第63話『永続召喚Ⅲ』


 ――というわけで、俺は限定召喚を使用してウルウェイに『永続召喚するけど良いか? それと、永続召喚した後も俺の力になってくれるか?』と問い、ウルウェイから『良かろう。己は貴様の邪魔になるような事はせん。この力……貴様の利となるよう、そして人々の為に使わせてもらおう』との言質を取る。

 


 準備は全て整った。

 さて――やるか。



「それじゃあ行くぞ……。永続召喚。対象は――ウルウェイ・オルゼレヴ」


『イメージクリア。召喚対象――ウルウェイ・オルゼレヴ。

 永続召喚を実行――――――成功。

 MPを100000消費し、不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴを永続召喚します』


 そうして――――――かの魔人、ウルウェイ・オルゼレヴが召喚される――――――



 漆黒の軍服に身を包む精悍せいかんな顔つきの男。

 男は様々な武具をその身に纏っていた。

 背中には斧と大剣。

 腰には数本の刀やら鎖鎌まで据えている。

 それはさながら、全身が武器であるかのようだった。


「ふんっ――」


 召喚されたウルウェイはその金の眼で俺たちを一瞥いちべつするだけして、何も言わない。


 そんな中――お決まりのアレがやってきた。


『――ウルウェイ・オルゼレヴの永続召喚に成功しました。

 以後、召喚者が死亡しようとも永続召喚は継続されます。

 被召喚物が完全なる死を迎えた場合のみ永続召喚は終了します。その場合、再召喚は出来ません。

 ――――――永続召喚ボーナスを獲得しました。

 召喚者には永続召喚した被召喚物のステータスの10%が付与されます。

 召喚者は永続召喚した被召喚物の技能の一部を獲得します。

 ※憑依召喚と異なり、永続的に肉体の機能を変化します。

 その為、召喚者はしばらくの間、身動きが取れなくなります。ご了承下さい』


 永続召喚を成功させたことによるボーナス。

 それによって肉体を強制的に強化させられる。その痛みが俺を襲う。

 しかし――


「ん? 今回はそれほど……だな?」


 ルゼルスとルールルの時はまともに動けないくらいの痛みが俺を襲ったというのに……今回はそれがない。

 いや、痛みは襲ってきているのだが、それもせいぜい軽い筋肉痛の際に感じる痛みという程度だ。


 そうして不思議がっている俺にウルウェイが声をかけてくる。


「痛みが少ないのも当然だろう。貴様は既に肉体を二度も強化させている。更には先日、その力を存分に使って戦闘を行っただろう? それによって貴様の肉体はある程度の無茶が出来るようになったのだ。人間の進化に限界はない。人間、諦めなければなんでもできるものだ」


「なる……ほど?」


 ウルウェイの少し無理のある気がする理論展開に一応納得の意を示す俺。

 だけど『人間、諦めなければなんでもできるものだ』という点。ゲーム内で人間を全力で信じる彼がよく言ってたセリフだが、それにだけはちょっと共感できない。無理な物は普通に無理だと俺は思う。


「さて――ではさらばだ」


 そうしてウルウェイは俺たちの前から颯爽さっそうと立ち去って――


「いやいやいや待てい」


 俺は颯爽と立ち去ろうとするウルウェイの腕を取って引き留める。


「なんだ?」


「いや、なんだじゃないよね? これから俺たちは一緒に行動するんじゃないの? ほら、ウルウェイも俺の力になってくれるみたいな事を言ってた……よな?」


「ふむ……確かに言ったな」


「なら――」


「だが、貴様らと行動を共にするとは一言も言ってはいない。俺はきょを嫌悪する。ゆえにうそはついていないぞ? 貴様の邪魔はせん。貴様の利となるように行動してやる。だが――俺の行動を制限することは決して許さん。俺にはこの人間の国でやるべきことがあるのだ」



 かなり面倒くさい事を言い出すウルウェイ・オルゼレヴ。

 いや、ある意味ラスボスらしいというか、彼らしい理論展開だが……これはどうしたものか。


「……一応聞いておきたいんだが、この人間の国でお前がやるべきことって?」


 とりあえず俺は彼が何をしようとしているのか聞くことにした。

 ウルウェイは重々しく頷き、その詳細を語る。


「うむ、まずはこの国にある冒険者ギルドのレベル引き上げだな。どの冒険者も揃って貧弱に過ぎる。そもそも、精神が軟弱すぎるのだ。ゆえに……己が奴らを一から鍛えなおす。そしてこの国に残った数少ないダンジョンと魔物を全て滅してくれよう」


 それ……ウルウェイが元のゲーム世界でやっていたこととほぼ同じなような?

 俺が何を考えていたのか察したのか。ウルウェイは続けて言う。


「なに、ゲーム時代の己は性急に過ぎた。ジェストの言う事も今なら理解できる。いかに人が素晴らしい種とはいえ、個々人には成長限界というものがある。そもそも、全ての人間が戦闘に秀でている必要などないのだから全人類に自衛の術を身に付けさせるという考え自体が間違っていたのだ」


 ウルウェイがゲーム時代の自身の事を間違っていたときっちり認める。

 ちなみに今ウルウェイが言った『ジェスト』というのは彼が登場したゲーム『シルバー・ファンタズム』の主人公の名前だ。最終決戦でウルウェイを下した男の名である。


「人と言う種は、死ぬ気で鍛錬せねば己の限界を越えられない。進化など夢のまた夢だ。己はそう考え民衆に過酷な訓練を強いたが、その覚悟もない民衆にその境地での訓練を強制するなど『死ね』と言っているようなもの。あぁ、己は己を基準に物事を考えてしまっていたのだ。ゆえに――その反省を生かした上で、己は『人類強化計画』を破棄し、新たに『冒険者強化計画』を実行する!!」


「そう来たかーー」


 ウルウェイ・オルゼレヴは元々統治者であり、その際に全ての人々に過酷な試練を与えまくって守るべき国を壊滅させかけた。

 その失敗を生かし、似たような計画をこの国で行う。それがウルウェイのやるべき事というわけか……。


「既にテラークという冒険者は強化済みだ。まずは奴への訓練を基本メソッドとして、希望する冒険者にのみ強化を施す。本音を言えば希望者のみならず、戦う事を生業としている冒険者には全員強化を施したいがな。だが、己にはやりすぎる傾向があるという事は既に自覚した。ならば物足りないが、このくらいから始めるのが良いだろう」


「ほう――」


 俺の記憶を得て客観的に自分を捉えたのか。結構まともな事を言っている気がするウルウェイ。

 というか、こいつが三年前にテラークさんの地獄のスパルタ特訓を課していたのはそういう事を考えての物だったのか?


 ……あり得る。

 このウルウェイ。言ってることは無茶苦茶だしやる事も無茶苦茶。

 そして死ぬ気でやれば物理法則すらも人間は超えられるというとんでもな思考をしているというのに、設定ではかなり頭のキレるラスボスって事になっているからなぁ。


「まぁ、無茶しないのなら色々やってくれても俺はいい……のか? いや、でも一応王様に報告するまで大人しくしてもらった方が――」


 さて、どうするべきか。

 そう思考を巡らせる俺にウルウェイは『ああ、そうだ――』と今思いついたという感じの仕草と共に俺の額を指でチョンと突ついた。


 瞬間――俺の目の前に例のメッセージが再度表示される。


『エ■ー発■。■ラ■■生

 存■許■量を■■■■するス■ータ■が■生■Cに■与。

 ■給を■■ッ■――――――失敗。

 ■■■切■――――――失敗。

 ■■の安■■――――――成功。

 召■者には永■召喚した被■喚物のス■ータスの30%が付与■れます。

 召■者は永■召喚した■召喚■の技■の一部■獲得します。

 ※憑依■喚と異■り、永続的■肉■の機能■変化し■す。

 ■■為、召■者はし■らく■間、身動き■取れな■なり■す。ご■承下さ■』


 ――否。いつものとは違う。

 理由は分からないが、かなり文字化けしている。

 これは……一体?


 などと呑気に考えている時間は一瞬しかなかった。


「ルゼルス・オルフィカーナ。ラースに回復魔術を行使するがいい。ルルルール・ルールルも何か痛みを和らげるルールを生み出せるのなら生み出しておいた方が良いだろう。さもなくば……ラースは死ぬかもしれんぞ?」



「え?」

「ル?」


 ウルウェイに声をかけられたルゼルスとルールルが揃って首を傾げた後――それは来た。


「――――――あ、――――アッガッ――――――イィ――――――」


 俺が今まで味わってきた痛み。それらを軽く上回る激痛が俺を襲う。

 一瞬で気を失ってもおかしくない程の激痛。

 これは――――――シャレにならない。


「ラース様!?」

「な!? ラース!? くっ……」


 センカが俺を支え、そんな俺をルゼルスが回復魔術で癒してくれる。

 とはいえ、この痛みはおそらく永続召喚によって体が作り変えられている痛みだ。

 いくら回復の魔術をかけてくれても激痛が俺の身を襲うのは変わりない。


 ただ、回復魔術には痛み止めのような効果もあるのか、襲ってくる痛みが格段に和らいだ。今までの永続召喚の後の痛みよりも少し痛いかな? 程度の痛さだ。いやまぁ、それでもかなり痛いから身動き一つ取るのも辛いし喋るのも無理って感じなんだけど。


「――ダメね。私の回復魔術だけでは効果が薄い……。ルー! 何か痛みを和らげるルールは生み出せないの?」


「ん~~~~~~。無理ですね」


「どうして?」

「どうしてですか!?」


「え~~だって~~。今、この場で痛みを訴えているのはラー君だけじゃないですか。この場で痛みを和らげるルールを生み出す事は平等じゃありません。そうルールルは思ってしまっているので平等を強いるルールは機能しないんですよ。それと、ルールルはラー君を愛してますから、そのせいで余計に平等って概念が薄れちゃってるんですよね~~♪」


 何やらルールを作成するにはルールルにしか分からない制限がある模様。

 そんな俺たちの様子を見ながら、ウルウェイ・オルゼレヴは口を開く。


「ルルルール・ルールルの能力は使えないか。まぁ、それでも貴様は己が認めた男だ。このような場所で死ぬわけがない。耐えるがいいラース。そうして痛みを乗り越えた先でこそ人間は輝くのだ。今の痛みを乗り越えた時、貴様は更なる力を手に入れているだろう」


 更なる……力?

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