第2話『弱すぎる』


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「くすくす。よくもまぁあれだけ動き続けられたものね。まぁ、さすがに限界みたいだけれど」


「はぁ……はぁ……なんで……ルゼルスさんは……はぁ……そんなに元気なんですか?」


「私は基本的に一人で色んな敵と戦っていたから、それで自然と体力がついた感じかしらね。ただ、不死の肉体を持つ私と比べない方が良いと思うわよ?」


出鱈目でたらめじゃないです……かぁ」


「くすくす、そんなの今更じゃない。あなたが達しようとしているのはそんな出鱈目でたらめだらけのラスボスの境地よ? まぁ、一日二日で体力がついたり急激に強くなれる訳でもあるまいし。あなたはあなたのペースで頑張りなさい。さぁ、疲れたでしょうからゆっくりなさいな」


「むぅ……」


 そんなほのぼのとした会話を交わしているルゼルスとセンカ。

 センカは動いてばかりでさすがに疲れたのか、ルゼルスに膝枕してもらっていた。


 そんな百合百合しくも尊く感じられる場面。

 美少女二人が寄り添っている絵は絵画に収めたいくらいに綺麗だ。 


 しかし……彼女たちの周囲はそれに反して大変なことになっていた。


「なんていうか……台風でも通り過ぎたみたいになってるな」


「正確にはそれ以上。台風が通り過ぎただけでこんな惨状にはならない」


 俺のつぶやきに対して正確無比なコメントをするチェシャ。

 そんな俺たちの目の前には、原形が留まらないくらいに切り刻まれた木々やら、鋭い斬撃の跡が残る地面……等々。とにかく破壊の傷跡が色濃く残っていた。


「ル? そうですか? ルールルは前からこんなんだったような気がしますよ?」


「お前の見てる世界はどうなってるんだ……と聞いてはみたものの、聞くの怖いから説明してくれなくていいや」


「ルゥ、残念です」


 どう見ても以前とは変わりまくった森の風景を変わっていないと評するルールル。

 ゲーム内で狂気に満たされていたルールル。彼女の視点から見ればこの程度の破壊なんて無いも同然の物なのかもしれない。


 そう自分を無理やり納得させた時だった――



「こっちからだ!」

「ああ、物凄い爆音が何度も聞こえてきた。もしかしたらここに――」



 見知らぬ男たちの声が聞こえる。

 程なくしてそいつらは姿を現した。


 声の主は三人組の男性だった。

 いや、男性というより雄というべきかもしれない。

 なにしろ、俺たちの目の前に現れた奴らは半分人間ではなかったのだ。


 鋭く伸びた爪と牙。

 頭頂部に存在する獣耳。人の身では絶対にあり得ないもの。

 最後に、飾り物ではないと示すかのようにピクピクと動いているもふもふな尻尾。


 そう――俺たちの目の前に現れたのは三人の亜人だった。

 亜人の種別としては……狼男と言ったところか。

 三人ともガタイがよく、強そうに見える。


「あぁ? なんだ、人間じゃねぇか」

「人間がこの忙しい中なんの用だ!? あぁん!?」

「さっきの騒音はてめぇらの仕業か? 怪しいな。知ってることを洗いざらい吐いてもらおうか!!」


 彼ら狼男ズ(仮命名)と俺達は初対面だと言うのに、向こうはいきなり喧嘩腰だ。

 んー、おかしいな。確か亜人の国(スプリングレギオン)と人間国(アレイス王国)は友好関係とかだったような?


 なのになんだこれ。いきなり険悪な雰囲気になったのだが……どゆこと?


「わー、見てくださいラー君。狼男さんです。ルールル、初めて見ましたよ。触ってもいいですか? 特に尻尾とかもふもふしたいです」


「ルールル。頼むから今の険悪な雰囲気を察してくれ。そんなお願いが通りそうな雰囲気なんてどこにもないから。これ、もういつ戦闘になってもおかしくない雰囲気だから」


 ある種、いつも通りすぎるルールル。彼女はわざとやっているのか空気を全く読もうとしない。俺も空気は読めない方だと自負しているが、ルールルはそれ以上の逸材だ。



「ル? ダメですか? ちょっと息の根を止めてから触るくらい――わぷっ」


「よーしよしよしよし! 頼むからルールルは黙っていようなー。いい子だからお願いなー!!」


 あまりにも物騒な事を口走ろうとするルールルの口を無理やりふさぐ。

 ああそうだった。ルールルはラスボスで、人を殺す事になんの躊躇ためらいもないもんな。

 それこそ尻尾を触りたいという動機から『じゃあ殺して動けなくしてから触ろう』と息を吸うかのように実行に移せちゃうような奴だったよ!


 そうしてなんとか物騒な口を防げたと安心する俺だったが。




「なんじゃワレェ!? 今俺らの息の根を止めるとか言わんかったかぁ!?」

「俺らライカンスロープは脆弱な人族なんかより数百倍も耳がいいんだよ。ハッキリと聞いたからなぁ!!」

「逆に俺たちが息の根を止めてやらぁ! 一人死ねば他の奴らも口がかるくなるだろうよぉぉぉ!!」


 ……さすが狼男、もといライカンスロープ。とてもお耳が良いようで。

 これは……さすがに言葉じゃどうしようもなさそうだなぁ。


 俺はため息を吐きながら、三人のステータスを見るべく鑑定の技能を発動させる。


「鑑定――ステータス閲覧」


そうして俺の目の前に三人のステータスが現れ――


★ ★ ★


 ライル・ダガルド 21歳 男 レベル:23


 職業クラス:モンク


 種族:亜人種


 HP:953/953


 MP:876/876


 筋力:771


 耐性:597


 敏捷:818


 魔力:32


 魔耐:22


 技能:格闘術LV3


★ ★ ★


「え? ちょっ、こいつら弱すぎでは……ハッ!!」


 他の二人もこれと似たようなステータス。

 それを見た俺は思わず本音を零してしまった。


 言った後にやらかしたと口を押さえるが、もう遅い。

 三人とも、顔を真っ赤にして怒り狂っていた。そりゃそうか。



「お、俺らが弱すぎやとぉ? 誇り高きライカンスロープである俺らの誇りを汚すとはえぇ度胸してるやんけワレェ!!!」

「俺達が弱いってんならてめぇの強さを示してもらおうかぁ!! 話はそれからだぁ!!」

「ぜってぇ殺す!! 本当は殺すつもりはなかったがもうキレちまったぜオレァ!!」


 怒り狂った三人はライカンスロープ種ゆえなのかかなり好戦的なようで、問答無用と言わんばかりに鋭い爪を構えて襲って来た――

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