第57話『センカとルゼルス-5』
――センカ視点
そうして悩む中――ルゼルスさんが何かを思いついた様子でくすくすと笑いながら顔を上げます。
そうして彼女の出した案は――
「そうだ。ねぇセンカ。あなた、今日の夜にでもラースを襲いなさい」
「はい………………はい!?」
まさかの結論過ぎました。
「その、だって、えっと……確かにセンカも少しはそれを考えましたけどダメだと思いますよ!? ラース様だってそういうのを望まないでしょうし」
「そう……。まぁ、あなたがそう言うのならいいわ。せっかく最後のチャンスを上げようとしたのに……残念ね」
「最後のチャンス……ですか?」
何やら不穏な単語が聞こえたので聞き返してみます。
ルゼルスさんは挑発的な視線をセンカに向け、堂々と言い放ちました。
「ええ。だって、あなたが動かないのなら私は今日の夜にでもラースを押し倒すもの」
「押し!? な、なんでですか?」
まさかの結論(二回目)にセンカはもう驚きを微塵も隠せないまま、どうしてそうなったのかと問答を重ねます。
「なんでもなにも……ほら、センカも聞いたでしょう? 三年前に交わした私とラースの約束。あれを果たそうと思ったのよ」
「三年前の……約束ですか?」
なんでしょう。確かに何かそういうのがあったような気がします。
すぐにそれに思い至らないセンカに、ルゼルスさんが答えを告げます。
「忘れているのなら今一度教えてあげるわ。三年前、私はラースと約束したの。『私がラースを一人の男性として愛するようになったら三年後に結婚しましょう』とね。そうしたら坊やでは経験できない快楽をあなたに味わわせてあげる……なんて事も言ったわ」
「あ!!」
思い出しました。
それをセンカはすごく複雑な気分で見ていたことまでハッキリと思い出しました。
「と……という事はルゼルスさん。その約束を果たすという事はもしかして……」
そこまでセンカが言うとルゼルスさんは軽く「ええ」と答え――
「今の私はラースを一人の男性としてそこそこ愛しているわ。体を許してもいいと思える程度には……ね」
「うぐぅ!!」
いきなりの相思相愛宣言。
たまらずセンカは呻いてしまいます。
そんなセンカをくすくすと笑いながらルゼルスさんは見つめ、挑発的な眼差しを送ってきました。
「さて、どうするセンカ? あなたがその気なら私からもラースにお願いしてあげる。私はあなたにも幸せになってもらいたいしね。だけど、あなたがここで動かないような意気地なしだというなら……ラースの体は私が体の芯から芯まで味わい尽くし、三日後には私以外では満足できないような体にしてしまうわよ?」
「どんな脅迫ですかそれ!? やめてくださいよ!?」
「やめる? どうして? きっとラースは喜んで受け入れてくれるわ。それに私はあなたに対して最大限の譲歩をしているつもりよ。嫌ならあなたは一歩踏み出せばいいのよ。それすら出来ない相手に私が遠慮する必要なんてないでしょう? くすくすくす」
正論を叩きつけてくるルゼルスさん。
そもそも、こうしてチャンスを貰っている現状がセンカにとってはありがたい事なんですし、文句なんて言えません。
そしてこの選択の前に、センカの答えなんて決まってます。
ラース様はルゼルスさんの言う通り、絶対にルゼルスさんを受け入れるでしょう。つまり、ここでセンカが退いてしまえばもう一生センカがラース様と結ばれることはない。
となれば……一歩踏み出すしかないじゃないですかもう!!
「ああ、分かりましたよ! 襲えばいいんでしょう襲えば!」
「くすくす。そうでなくっちゃ」
な、なんでしょう。この乗せられてしまった感じ。
これが数百年を生きた人の策略というやつなのでしょうか。こういう部分もやはり凄いなぁと思ってしまいます。とてもセンカにはたどり着ける境地じゃないです。
本当に……ルゼルスさんにはいろんな意味で敵いません。
センカはそのことが少しだけおかしくて「くすっ」と軽く笑ってしまいます。
そして、やる気を出す為に両拳を握り締めた後、ルゼルスさんの手を取って駆けだします。
「そうと決まれば……食材の買い出しを続けますよ、ルゼルスさん」
「あら? もう買い出しを終わったのではないの?」
「作るつもりだった料理を思いっきり変更します。ラース様には精のつく料理を食べてもらうんです!」
「くすくす。なんだ。思ったよりもやる気じゃない」
やる気を無理やり引き出しているだけだ。
ヤケクソとも言います。
そうしてセンカとルゼルスさんは……一度終わったはずの買い出しへと再度向かう事になりました。
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