第62話『永続召喚するのは――』


 昨夜――俺はルゼルスとセンカを自身の恋人にした。


 ちなみに、ルゼルスとは結婚しようという約束を前に交わしていたのだが、これから人間の国であるアレイス王国を出ると言うのに結婚というのはどうなんだろう? という意見が出て結婚は先送りになった。


 まぁ、そもそも俺もルゼルスも結婚願望なんて微塵もないのだし、正直気にしていない。俺が欲しかったのはそんな戸籍とかじゃなく、ルゼルスの想いだったしな。結婚とか正直どうでも……よくはないけど後回しでいいのだ。


「という訳でだ。さて――準備したら行くか」


「はい」

「ええ」

「ルー♪」

「……(コクッ)」


 目指すは亜人国。

 国境を超えるなんて初めてだが、この面子ならなんとでもなるだろう。



「あ、でも――」


「? どうしたの、ラース?」


「いや、永続召喚のMPが貯まってるからさ。もう少し誰を召喚するのか考えてから召喚しようかと思ってたけど……ここから先は未知の領域だろ? なら、安全が確約されてる今のうちに永続召喚した方がいいんじゃないかと思ってさ。ほら、永続召喚したら……多分だけど俺、しばらく行動不能になるだろうし?」


 亜人国の内情がどうなっているのか、少しだけだがチェシャに聞いた。

 お世辞にも治安が良いとは言えないようで、亜人国と言っても、全ての亜人が仲良しこよしで暮らしているなんて事はないらしい。


 様々な種族が対立している中、件の亜人国の王様がなんとか内輪で本格的な戦争にはならないよう立ち回っている……というのが今の亜人国の現状とのことだ。


 亜人国に行って常に戦乱の中に身を置く……なんて事にはならないと思いたいが、入国してしばらくは気が休まらない状態になる可能性は十分にある。


 ならば、安全が確約されているアレイス王国内にて、仲間達と万全の状態で永続召喚をするべきなんじゃないかと――そう思ったのだ。


「ああ……そうね。あなたは放っておいてもMPが余っていたらとんでもないタイミングでとんでもない奴を召喚しそうだし……うん。いいわね。そうと決まれば今ね。ほら、さっさと永続召喚してしまいましょう。私はサーカシー以外なら誰でもいいわよ?」


 俺の考えを聞いて、少しだけ考えたルゼルスがそんな事を言ってくる。なんともまぁ信用がない事だ……いや、これはある意味信頼されてるのか? ダメな意味でだけど。


「んーー。まぁ、ここで止めてもラース様はいつか絶対に永続召喚しますからね。それならみんながきちんと見てる今のうちに永続召喚してくれた方がいいかもです」


 ルゼルスの意見に同意するセンカ。残念ながら俺の味方は不在らしい。


「うーん。新しいお仲間さんですか~。仲良くできるよう努力しますけど、ルールルには少し難しいかもしれません」


 ルールルはこう言っているが――問題ない。



「そこは安心しろ。残ってるラスボスはどれもこれも問題児しか居ないからな。正直、俺も仲良くできるかなんて分からん」


「あはは~。ラー君、それ全然安心できないよ~」


「あっはっは。そうだな」


「くすくす、そうね」

 

 そうやって笑いあう俺達――


「ちょっと待ってください!!!!!」


 ――に待ったの声をかけるセンカ。

 彼女は頭を抱えながら、確かめるように尋ねてくる。


「えっと……ラース様、少し聞きたいんですけど……残ってるラスボスさんと言うのはここに居るルゼルスさんとルールルさん以上に問題児という事で良かったですか?」


「ああ」


 俺がそう答えた後、ルゼルスやルールルがセンカに酷いわねと軽く非難するがセンカはそれらを無視。

 そうして迷った彼女は――


「そ、そうです! リリィ師匠とかはどうですか? センカはあの人、常識人かなって思うんですけど」


「リリィさんか……」


 まぁ、確かにセンカからすれば彼女は常識人であると感じられるだろう。

 だってリリィさんって……究極的なまでに兄想いなのを除けばそこそこ常識的な人だもんなぁ。

 だが――


「却下だな」


「え゛? なんでですか!?」


 俺の決定に異論ありありな様子のセンカ。

 そうか……分からないか。

 なら教えるしかあるまい。


「あのな、センカ……リリィさんは超ド級の兄想いキャラなんだよ」


「? ええ、はい。それは知ってますよ? センカとの修行の時、いっぱいお兄さんの話をしてくれますし。でも、それがどうかしましたか?」


 ああ、そうか。

 センカはリリィさんの事をただの少し兄想いな妹さんとしか把握していないのか。

 だが――リリィさんはそんなに甘くない。


「ああ、すごく関係ある。断言するぞセンカ。リリィさんは間違いなく永続召喚なんて望んでないし、仮にあの人を召喚したとしても、あの人多分俺の言う事なんか聞かずにずっと影の中で寝てるぞ。いや、それだけなら邪魔にならないからまだいい。最悪――」


「ねぇラース」


 俺がセンカにリリィさんを永続召喚することについてのデメリットをあげている中、ルゼルスが口を挟む。


「どちらにせよリリィを永続召喚するのは無理じゃないかしら? あなた、彼女の兄が現れた時にリリィを永続召喚すると契約を交わしたでしょう? あれ、逆に言えば彼女の兄が現れない限りリリィを永続召喚出来ないという事ではないの?」


「……確かに」


 そういえばそんな内容の契約だったか。

 つまり、どちらにせよリリィさんを永続召喚するのは不可能だったって事だな、うん。

 センカが『そんなぁ』と言って嘆く中、俺は誰を召喚すべきか思考を巡らせる。


 残り候補はリリィさんとサーカシーを除いて六人……。


 残る六人。軽くここでその危険性と有用性……メリット&デメリットを考えてみよう。



 ・まずは一人目、悪の断罪人、斬人きりひと


 全ラスボスの中で極めて攻撃力が高く、悪に対して特攻を持つ。

 正直、かなり強いのでこれ自体が召喚するメリットだろうか。

 デメリットはかなり危ない思考の持ち主で、悪に対して容赦しない奴だという事。

 現状、奴とは何度か限定召喚にて会話を試みているものの、一度もまともに会話が出来ていない。



 ・二人目、不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴ。


 平均的な能力値のラスボスで、それゆえに隙がないラスボス。行き過ぎた正義を行使する男。

 召喚するメリットは、悪事には確実に加担しない事……だろうか。

 デメリットは、正義を為す為とはいえ何をしでかすか分かったものじゃない……って所かな。



 ・三人目、果てなき強さを求める者、ココウ。


 召喚するメリットは……一応だけど俺の指示に従ってくれる可能性があるところ……か?

 デメリットはハッキリしてる。あいつはテンションが上がると絶対に勝手な行動をとる。最悪の場合、あいつを永続召喚してしまったらそのまま俺と決闘しようという話になってしまう気がする――等々だ。正直、メリットよりもデメリットの方がでかい。



 ・四人目、悲劇の演出者、シュランゲ・ボルスタイン。


 召喚するメリットは彼が俺を主として認めていて、きちんと指示に従ってくれる……と彼自身が言っている所か?

 その能力もかなり優秀で、ボルスタインは相手の思考が読めるから敵の罠や不意打ちを防ぐのにもってこいのラスボスだ。

 ボルスタインを召喚するメリットは結構ある。しかし、デメリットもでかい。


 なにがヤバイってこのシュランゲ・ボルスタイン、ゲーム内で多くの者をその謀略によって不幸にしているのだ。

 悲劇を演出するため、言葉巧みに近づいて相手を破滅させる系のラスボス、それがシュランゲ・ボルスタインだ。


 正直、そんな彼の裏をかけるだなんて微塵も思えないし、かといって俺は彼の玩具おもちゃにはなりたくない。

 いくらボルスタインが役立ち、表向きは俺の言う事を聞いてくれるのだとしても、それで行く先々で悲劇を演じさせられるのは御免被る。


 もちろん、ボルスタインが言う事が全て本当で、ボルスタインが心底俺を主として敬愛している可能性もあるにはあるが……正直、全く信用できない。

 謀略を企てまくっていたラスボスさんにいくら褒められようが、それであっさり信用するほど俺はお気楽じゃないのだ。



 ・五人目、秩序の支配者、クルベック・ザ・グロステリア。


 巨大ロボットを手足のように使う魔人。

 彼を召喚するメリットは……派手な戦闘を見れる事?

 デメリットはハッキリしてる。戦闘がかなり派手になってしまう事だ。

 なにせ、操るのが巨大ロボットだからな。少なくとも隠密活動なんかの際には役に立つどころか足を引っ張る系のラスボスだ。うん、これはないな。



 六人目、悪戯な快楽主義者、アリス・アーデルハイト・クリムゾンクラット(通称アリス)。


 その能力やら性格やらの詳細は省くが……戦闘において強力な能力を持ってはいるものの、召喚したら何をしでかすか分からないラスボスとだけはここに明記しておく。







 さて、論外であるサーカシーとリリィさんを除けばこの六人が俺の召喚できるラスボスだ。


 ちなみに、俺に自分を永続召喚して欲しいと言ってきているのはアリスとボルスタインの二人のみ。


 だけど、この二人は召喚したら本気で何をしでかすか分からない。どちらも俺に対して敵意など見せていないが、そんな事は関係ない。この二人は害意なく他者を傷つけるどころか、好意を抱いている相手にすら良かれと思って攻撃を仕掛けたという前例がある(ゲーム内にて)。


 そんな危ない二人を永続召喚なんて……うん、ないな。特に永続召喚の後は俺、動けないんだから絶対にない。するとしてももっと俺が強くなってからだな。あの二人相手に今のままの俺では、ルゼルス達に守ってもらったとしても瞬殺される可能性がある。せめてもっとHP、耐性、魔耐を上げてからにしよう。


 これで永続召喚候補は残り四人。


 そして、危ないという観点から見るなら斬人とココウも除外。


 特に斬人はダメだ。あいつが俺を『悪』と認識したらどれだけルゼルス達が守ろうが、動けない俺は即殺される。問答無用のバッドエンドだ。


 ココウも召喚した後に勝負を挑まれたら、正直かなり困る。普通に死ぬ可能性がある。斬人と違ってあいつ相手ならまだ生き延びれるような気もするが、それでもそんな危ない橋をこんな日常シーンで渡る趣味はない。


 そして何より――この二人、俺を敵視しなかったとしても永続召喚したら絶対に勝手な行動を取る。

 斬人は新たな『悪』を見つけ出すため、ココウは新たな『強者』を求めて飛び出していく光景しか目に浮かばない。絶対に俺の力になってくれないだろう。それどころかこの世界に災厄を振りまいて、それに対して俺が対処する羽目になるところまでオチが見えた。ゆえにこの二人も後回しだ。


 となれば、永続召喚候補は残り二人。


 ・不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴ。

 ・秩序の支配者、クルベック・ザ・グロステリア。


 この二人は比較的安心して永続召喚できるイメージがある。


 なぜかと言うと、どちらも嘘を好まない性格であり、今のところ俺に対して敵意を見せていないからだ。

 そして、この二人のどっちを永続召喚するかと問われれば……答えは決まっている。



「よし――ウルウェイを永続召喚するか」


 その場に居た皆もウルウェイとは何度か会っている。そこそこ安心して呼び出せるラスボスだったということもあり、通常召喚頻度が高かったのだ。

 そんなウルウェイを永続召喚するという意見に反対する者は居なかった――


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