第3話『手加減』
鋭い爪を構え、こちらに襲い掛かってくるライカンスロープ三人組。
戦闘経験はそれなりに積んでいるらしく、三人は怒り狂いながらも連携を駆使してこちらへの距離を詰めていた。
戦闘の巧さだけ挙げれば力押しオンリーのセンカを上回るだろう。
だが――
(お……遅すぎる……)
肝心のスピードがお話にならなかった。
なんというか……これまで戦ってきたダンジョンの主とかに比べると遥かに遅い。それこそ、『Aランク』の魔物と同じくらいの
(これは……身体強化の魔術を使う必要もなさそうだな。今の俺どころか以前の俺でも普通に相手できるレベルだし)
俺は高く跳躍し、一番後ろに控えているライカンスロープに狙いを定める。
後衛を叩いたほうが相手の虚を受けると思ったからだ。
しかし――
「なっ!? 消えたやと?」
「透明化の魔法か?」
「馬鹿が。ライカンスロープの嗅覚と聴覚を甘く見るなよ!!」
なんと、俺が飛び上がっただけで相手は大混乱。
透明化の魔法を使った? いえ、ただ飛び上がっただけです。
それなのに相手は俺の姿を見失ったらしい。流石はライカンスロープの嗅覚と聴覚(笑)である。
そうして匂いを嗅ぎ取ったのか、風の切る音でも聞こえたのか知らないが三人のライカンスロープ達は数瞬遅れて空を見上げ――
「「「…………………………………………上か!!」」」
「正解だけど……遅ぇよっ!!」
俺は着地と共に後衛に居たライカンスロープの後頭部に軽く裏拳を当てる。
「ぶげらぁぁぁっ!?」
「「ライルゥゥ!!」」
「あ、やべ。加減を間違えた」
盛大に吹き飛んでいくライル君という名のライカンスロープ。
彼は飛んで行った先の木にぶち当たり崩れ落ちる。
当然と言うべきか、起き上がる気配は微塵もない。
「て、てめぇ……よくもライルを……」
「やっぱりてめぇが最近ここらを騒がしてる元凶か。そうやって生け捕りにして俺たちも売り飛ばすつもりなんだろう? この奴隷販売人がぁ!!」
なんだか物凄い誤解を受けている。
いや、まさか軽く意識を断てたらいいなぁと思って放った裏拳があそこまで威力を発揮するとは……。――っていうかアレ、生きてる?
ウルウェイを永続召喚してから初めての実戦。いきなりステータスが跳ね上がったものだから加減が難しい。
ちなみに今の俺のステータスはこんな感じだ。
★ ★ ★
ラース 16歳 男 レベル:99(MAX)
種族:人間種
HP:13975/13975
MP:152341/上限なし
筋力:13341
耐性:12113
敏捷:12640
魔力:26519
魔耐:37817
技能:ラスボス召喚・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収・魔術EX・炎属性適性・闇属性適性・魔力操作・
★ ★ ★
俺のステータスは以前と比べほぼ全ての数値が思いっきり跳ね上がっていた。
ウルウェイのステータスの10%が上乗せされただけではこんな数値にならない。
そう思って軽く計算してみたのだが、どうやら俺が今までに永続召喚したラスボスステータスの約30%が上乗せされているっぽい。
おそらく、ウルウェイが俺の限界を突破させた影響だろう。
正直、一気に強くなってしまったので俺自身も戸惑っている。
さて、ここで問題です。
まだこのステータスにも慣れておらず、手加減がうまく出来ていない俺が貧弱すぎるこいつらと戦ったらどうなるでしょうか?
答え……高確率で悲劇が起こる。
そうと決まればやることは一つ。
俺はライカンスロープの二人に対し、思いっきり
「いや、待て。そうだ、話をしよう。俺も少し混乱してるんだ。いや、もうホント勘弁してください。争いはよくない。争い、ダメ、絶対」
これ以上戦うとなると加減できずに思わず
そういう意味で本気で勘弁してほしかった。
だが、そんな俺の言葉に引くライカンスロープ達ではなかったらしい。
「ざっけんなぁっ。仲間が一人やられたんだ。ここで引き下がれるかよ」
「ああ、そうだ。その通りだキレス。ここで引く事は俺たちの……ライカンスロープの誇りに泥を塗る行為だ。例え相手が強大だとしても、退くことなどできようはずもない!!」
まるでどこぞの主人公のようなセリフを吐いて俺と対峙するライカンスロープ二人。
どうからどう見ても相手側に勝ち目はないのだが……どうやらこの世界のライカンスロープ種は誇りを大事にしているらしく、退く気配が全くない。
それこそ、死ぬまで立ち向かうぞという気迫を感じる。
さて……どうしたものか。
亜人国に入っていきなりのゴタゴタ。入国してすぐに事を荒立てたくないからもっと穏便に済ませたいのだが……。
そう俺が頭を悩ませているとき……それは現れた。
――ドスンッ
対峙している俺とライカンスロープの間の地面に、大剣が突き刺さる。
かなり大きな大剣だ。俺の身長と同程度の長さの大剣。見るからに重そうで、並みの者では持ち上げることもできそうにないひと振り。
そんな物が横合いから飛来してきたのだ。これは……一体何が?
「これは……来たか……」
「ああ。来た……」
来た……来たと連呼するライカンスロープの二人。
二人は大剣が飛来してきた方向を見つめている。
俺もそろに
性別こそ違うが、彼女も男達と同じくライカンスロープなのだろう。人間にはない獣耳や尻尾がその証明だ。
無造作に伸ばされた銀髪。
気だるそうな目で自身の投げたであろう大剣を見つめ、こちらにゆっくり歩いてくる。
「「アネさぁん!!」」
まるで救世主の到来を祝うかのように先ほどまで対峙していたライカンスロープ二人が現れた女性をアネさんと呼ぶ。
察するにこの二人の姉貴分という感じだろうか?
しかし――
「はぁ…………」
現れたその女性はため息をつくだけ。
彼女からはやる気といった物を微塵も感じられない。この二人の助っ人に来たにしては少し妙だ。
そうしてジーっと見ていると意外と整った身体をしているなーなんて思ってしまった。
すらりとした手足。程よく付いていると思われる筋肉。そうして出ている所は出ている胸部。少なくともルールル以上はある。
本人がおしゃれなどに興味がないのか、髪などはただ伸ばしただけという感じだが、その辺りのケアをクリアすれば普通にアイドルで通用しそうなレベルの女性だった。
やがて、彼女は自らが投げた大剣の元へとたどり着く。
そして――
「よっと――」
その重そうな大剣を……軽々と片手で持ち上げたぁ!?
「すっげ」
思わずそう呟いてしまう。
もっとも、今の俺の筋力であれば同じような事は出来るかもしれない。
だが、華奢な彼女が武骨で巨大な大剣を軽々と扱うという光景というのは……それだけで迫力がある。
それに俺は圧倒されてしまったのだ。
大剣を手に取った彼女はゆっくりとそれを片手で振り上げる。
そうして――――――勢いよく振り下ろした。
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