!


 選ばれし五人の超越者。王を守る守護の盾という所か。

 思わぬところで琴線を刺激されてしまった。

 正直に言おう。オラ……ワクワクすんぞ!!


 そしてこの言動残念エルフのララノアもその五賢人に名を連ねる者らしい。

 となれば話が早い。


「ちょいと失礼。鑑定――ステータス閲覧」


そうして俺の目の前にララノアのステータスが現れる。


★ ★ ★


 ララノア 119歳 女 レベル:87


 職業クラス:魔法使い


 種族:亜人種


 HP:12323/12323


 MP:12020/12020


 筋力:3324


 耐性:12192


 敏捷:10736


 魔力:15500


 魔耐:15100


 技能:魔法LV5・回復魔法特化・遠見・



★ ★ ★


「おぉ……」


 これが五賢人……なかなかの能力値だ。

 これならダンジョンの主にも単独で対応できるだろう。

 そうやって俺が唸っている中、ララノアはステータスを閲覧している俺を見て微笑んでいた。


「あらあら。いきなりステータス透視だなんて……。もしかして私の事……たくさん知りたいんですか? その……いいですよ。ラース様なら……ポッ」


「ないわー」



 ララノアのあざとすぎる態度。

 それは五賢人という名の格好良さとそのステータスの高さで舞い上がっていた俺が冷めるのに十分な代物だった。色々と台無しである。


「え゛……えぇっと……何がないのでしょうか? 私に何か至らない点でもありましたでしょうか? 何かあったのなら遠慮などせず仰ってください。私と、エルフ族の皆はラース様の為ならなんでも致しましょう」


 なぜか忠臣みたいな事を言ってのけるララノア。正直、いきなりそんな事を言われても全く心に響かない。

 そりゃそうだ。だってこれ初対面だもの。初対面でいきなり忠誠を誓われても正直信用なんて出来る訳もない。胡散臭いだけだ。


「なんで――」


 なんでそんなに下手したてに出ているのか?

 俺がそうララノアに聞こうとしたその時だった――



「失礼します!!」


 エルフの少年が数人、突然家に入ってきた。

 彼らは一瞬俺達を睨みつけた後、ララノアに対して詰め寄る。


「ララノア様! やはり考え直しては頂けませんか!?」


「あらあら、なんでしょう? 私は今、ラース様達をもてなしている最中なので手短にしていただけると――」


「ララノア様!! 仮にもエルフ族の長であるあなたが劣等な人間なんぞに敬称を付け、もてなすなど……あなたに誇り高きエルフ族として自覚は――」


 のらりくらりと躱そうとするララノアの言葉を制し、少年たちが不満を訴える。

 どうやらエルフの一部は当初の俺の想像通り、俺達を快く思っていないらしい。


「ほーん」


 俺はそれを特に不快になる事もなく眺めていた。

 正直、それこそが余所者である俺たちに対して正しい反応だと思っていたからだ。

 いくら亜人族のシエルが先に仲介してくれていたとはいえ、この少年たち以外のエルフはあまりにも俺達を歓迎しすぎている。

 それこそ何か企んでいるのではないかと疑う程に……だ。


「ま、まぁまぁ。どうか落ち着いてください。ラース様たちが驚いていますよ?」


「何がラース様ですか! 救世主だの勇者だのの再来だとララノア様は仰っていましたがこんな野蛮で知性もない蛮族に救いを求めるなど――」


 少年たちが俺たちを思いっきり非難する。

 そんな中……目を疑うような展開が訪れた。



「じゃかぁしぃわボケェェェェェ!! アイスバァァァァァァァァンッ」



 ララノアが今までの丁寧口調はどこに置き忘れてきたのか。怒りを露わにして氷の魔法を発動したのだ。

 球体状の小さな氷の塊がいくつかララノアの周りに生成され、それが先ほどまで文句を言いていた少年たちめがけ発射される。


「「「びじゃぶ!?」」」


 それを避ける間もなかったのか。はたまた単に避ける実力がなかったのかは分からないが少年たちへとクリーンヒットする氷。

 しかし――


「いっつぅ……ら、ララノア様……これは一体――」


 そうなってもなお、少年たちは何が自身に起きたのか理解しきれていないようだった。

 そんな少年たちに対し、怒り狂って丁寧口調を実家にでも置き忘れてきたらしいララノアが吠える。



「今はエルフの誇りや他種族への恨みなんてもんは一旦捨て置くべき時だろ!? それなのに余計な厄介ごと増やそうとするとか馬鹿なの? 馬鹿だろ!?」


「しかし――」


「しかしもカカシもありますかぁぁぁい!! こっちが色々と苦労してこの場を作ったってのに台無しにする気かこのアンポンタンがぁぁっ! っていうかこの方たちを敵に回すとかあり得んし、許さんからマジで。死刑……いっちゃうよ? 族長権限で死刑いっちゃおうか? あぁん?」


「そんな横暴な!?」


「はい反論言い訳などの諸々もろもろは全部聞き入れませ~ん。十秒数える間に謝罪の言葉をこの方たちに言わなければ君たちは死刑でーす。はい、いーち、にーぃ――」


「「「ぐ……先ほどの失礼な物言い……申し訳ありません……でした……」」」


 さすがに死刑は嫌なのか、初対面の少年エルフ三人が土下座してきた。

 エルフにも土下座文化が根付いてるんだなぁ……なんて現実逃避しつつ、別にいいよと俺はその少年たちを許した。というよりもこんな状況でどう怒れと?


「――――――こほん。大変良く出来ました。あなた達の要件は以上ですか? であれば――」


「はっ! すぐに退室させていただきます! マム!」


 そう言って少年たちは鍛えられた兵のような機敏さでララノアの家から出て行った。


「ふふ、そんな慌てて出ていくなんて……。おかしな子たちですね。そう思いませんか?」


「いや、おかしいのはアンタだろ」


 俺は目の前の頭のおかしいエルフ(ララノア)を指さし、断言した。

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