第6話『ペット誕生?』
俺の決定に対し、助言のようなものをくれるシエル。
どうやら、そう簡単に王様に会えるわけでもないらしい。
「面倒な手順……なぁ。考えてみれば人間種の俺たちがそう簡単に亜人の王様に会えるわけもない……か」
「そうですねー。色々と手続きをしてもらって、それでも会う許可が下りない。なんて事もあるかもしれません」
「なるほど。どこの馬の骨か分からん奴に王様がぽんぽん会うなんて事、あるわけがない……か。――ちなみに例外もあるって言ってたが、それはどういう方法だ? そっちの方が会うの手っ取り早かったり確実だったりするのか?」
そんな俺の質問に対し、ようやくシエルは考えるそぶりを見せ、その例外的な方法とやらを明かした。
「んー、そうですねぇ。私の知り合いのエルフなら会えるように手配してくれると思いますよ? 王様に近しいそれはそれはえらーいエルフさんなんですよ。私の紹介であれば無下にもされないでしょうし、王様に取り次ぐくらいはしてくれるはずです。もちろん、普通に手続きをするよりも早いですし確実ですね」
エルフ。
亜人の一種で、高度な魔法を使う事で有名な種族。
ついでに美しい外見を持つ者が多いという理由で奴隷として希少かつ人気の種族だ。
アレイス王国で正義の味方ごっこをしていた頃、一度だけ奴隷となっている女のエルフを見たことはあるが、あれは確かに美人だった。
もっとも、そのエルフは何があったのかは知らないが極度に人間を恐れていて、奴隷から解放した後も俺に対して怯えるばっかりだったので後の事は勇者君に丸投げしたが。
「エルフ……ねぇ。少し興味もあったしいい機会か」
一度、この世界の普通のエルフとやらを見てみたい。
そんな思いもあったので、いい機会と言えばいい機会だ。
亜人の王様に会わなければいけないのは確定事項なのだし、それに際して必要だと言うのなら仕方ない。エルフさんとやらに会いに行こう。
「えー、ラー君。もしかしてもうこの村を出ちゃうんですかぁ?」
エルフさんに会おうと決めた俺だが、なぜかルールルはこの村から出るのが嫌なようだ。なんで?
「ん? そのつもりだったけど……何か問題があったか?」
「大・問・題ですよー。私、まだ犬さんをもふもふしてないんです! ねぇ、ラー君。ちょーっとだけ席を外してもいいですか? ちょっとそこらへんに居る犬さんを可愛がってあげようと思います。あっ、そうです! ペットとして一人くらい同伴させてもいいですか?」
「んー、そうだなー」
「お願いしますよぉラー君。きちんと餌もあげますし、壊れるまではきちんと大事に育てますからぁ」
考えるそぶりを見せながら――俺は許可すべきか真剣に迷っていた。
ルールルを好きにさせれば確実に廃人と化し、尊厳を丸ごと奪われたライカンスロープこと犬さんが俺たちのペットとなって付いてくるだろう。正直、亜人との関係を加味してもそれはとてもよろしくない。
しかし、ここでルールルを否定するのもそれはそれで少し気が引ける。
っていうか、俺たちはライカンスロープに謎の因縁を吹っ掛けられた訳だし、ちょっとくらい報復してもいいんじゃないか?
ルールルは俺が永続召喚して以降、ずっと俺に尽くしてくれている。こんな時くらい、わがままを許してやるべきなんじゃないか?
という訳で。
「よし、いいぞ。あ、ペットにするなら俺たちを襲ってきたあの犬さん三匹のどれかにしなさい」
「ルゥ♪ さっすがラー君。だから好きです♪ それじゃあルールルはちょっと外に出ますね? すぐに調教して連れてくるので待っててください♪」
そうしてルールルがスキップしながら外に向かい――
「待ってくだ――」
「待ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
しかし、それを悲鳴をあげながらルールルの手を掴むシエルによって阻まれる。
センカも遅れて影を伸ばしてルールルを止めるが、それよりシエルの方が早く、かつ鬼気迫る表情でルールルを引き留めていて少し驚いた。
「はぁ……はぁ……いや、ホント待って。それだけは頼むから……げほっごほっ――」
「えと……こほん。まったくラース様は……ラスボスさんに対して少し甘すぎませんか!? ルールルさんもルールルさんですよ! そんな滅茶苦茶な事をしたら絶対に亜人さん達から敵視されちゃいますよ!?」
咳き込むシエルを一瞬心配するような素振りを見せながら、センカはルールルに対して正論を叩きつけていた。
いや、まさに正論。その通りだ。ルールルがライカンスロープをペット化……もとい奴隷として連れ歩いたりなんてしたら確実に俺たちは亜人たちから敵視されるだろう。
もちろん、俺だってそれが得策だなんて思っていない。
ただ……俺に対していつも献身的なルールルにおねがいされたのでついつい許可を出してしまったのだ。
うっかりってやつだね、うん。
センカの言う通り、俺はラスボスに甘いからなぁ(サーカシーなど一部のラスボスは除く)。こればかりは仕方ない。
しかし、そんな俺の言い訳はともかくセンカの主張が正しい事には変わりない。今後の事を考えたらここで亜人達との関係性を悪化させるのはとてもマズイ。
とはいえ、一度許可を出したのに今更やっぱダメとは言いにくい。
なので――
「………………」
俺は……何も言わずに静観することにした。
その後もセンカとルールルの口論は続く。
「ルゥ? 亜人さん達から敵視されちゃうですか……。それ、何か問題ありますか?」
先のセンカの正論に対し、それのどこに問題があると問い返すルールル。
「えぇ……」
これにはセンカも絶句。
センカは心優しき少女だ。争いごとを好まず、平穏を愛している。
だからこそトラブルには巻き込まれたくないし、誰からも敵視されないように生きていたいと考えている。人間として、ごくごく普通な考え方だ。
しかし、ルールルはそれとは真逆。対極の位置に存在している存在だ。
決して死ねない自分を殺してくれる誰かの存在を求め、殺戮の日々を彼女は送っていた。
好き勝手に生き、好き勝手に他者を殺め、死ぬまで自由に生きる。それがルールルの生き様だ。
そんな彼女が『亜人達から敵視される事』を問題視するわけもない。
よって、両者が分かり合う事は決してない。平行線だ。
要はどちらが折れるか。この対立はその形でしか終結しないだろう。
最悪、戦闘にまで発展するかもしれない。
さすがに身内で争い合うような事態になりそうなら俺も止めるが――
俺はルゼルスに目配せして、いざとなったらルールルを止められるように意識を切り替える。
その時……意外な人物が両者の間に割って入った。
ライカンスロープ種が族長――シエルだ。
彼女はルールルに対し、苦虫を潰したような表情で語りかける。
「うぐ。むぅ……。し、仕方ありませんね……。ペットは勘弁ですが、もふもふするだけならば……私にしてくれてもいいですよ」
「ルゥ♪ 本当ですか?」
パァっと表情を明るくするルールル。
それとは対照的に死んだような目のシエル。えと……なんかうちの
その後……シエルはしばらくルールルの
「ルルルゥ♪ 柔らかいです。暖かいですぅ。くんくん。すぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
「あぁぁ。や、ちょっ、やめてください。なんだこれ……やばっ、なんか目覚めそう――」
目の前で繰り広げられている百合展開。え? なにこれ? どうしてこうなった?
中身はともかく、外見は美少女な二人。それらが奏でる
「なんでだろう? 普通に興奮するべき場面だと思うんだが……ちっとも興味が湧かない。なんでだ?」
センカとルゼルスがあそこまでとはいかなくてもよく二人で仲良さそうにしているのを見ているから……か?
いや、何か違う気がする。
どうにもルールルとシエルのやり取りを見ていると違和感を覚えてしまうのだ。
言葉にはできない程度の違和感が形になる事はない。
そんな事を考えている間も、シエルはルールルにずっと弄ばれ、ルールルが満足するまで解放されることはなかった――
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