第5話『面倒臭がり』


 か弱いという定義はさておき。


 俺達はチェシャや眠っていたセンカなども交えてお互いの自己紹介をする。

 そうして落ち着いたのち、シエルさんが俺たちの目的に探りを入れてきた。


「それで? この国(スプリングレギオン)に来た目的はなんですか? 察してるでしょうけど、今は色々と面倒なことが起きてるんですよ。この辺りだけでなく、スプリングレギオン全体で。ただの旅行とかならそのまま回れ右する事をお勧めしますよ?」


「なんだか帰ってほしそうな物言いだな……」


「いえいえ、そんな事はありませんよ。私は強者が大好きですからね。あなた達みたいなのは大好物なんで大歓迎ですよ。なので客人を案内するのだるいーだの、この国のごたごたを一々説明するの面倒くさいーなんて事、この私が思ってるわけがないじゃないですか」


 どうやら俺たちはとても歓迎されていないようだ。

 とはいえ、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。


「と、とにかく俺たちは引き返す訳にはいかないんだ。俺たちがここに来た目的は――」


 そうして俺はシエルさんに話せる範囲でこの国に来た目的を明かす事にしたのだが――



「あ、ちょっと待ってください。それ、時間かかりそうですか?」


「……まぁ……それなりに?」


 出鼻を挫かれ、固まる俺達。

 そんな俺たちにシエルさんは告げた。


「それなら続きは私の家で聞かせてもらっていいですか? こんな所で客人たちを立たせとくなんて族長として出来ませんよ。話はゆっくりお茶でも飲んで寛ぎながら聞かせてもらいます。そっちの方が私も楽ですし」


「そ……そうすか」


 どこまでも自分に正直なシエルさん。出会って間もないがこの人もかなり変わってるな。幸いと言うべきか、嫌われてるとかそういうのはないみたいだけど。


 そうして俺たちはシエルさんに続いて彼女の家……ライカンスロープ種が多く住む地へと足を踏み入れる事になった。



★ ★ ★


 ――ライカンスロープ種の村。シエルの家


 現在。俺たちはライカンスロープ種の村にあるシエルさんの家に来ていた。

 そこで俺たちがこの国(スプリングレギオン)に来た目的を話せる範囲で明かしたのだが――


「ふーん、ようは王様に会いに来た訳ですかー。それはそれは。遠い所からこんな所までご苦労様です(バリボリッ)」


 説明するように言った本人は床に寝そべり、バリボリと煎餅的な物を食べていた。

 一応俺たちの話には耳を貸してもらえていたみたいだが、その対応はあまりにも雑だった。


「いやー、しかしすみませんねぇ。私の子分たちが失礼な態度を取ってしまってて。でも、仕方ないんですよ。現在、この国では厄介なアレコレが起こってまして。あ、厄介なアレコレっていうのはつまり説明するのも面倒なアレコレです。お馬鹿でチャーミングなところも可愛い私では説明できないくらいに面倒なんですよー(バリボリッ)」


「アンタの態度も中々に失礼だけどな」


 もはや敬語すら要らないだろうといきなりため口な俺だが、特にシエルは気にした様子はない。

 確信した。この人、ダメな人だ。


「なんだか皆さん妙にピリピリしてましたね。おまけに何があったのか聞いても全然教えてくれませんし。おかげでセンカ達、この国に着いてから何の情報も得れてませんよ……」


 しょんぼりと外を眺めながら呟くセンカ。

 確かに。俺たちはせっかく亜人国に着いたと言うのに何の情報も得れていない。

 これをRPGで例えるなら――



『さて、情報を集めるために酒場や町の人間から話を聞くか』と意気込んで色んな人に話しかける。

 ↓

『てめぇに教えることは何もねぇ!!』と言われるだけで何の情報も得られない。

 ↓

 イベントフラグも何もないのでゲームが進まない。



 ――という感じだ。クソゲー確定である。

 とはいえ、これは現実だから返品なんてきかないし、いくら文句を言っても状況は変わらない。



 そんな中、ルールルが口を開く。




「ル? 情報を集めてくればいいんですか? それならルールルにお任せです♪ ラー君、上手に出来たら褒めてくださいね?」


 胸を張り、任せてくださいと自信満々なルールル。

 しかし、それに対して俺は『任せた』とは言えない。

 なぜなら――


「あ、そうそう。情報を集める時、何人か犬さんが廃人になっちゃうかもですけど問題ないですよね?」


「「大ありだよ!!」」


 声を荒げる俺。そして犬さんことライカンスロープ種の族長であるシエル。


 これだからルールルには任せられないのだ。

 ルールルの事だ。どうせ拷問めいたやり方で無理やり情報をかき集めようとしていたんだろう。

 ラスボスとしてならそういうのもアリなのかもしれない。

 だが、少なくとも今の俺達は亜人種を敵に回すつもりもライカンスロープ種を敵に回すつもりもない。そんな無用な争いの種を蒔く必要なんぞ微塵もないのだ。


 という訳で――


「ここでどういう問題が起こってるのかについては少し気になるが……それはそれだ。連中が教えてくれないんならもう放っておこう」


 何かしら問題があろうが俺たちには関係ない。

 一応、疑われた身としては何が起こっているのか知りたい気もするが、連中が教えたくないと言ってるんだ。それならもう放っておこう。


「いいの?」

「いいんですか?」


 そんな俺の決定に対し、ルゼルスとセンカが意外そうな顔で俺を見る。


「なんでそんな意外そうな顔を? だって、俺たちがこの国に来た目的はこの国の王様に会う事なんだぞ? わざわざ面倒ごとに巻き込まれる事もないだろ。向こうも関わってほしくないっていうんならなおさらだ」


「いえ、でも……今までのラース様であれば厄介ごとがあれば迷わず突っ込んでましたよね?」

「そうね」


 二人が言っているのは黒十字の使徒として活動していた時の事だろうか?

 確かに、あの状態での俺は厄介ごとがあれば率先して引き受けていた。神の御使いとして正義の味方ごっこに励んでいたからな。

 だが、あの時と今とでは状況が違い過ぎる。


「別に正義の味方じゃあるまいし。わざわざ面倒ごとに首を突っ込む意味もないだろ」


 そう――黒十字の使徒として活動していたときはあの手この手で教会の権威を落とすために無理やりにでも善行を積み重ねる必要があった。そういう何かの目的があったからこそ俺はあそこまで頑張れたのだ。

 しかし、今はそんな目的など何もない。そもそも俺は元来、見知らぬ誰かの為に頑張れるような主人公ではないのだ。

 そういうのは勇者の仕事。ラスボス好きの俺としてはそんなポジションに収まりたくない。


 それに……だ。もう一つ、俺にはここで厄介ごとに巻き込まれたくない理由がある。

 それは――


「それに、正直俺は亜人の王様に会って目的のアレじゃなかったならそのまま魔人の国に行きたい。考えてもみろよ。アレイス王国とある程度の交友関係にあって内情もそこそこ公開されてる亜人国と実態が完全に謎って感じの魔人国……そんなの魔人国の方が絶対に面白いだろ?」


 ――正直、この国に来た目的なんて王様以外にはないのだ。

 いや、亜人も俺はそこそこ好きだよ? エルフ万歳。ライカンスロープも格好良くて結構好きだ。内心、この村に来てそこそこワクワクしてしまっていた事は否めない。



 だが……この村に居るライカンスロープはとにかく弱すぎた。


 いや、それは少し語弊があるか。


 そう――俺は途中から気付いていたのだ。

 真におかしいのは俺の認識の方なのだと。

 

 俺が今まで見てきたステータスはその殆どが強者だった。

 ラスボスであったり、半分魔人種のセンカであったりだ。


 そういうのを見ていたせいで、俺の目が肥えてしまっていた。これはただそれだけの話。

 あのライカンスロープ達は『Aランク』の魔物と同じ程度にしか動けていなかったが、そもそもの話、『Aランク』の魔物というのは十分に強い部類に入るのだ。

 それと同程度に動けている時点であのライカンスロープ達はこの世界において十分に強い部類に入っていたのだろう。


 しかし、ラスボスで目が肥えてしまった俺にはとてもそうは見えない雑魚だ。

 唯一、族長であるというシエルは俺の想像していた雄々しいライカンスロープにふさわしいステータスだが――


「どうかしましたか? 私の顔に何かついてます?(バリボリッ)」


 今も継続して煎餅のような物を食べているシエル。

 その姿は、俺が想像していた雄々しいライカンスロープとは程遠い。ただのぐうたら姫だった。


「うん、やっぱこの村に用はないな。さっさと王様とやらに会って主人公召喚について何か知ってるか聞くことにしよう」


 シエルのぐうたらしている姿を見て今後の方針を固める。

 しかし――


「ああ、そう言えば言うのを忘れてました。我らが王はとっても多忙でしてね。会うだけでも少し面倒な手順を踏まないといけないんです。例外もありますけど」


 俺の決定に対し、助言のようなものをくれるシエル。

 どうやら、そう簡単に亜人の王様に会えるわけでもないらしい。

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